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【インタビュー記事】HSP・内向型の強みを生かして自分らしい働き方を見つける 第1回 数学家庭教師・ホモルーデンスさん・前編

現在、フリーの家庭教師として活躍されている、数学のエンターテインメント教師ホモルーデンスさん。HSP気質やうつ病などの生きづらさを抱えながら、ご自身なりの働き方を見つけるまでの過程についてインタビューさせていただきました。心と身体を整える方法、言葉では入りこめない深い部分へのアクセス、これからの将来像など、興味深いお話を伺うことが出来ました。(聞き手・文:nagisa)

※注:タイトルにある内向型とは、「内気」という意味ではなく、関心が外よりも自分自身に向かっている人や、深い洞察力を持つ人たちのことを指します。

ホモルーデンスさん写真

ホモルーデンス
職業:オンラインで数学の家庭教師(中学・高校数学)大学受験指導、学校の補習、定期テスト対策など。
1972年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒。1995年、在学中に国家公務員1種試験合格。2000年にキネシオロジーと出会い、その後ブレインジムのインストラクター資格取得。2002年ごろHSPの概念と出会い「これだ!」と腑に落ちる。2012年以降、個別指導塾で講師として働きながら、英語の翻訳業も兼業。大手チェーン塾に移籍後、英語や数学を延べ120名ほどを指導。2018年、ライフワークコンサルを受けて、「数学が一番やりたいこと」だと気づく。その後2019年から、オンラインで数学の個別指導を行う。基本に忠実な指導法、親しみやすい人柄に定評がある。
アメブロ: https://ameblo.jp/homo-ludens3839/
note:https://note.com/homoludens3839/

長いフリーター生活時代

―まず、大学をご卒業されてから、現在の仕事にたどりつくまでの経緯についてお伺いしたいのですが、長い間大手塾に勤めながら個別指導をされていたということですね。

その前に、大学卒業後、長いフリーター生活があったんです。大学在学中に国家公務員1種試験に合格しましたが、面接で不合格になりました。霞が関の官庁訪問のために上京した頃から涙が止まらない、「死にたい」という気持ちが離れない、など心の不調を感じていました。多分鬱病を発症していたのだと思います。2018年2月に鬱病の診断を受けたのですが、その時と症状が似通っている、いやもしかしたら、就職活動の時がもっときつかったかもしれません。
事実上就職活動をやめて、卒業後はそのままフリーターになりました。1999年から、大阪にあった銀行系列のコンサルティング会社にアルバイトとして7年間勤めました。

―その会社はどのような経緯で勤めることになったのですか。

学生時代の友人が、ちょっとバイトを探しているというので。最初は実家から大阪に通っていました。当時は、時給とはいえ、まあまあの定収入がありましたね。そのうち、これも人づてで、京都の町屋を又貸ししてもらって、一人暮らしを始めました。幽霊が出そうな古い家に家賃15,000円で。実家を出られるならどこでもよかったんですよ。

―長い間そこに住んでいたんですか。

半年くらいで、いったん実家に戻りました。京都に暮らすようになって、職場のある大阪にも通いやすくなって。

キネシオロジーとの出会い

―うつ病を治療しながら、アルバイトもされていた。

当時うつ病という自覚はなくて。その時通っていた心療内科は、投薬治療ではなく対話的な方法を使う心療内科でした。1997年5月に通いはじめ、2000年にやめて別の方法に乗り換えました。先ほどお話した京都の知り合いのつてで、「キネシオロジー」というのを知って、通い始めます。対話療法とは違って、キネシオロジーは筋反射を使い、心の声を体に聞く手法です。

※キネシオロジー:アメリカで、カイロプラクティックを母体として、東洋医学など様々な治療法を統合して生まれた(諸説あり)。当初は医師など専門家しか学ぶことができない治療法だったが、ジョン・シー博士が、一般の人が使える民間療法「タッチフォーヘルス」として作り替えた。

タッチフォーヘルス

▲キネシオロジーの体系概念図 タッチフォーヘルス協会より転用

―辛いことを語ったりする手法とは違うんですね。

人が言葉にできるのって本当に一部分ですよね。嫌な記憶は体にたまっているんです。体にたまっている嫌な記憶を、釣り針でひょいひょいと釣り上げるような、体系だった仕組みがあるんです。キネシオロジーには「タッチフォーヘルス」という家庭で使える手法があって。たまたま、日本にキネシオロジーを伝えた第一人者の方と京都で知り合いになったんです。「変わったカウンセリングするんですよ~」と言われて、好奇心半分で受けてみました。実際に体験してみると、対話式のカウンセリングよりも体が軽くなったんです。その人はちょっと手を押してみたり、音叉をチーンとならしてみたり、やってることが謎なんです(笑)。謎なんですけど、心療内科でしゃべっているときより、たぶんリーチするところが深いんだと思います。

―なるほど。表面的な言葉のやり取りよりも、身体の声を聴くキネシオロジーの手法のほうが、根源的なトラウマにアプローチできたという実感を得たわけですね

今で言うとそういう言葉になる。だけど、当時はそんなにちゃんと言語化できていたわけではなかった。でも心療内科の対話型カウンセリングより、明らかにいい感じがしたので、私はさっさとそっちに乗り換えちゃった。ここら辺、私は、「いい感じ」というノリの軽さで動いちゃうところがありますね。このノリの軽さが結局、後の人生で何度も私を救いました。

―そのキネシオロジーを現在までずっと実践されているわけですね。2014年にインストラクターの資格も取得されたのですよね。ブレインジムとキネシオロジーとは同じものですか?

はい、ブレインジムは教育向けに特化したキネシオロジーだと思っていただければいいと思います。この場合の「教育」は、学校の勉強にとどまらず、音楽とかスポーツにも応用できるものです。人が何か新しいこと、もしくは新しくなくてもいいんですが、日々の生活で出会ういろいろなことを、よりスムーズにできるように、脳と体の連携をするための手法です。例えば、数学をこれから勉強したいというときに、あんなエクササイズやこんなエクササイズをすると、頭に入りやすいというものがあります。経験則で、まだ科学的な証明は追い付いていないんですけど。もともと、学習障害のある人向けに開発されたものらしくて。診断名がついていなくても、人は状況によって固まったり、凍ったり、スムーズにできなかったりしますよね。テストとか大事な本番で真っ白になったりします。そういうときに、このエクササイズがあると、お守りとして良いのです。自分なりの態勢を整えるために使えるんです。気合ではなく、再現性のある方法で乗り越えられます。

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▲「ブレインジム101」の教本。

「ゾーン」を自分で作り出せる技術

―メンタルと受験は非常に関わりがありますよね。根性論みたいなものは受験には付き物じゃないですか。問題集を何回、何十回解いたかみたいな方法で、自分に自信をつけさせようとする。受験は一発勝負なので、最後のほうで、どうしても精神論というか根性論みたいなのが出てくるわけです、そこを、がむしゃらな根性論に頼らずに、自分の力で自分の持っている力を最大限に発揮するための技術みたいな感じですかね。

そうです。ちょっとしたエクササイズでかなり楽になる。私が教わった先生のクラスには、バレエのダンサーもいたんです。これはその先生が言っていたことですが、例えば、バレエダンサーがある技を決めるために、1000回練習したとする。このエクササイズをすると、1000回じゃなくて、もしかすると20回くらいでできるようになると。しかも、これが大事なんですが「気分が楽にできる」。そういう差がある。

―確かに、スポーツの分野でも、緊張するよりリラックスしていないと最大限の力を出せないと言いますよね。

「ゾーンに入る」とか言いますよね。リラックスしつつ集中しているという。その「ゾーン」の状態に持っていくための、一つの方法といえます。

―「ゾーン」を自分で作りだせる方法ということですね。

いろいろ振り回されるできごとがあっても、自分の軸に戻ってこられる技術です。竹が風に吹かれてしなっても、元に戻ってこられますね。

―レジリエンス(強靱性)みたいな。

人は、松になってしまうことが多いんですよ。松は堅いんですが、雪が降りつもると、あるとき枝がバキっと折れてしまう。気楽にとか、大丈夫とか言い聞かせても、人は気が楽にならないし、大丈夫にもならない(笑)。それだったらみんな受験で失敗しないですよ。逆に、安心させるために、問題集を何十回解いても、数学は回数ではカバーできないところがあります。より詳しくは、教育キネシオロジー協会の私の文章を読んでいただければ分かりやすいと思いますが。(NPO法人日本教育キネシオロジー協会『えでゅけ』27号、2019、p. 2. http://edu-k.jp/img/edu-k/pdf/27-2.pdf

―そうなんですね。計算問題とか、回数をこなすことでミスが少なくなっていくというイメージがありました。

ある程度の問題はそれでいけるんです。回数をこなすことがいけないと言っているわけではない。だけど、覚えたことを当てはめるだけでは解けない、ひねりの利いた問題は、回数をこなすだけでは解けるようになりません。

―ひらめきみたいなものだったり、もっと頭の中で考えるような問題。

そうです。これもポイントですが、ブレインジムはあくまで、自分がやりたいと思っている分野に使うものであって、数学に興味がない人に、興味を持たせるために使うものではありません。そこは超大事。「うちの子数学嫌いなんでどうにかしてください」っていう人には対応しませんし、お子さんの興味に反することを強制はしない。

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▲正五角形がテーマの問題。素朴な設定で考えさせる

HSP概念との出会い~「1%」の自分

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▲HSPに関する書籍も原著で読破。Elaine N. Aron Ph.D., The Highly Sensitive Person: How to Thrive When the World Overwhelms You, Harmony, 1997.
(日本語版:エレイン・N・アーロン『敏感すぎる私の活かし方 高感度から才能を引き出す発想術』片桐恵理子訳、パンローリング株式会社、2020)

―HSPである事を知ったのは2002年ごろとお聞きしましたが、すごく早い時期ですね。

たまたま、『AERA(アエラ)』(朝日新聞出版)という雑誌の特集があったので知りました。キネシオロジーのセッションを受けていたセラピストに、「見てみて、こんなの載ってる~。HSPの人は敏感度上位20%だって」と言ったら、その方に「いや、あんたの敏感さは1%だから」とさらっと言われまして(笑)。その人もいろんな人を見てるから、私の尖り具合がわかったらしく。

―1%だと(笑)。

「1%ということは、世の中の99%向けに作られてることが、あなたには合わないってこと」と言われました。その代わり、「1%しか出来ないことをやったら、残りの99%は追い付かないよね」、と言われて。

―その考えはいいですね。自分が弱みと感じていたことが、逆に強みになるという逆転の発想ですね。

そうですね。強みになるという発想をはじめて意識して。その人はHSPの専門家ではないけれど、キネシオロジーのセッションの時にそういう「1%」とかの話をしてくれて。

―見抜いてくださったんですね。

それで、私がHSPの特性を生かしたなと感じるのが、語学の学習でした。私はその頃までに英語だけでなく、ドイツ語、ロシア語、ラテン語、スペイン語とインドネシア語に手を出したことがありました。ほとんど忘れたものや、あいさつ程度、旅行会話ぐらいなど、レベルは色々です。2002年に韓国語を学び始めましたが、その上達がとても速かったんですよ。頭にすっと入ってきたし、「発音がいい」とか、「言語感覚がいい」と先生に言われて。「私は向いてるのかな」と。おそらく、HSPの気質として、私の場合は音に関する感度が良くて、発音をまねするときに使えるんです。HSPがいい方向に働いている状況ですね。

―微妙な差の違いがわかる。他の人よりも上達が早いということで、他の人よりも、優れた能力があるということに自分で気づいたと。

元々勉強するのが得意なので、他の言語を学んだ時の言語習得のプロセスを当てはめれば、要領よく学べます。語学を学んだり勉強をしたりすることが好きだし、上達が早かったということですね。

「翻訳」で自分の強みを生かす

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▲ホモルーデンスさんが翻訳に携わった、ジョン・シー、マシュー・シー『完全版タッチフォーヘルス』石丸賢一訳、日本キネシオロジー総合学院、2016年。

―その後、翻訳のお仕事もされていたんですね。

2008年ぐらいから、ポツポツとはじめるようになりました。思い返せば2000年ぐらいからボランティアで翻訳をしていましたね。環境ニュースを和訳する仕事など。NPOのメンバーになって、海外のニュースサイトの文章を訳して、関東にいる代表にメールで送ると、代表がニュースレターに私の和訳を載せるというものでした。そして2008年ごろから、お金をいただいて単発でやるようになりました。

―それはまとまったお金を得られるような分量ですか?

そうは言っても、数万とか。ただやはり、お金が入ると嬉しいものです。

―ご自身の能力を、仕事に生かしていたということですね。

言葉の細かいニュアンスを捉えて、できるだけこなれた日本語にすることと、英語の元の意味を損なわないようにする間の微妙な綱渡りを続けていく。仕事では好評を得ていました。HSPは雑になれない性質ですので。

―丁寧な仕事を評価してくれていたんですね。

はい。でも、雑にできない性質が裏目に出ると安くこき使われますよね。誰の仕事をするか、能力相応に払ってくれる人の仕事をするのがとても大事です。幸いにして私は、キネシオロジーのセラピストさんなど、才能を見出す人にそこそこ恵まれていたので、擦り切れるまで仕事をさせるような人を避けられました。

―最初のアルバイトも含めて、それはほぼ毎日出勤するような仕事だったのでしょうか。

その時々で違いますね。基本的には毎日出勤することが多かった。銀行系コンサルティング会社の職場環境は結構よかったので7年続いたのだと思います。つらかったことは、最初の正規就職だった環境系施設は、人に紹介してもらって始めたところなので、簡単にやめられなかった。それと、私によくあることなのですが、周りに相談できる人がいなかった。

―相談してもなかなかわかってもらえないですしね。

相談で何とかできるのって悩みのほんの少しですね。私は悩みの深さが違うようで、話さなければよかったと思うことがすごく多い。逆に人の言葉に励まされた経験がすごく少ない。相談すると余計なことを言われてモヤモヤすることが多かった。本を読んで助かったことの方が多いんです。

スピリチュアルセミナー通いと塾講師

―人に相談するよりも、本を読んだり、HSPの概念を知ったり、キネシオロジーの実践といった、自分との対話の経験が重要だったわけですね。キネシオロジーの先生には相談をされていたわけではないんですか?

そうですね。日ごろの細かい相談をする相手ではなかった。それなりにお金もかかるし。たまにやり取りして、そろそろセッションを、みたいな。セッションも2012年ごろには受けなくなって、キネシオロジー関連のセミナーを受けるようになりました。そこで出会った人とは内面の色々な話をしていました。

―スピリチュアルなセミナーでしょうか。

もともとキネシオロジーは深層意識だとか潜在意識だとか、言葉にならない部分を拾い上げる手法なので、スピリチュアルなものとの親和性は強いわけです。私も4泊5日女性限定合宿、サイキックだかスピリチュアルだかのセミナーに参加したことがあります。キネシオロジーとは関係してるけど、怪しい世界というか(笑)。結構高額ですよ。自腹切っていきましたが20万くらいしましたよ。

―へぇ~。合宿では四六時中ワークをやるという感じなんですか。

そんな怪しいところに来るのが10人くらいなんですが、海外講師が、中国式気功とキネシオロジーを合わせたようなワークをしました。講師は実業家の生まれで、ビジネスと結びつけるのが上手かったですね。セラピー貧乏の対極にあるようなお金を作れる人(笑)。

―キネシオロジーは世界で広がっているんですね。

私も全容はわかりませんが、かなりの人が愛用しているようです。その頃、個別指導で中学生を指導していたんですが、ワークを受けた後に中学生の反応がすごくよくなった。ワークを授業に取り入れたわけではありませんが、どうも私の雰囲気が変わるらしいんですね。これは今に至るまで大事にしていることなんですが、講師の雰囲気が、お客様、つまり生徒さんや親御さんが私を選ぶ時の決め手になるようです。雰囲気をどうするかっていうのは、スキルを磨くということとは別なんです。知識がある、難しい問題を解けるというスキルの問題ではなく、その人自身の雰囲気ということです。

―にじみ出るオーラみたいなものですかね。

それです。特に10代の子供って何かを感知するらしく、磁石に吸い寄せられるように寄ってきて、とうとう人気講師になりました。いくらスキルや知識があっても、お疲れ気味のどんよりした雰囲気の人と、キラキラとしている人がいれば、大人より子どもはダイレクトにわかるんです。思春期の難しい年ごろの生徒たちですから、舐めた態度を取ったりすることもあります。それでも、生徒たちの反応はすごくよかった。言葉がけに注意するとか、鉄板のジョークを言うとか、マニュアルに合わせた対応をしていたわけではありません。私は勉強が好きだから勉強の話をするだけです。そして、仕事の時だけ明るいキャラを作るようなことはしていません。

―基本的には素の自分に近い状態でいたという。塾講師としてのスキルを磨くというよりも、そもそもの自分の人間力みたいなものを高めるというか、自分自身を整えていくということをやっていたと。

その効果がとても高いということを実感したので、その方面のことを、スキルを磨くこととは別にやっていましたね。もちろん、スキルを磨くこともしましたけど。久しぶりに中学数学を教え始めたら、初めは全然できなかった。中学数学も怪しいレベルで始めたんですよ。

―とはいっても、ちゃんとできてるレベルだと思いますけどね(笑)。

教え始めたら次々に思い出しました。三角形の合同ってこういう風にしたな~とか。問題をどんどん勝手に解いて、県立高校の入試問題を解いて一人で喜んだりして、楽しかったですね。もともと勉強好きなので、「昔こんなの解いたな~。昔より難しくなってないか」とか言いながら(笑)。生徒に教えることが1としたら、10ぐらい勉強していましたね。

(後編へ続く)

後編では、ホモルーデンスさんがなぜ、「数学」を選んだのか、そして「やりたいこと」の熱意に蓋をしていた自分に気づき、新しい挑戦へと進んでいく軌跡について伺いました。近日中に公開します。

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