ビジネルホテルで食べる本当に旨い冷凍担々麺
すごいタイミングで出会ってしまった。
出張中、晩ごはん何食べよう?寒い一日だったからラーメンもいいな。餃子も食べられる町中華もいいよな。なんて考えていたが、ホテルに入り、ベッドに腰かけたら外食することが億劫になってしまった。
こういう時は地元のスーパーに限る。出口近くにある総菜コーナーを目指す。黄色い紙に赤文字で大胆に書かれたポップが止まれ!と私に訴える。
「レンジでできる本当に旨い担々麺知ってますか?」
そんなのは聞いたこともありません……ポップに即レス。
「本当に旨い担々麺はレンジでできる」
この「で」に漲る自信よ。商品コピーを読んだ瞬間、もう他のものは考えられなくなっていた。容器もついてるし、これはいける。
サッポロ黒ラベル、お茶サワー、チラシ寿司と冷凍担々麺を抱え、ホテルへ帰る。しかし7Fの客室までのエレベーター(EV)である疑念を抱いた。
” ホテルに電子レンジあるんやろか…… "
ビジネスホテルに電子レンジは標準と思い込んでいた。EV内の案内を凝視する。
『2F 自動販売機、ランドリー、風呂 』
『1F フロント、ドリンクコーナー』
さすがにレンジの記載まではないか。
ひとまずビールとチラシ寿司で空腹を満たそう。ビールとチラシ寿司の相性の良さときたら。気分に応じて刺身オンリーでも楽しめる。チビチビと食べてはビールを流し込む。
うん、今日のセレクト間違いない。担々麺とお茶サワーで気持ちよく締めたい。
そうだ!風呂に入るついでに2Fでレンジを探してみよう。自販機の横に置いてあるイメージなんだよな。やつはちょっとの隙間があれば忍ぶことができる。入り組んだ凹みまで、くまなくチェックする。
が、ない、ないよ!さては1Fに忍んでいるか?風呂上がり、ドリンクコーナーに立ち寄りレンジを探す。ジュースをコップに注ぎ、素早く左右に視線を泳がせる。
ドリンクコーナー、フロント付近。ない、ない……いや、ちょ待てよ……入口の風除室のガラス越し。真っ白で端正な顔立ちのやつと目があった。よりによって一番人目につく入口横に置いてある。。
すぐ部屋に戻り担々麺の作り方を確認。内側の線まで飲料水を注ぐ。7分30秒チンか。ここからは時間との闘いだ。ミッション:インポッシブルのテーマが脳内で再生される。
(ここからは音楽と一緒によろしければどうぞ)
そっとレジ袋に入れ容器ごと両手で抱える。いや、ちょっと待て。これじゃ完成した時、容器めちゃんこ熱くなって持てねえんじゃねえ?
そうだ!バスタオルだ!水分を含んだバスタオルでビニールをくるみ、タンタンを抱えまたEVに乗り込む。
5、4、3……誰も乗って来ないでくれ。
チン!2F?止まった。
館内着でメガネをかけた女性が乗り込んできた。風呂上がりかいい香りがする。幸いにもオレのタンタンはまだ匂いを発していない。「お先どうぞ」メガネ女子を視線で見送る。
フロントは無人。来客なし。ドリンクコーナーも人なし。絶好のチャンス!
レンジにタンタンをぶち込み、500Wで8分セット。しかし、ここからが結構長い。
あと5分というところで、スエット上下の若者がドリンクバーに向かう。風呂上がりか。メロンソーダを注ぐ。腰に手を当てすぐにその場で全部飲み干した。そしてコーラを並々注ぐ。おかわりかよ。よほど喉が渇いているんだな兄ちゃん。でも早く部屋へ帰ってくれ。
待ちあわせを装い、レンジの前に立ちスマホをいじる。
あと3分のところで大きなリュックを背負った小柄な女性がホテルに駆け込んできた。女性客が受付を始める。
レンジのタンタンがグツグツと声をあげて私を呼んでいる。小柄な女性はフロントで駐車券を掲げて云々言っている。私の勝ちだ。チン!
素早く取りだしビニール&タオルで丁寧にタンタンを包みこむ。あとは食すのみ。EVに乗りこみ素早くドアを閉める。EVが動き出した。
チン!2F!
なんと男性が乗り込んできた。ニヤニヤして赤ら顔で完全に出来あがっとる。手にはミネラルウォーター……酔い覚ましか。
「何階ですか?」俯きながら静かに聞いて、片手でそっと5Fのボタンを押す。エレベーター中にタンタンの香ばしい匂いが充満している。男性の鼻が犬のように滑らかにクンクン動いているのがドアに反射して見える。心拍数が上がる。トムの気持ち、今ならわかる。
3、4、チン。5Fに到着。男性がEVから降りる。
ここからはスローモーション。
振り向く男性。
ほとばしる笑顔。
「ほんといい匂いだねぇ、またお腹空いちゃうよねぇ」
あまりに屈託のない笑顔にこちらが恥ずかしくなって、へへっとハニカミながら彼を見送ることしかできなかった。
こうして私のミッションはあえなく幕を閉じた。こんなことなら最初から堂々とタンタンすれば良かった。あと悔やむべきは蓋だ。蓋さえあったら容器をそのまま運搬できたはず。
でも最後に出会った男性の笑顔になんだか救われた。やっと解放されたタンタンから立ちのぼる湯気。麺をゆーっくりかき混ぜスープに馴染ませる。
タンタンの香りはどうしてこんなにも食欲をかきたてるのだろうか。ありがとうタンタン。
ズルズルズルズル〜勢いよく麺を吸い込む。
ぬっるっ!!
完全に温め不十分。途中でかき混ぜる必要があったか…そんなことまで確認する余裕がなかった。
でもこのタンタン、麺はモチモチ。コクがあってミルキーなスープは奥深い味わい。ミッションは失敗したが、レンジでできる本当に旨い担々麺である事は間違いなかった。
改良点が一つだけあるとすれば蓋だ。蓋さえあれば均一に熱を入れることもできたはず。
そんなどうでもいいことを妄想しながら飲むお茶サワーもまた最高だった。
本当に旨い冷凍担々麺は自宅でゆっくりチンして満を持して食べることをオススメしたい。