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おでんと熱燗,染みる夜

※空腹時にはおでんを食べたくなる禁断症状が出ますので、お読みにならないようお願いします。

今年一番冷えた一日だった。

寒さで頭も身体もフリーズしている。昨日は20度近くあったはずだ。半袖着てたのに。この寒暖差はアラフィフおやじの身体には堪える。

「秋田で初雪を観測しました!」

どこかワクワクした感じのキャスターの姉さん。

それにしても急すぎるで……。
50㎝先にしか届かない独り言をつぶやく。

祝日なので家族はだれも起きてこない。珈琲を飲み、ニュースをほげーっと見ながら過ごしていたらもうこんな時間!休み気分だったけど今日は仕事だ。

さっぶっっ!

家を出た瞬間思わず背中が丸くなる。気圧の変化か下を向くたびに頭の奥がズキズキと痛む。季節の変わり目に身体が痛むのも歳のせいか。。。

そんな日に限って、次から次へとイレギュラー案件が立て込み、お昼も食べる暇がないくらい忙しい1日だった。

時間を見るともう15時。
ちょうど奥さんからLINE通知。

今日は寒いから仕込んでます。
早く帰れるといいね。頑張って。


グッ、グオッ、グュルォォォォooooo

写真を見た瞬間、お腹が悲鳴をあげた。申し訳なさのかけらもなく、無遠慮に泣き叫ぶ正直な我が腹を可愛く感じる。疲れてるんやろか。

ごめん我が腹よ、今日はこの後も予定が立て込んでいる。夕方から取引先とのミーティングだ。

言いにくい事を伝えなければいけない。簡単におさまるような内容ではない話しあい。

よりによっておでんの日に。。

案の定、思った通りに進まず、同じ議論を行ったりきたり。お互い推し黙ったり、結論の出ぬまま2時間経過。また後日に持ち越すことになった。

仕事をしてりゃこんな事もあるさ。と自分に言い聞かせながらも先方を見送った瞬間、ドッと疲れが押し寄せる。

緊張から解放されて駅のトイレで大きな深呼吸していたら奥さんからLINE。

煮えましたよ


温かいおでんが待っている。
丸まった背筋を伸ばし、階段を一段飛ばしでズンズンとホームへ急ぐ。

細かい事情は知らずとも、こういう絶妙なタイミングで奥さんに救われることがよくある。ありがたい。

家に入る前からおでんのいい匂い。
この匂いで飲めるぞ。

お・で・ん!お・で・ん!

気持ち弾ませ家に帰ると……、

「おつかれ!息子くんお風呂いれてくんない?」

お、で、ん、がまた遠のく。。わかりました。

こんな美味しそうなおでんを作ってくれた奥さんに逆らう由もない。餌を待つ犬の如く僕は従順だ。

風呂上がりに赤ら顔で、アツアツのおでんを食べている自分を想像して気持ちをアゲル。

しかし、こんな時に限って2歳息子がグズる。

(おでん早く食べたいから)
「お風呂はーいろ!」

「イーヤ!」

(おでん早く食べたいからいい加減)
「早く風呂はーいろ!」

抱きかかえようとすると……、

「イヤァー!悲鳴!」

押し問答をしていたら「これどう?」と奥さんがキッチンから卵パックのようなプラスチックの入れ物を息子に見せる。

息子の目がキラリと光る。さすが奥さん。

(おでん早く食べたいからてめーこのやろー)
「これでお風呂であーそぼ!」

息子の表情が一気に晴れてウキウキモード。急いで風呂に入る。息子は卵バックに水を入れたり、捨てたりとご満悦。

風呂からあがると、部屋中がおでん臭。

贅沢なおでん一人鍋

味噌・みりん・砂糖で作った味噌ダレに、スダチを絞って食べるのがおススメだそう。

そして、おでんの最高のパートナーである秋田の酒、高清水を熱燗で。最高かよ。

何食べよう………?

グツグツ音のするおでんを見ながらツバを飲む。

大好きな練り物か。
しみしみの厚揚げか。
煮込まれ肥えた、ちくわぶも捨てがたい。

いや、これだ。

昼過ぎから煮込まれ、クタクタになった大根を鍋奥から掬い出す。

照りが目にしみる。スッと箸がはいった瞬間にニンマリと勝利を確信。一口大に切った大根にカボスを絞り、味噌ダレをほんの少しつけて口にいれる。

ん、ん、うんまぁ!!


思わず声にならない声が出る。

昆布や練り物の旨味、大根の甘みが口の中にとめどなく広がる。味噌だれが味に奥行きを出して、カボスがキュッと後味を引き締め上品な仕上がり。

おでんの余韻が冷めないうちに高清水を流し込む。キリッと辛口。その後に広がる米の甘さ。鼻からふんわり抜けて体の芯からリラックスしていた。もう一回言うよ。最高かよ、奥さん。

その後もこんにゃく、つみれ、厚揚げ、さつま揚げとカラシもつけて味変しながら舌鼓をうつ。

永遠に食べていたいが、大量に入っていたおでんも残すところあとわずか。最後は玉子でしめる。

玉子を箸で細かく切って、白身の凹んだ部分におでんのダシを入れて、ダシごと飲むように食うのがうまいんだよな。

小皿にいれたおでんダシが黄色く染まっていく。最後はこれもすべて飲み干して締めるのだ。

これが卵の一番うまい食べ方なんだよねぇ。
赤ら顔で語っていたら、それを見ていた7歳三女が……


きっもちわるっ!


浴びる軽蔑のまなざし。孤独のグルメ化して気持ちよくなっていたが一気に現実に戻る。

洗い物しながら笑ってるけど、実はこれ奥さんもめっちゃ好きな食べ方やで。

今年一番嬉しいご飯だった。


鍋のおでんはもう冷えきっていたけれど、いつまでも身体はポカポカと温かい染みに染みた冬の始まりだった。

今日もよく冷えている。お好み焼きでも作ってみんなの帰りを待つことにしよう。

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