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日本の購買環境を変える鍵は、買い手ファーストのインサイドセールスにある


日本のマーケットはどのような変化の中にあり、今後どのように進化していくのか。
日本のインサイドセールス業界を牽引し続ける茂野氏と、株式会社インフォボックス代表の平沼氏が対談。インサイドセールス業界の変化と課題、infoboxがどのように購買環境を変えていくのかについて、熱く語り合いました。

◎茂野明彦プロフィール
2012年、株式会社セールスフォース・ドットコムに⼊社。 グローバルで初のインサイドセールス企画トレーニング部⾨を⽴ち上げると同時に、 アジア太平洋地域のトレーニング体制構築⽀援を実施。2016年、株式会社ビズリーチ⼊社。インサイドセールス部⾨の⽴ち上げ、ビジネスマーケティング部部⻑、営業責任者を歴任。2022年、株式会社インサイドセールスプラスを創業。著書に「インサイドセールス–訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド-(翔泳社)」

◎平沼海統プロフィール
2018年に営業代行会社に入社。アウトバウンドのコールセンターでトップの成績を収め、営業効率の重要性を実感。この経験をきっかけに 2018年7月株式会社インフォボックスを設立。


◎株式会社インフォボックス
株式会社インフォボックスは、営業現場の課題をテクノロジーで解決するスタートアップです。市場リサーチ・企業リスト作成・決裁者アプローチを一気通貫で実現する営業データプラットフォーム「infobox」を提供しています。
https://product.info-box.jp

インサイドセールスの市場は、この10年で急速に広がった

平沼:
茂野さんは日本のインサイドセールス業界を、長くリードし続けてきた存在かと思います。当時の業界はどんな様子でしたか?

茂野:
僕がインサイドセールスとしてのキャリアをスタートしたのは、もう10年以上前。株式会社セールスフォース・ドットコム(現:株式会社セールスフォース・ジャパン)に転職したのがきっかけです。フィールドセールスをしたいという思いで入社したので、インサイドセールスのポジションを勧められた時は少しネガティブな気持ちもありました。それまで、別の会社で事業責任者として30名弱のマネジメントや研修等を担うなど積み重ねてきた経験値もあったので「いまさらテレアポをするの?」と、キャリアを一からやり直すような感覚もありました。

ただ、実際にインサイドセールスとして仕事を始めると日々新しい学びばかり。セールスフォース社では、インサイドセールス含めたセールスの仕組みがよく体系化されていたんです。
問い合わせいただいたお客様に対して、素早く適切なフォローの連絡をすると「急いで情報収集していたので本当に助かった」というような声をもらうこともありました。また、インサイドセールスの仕組み自体に興味を持ってくださり「このノウハウごと売ってくれないか」と言われたこともありましたね。お客様のフィードバックを肌で感じて、この先インサイドセールスという概念や職種は大きな市場になっていくんだろうなと感じましたし、ネガティブな気持ちはすぐに吹き飛びました。

平沼:
セールスフォース社の取り組みは、当時から先進的なものだったのかなと思います。世間一般で見ると、インサイドセールスの概念はどのくらい浸透していましたか?

茂野:
当時は、個人情報をインターネット上に保存するなんて心配、という声の多い時代でした。分業制を敷いている企業も少なく、インサイドセールスという言葉の認知もほとんどありませんでした。
ただ、インサイドセールスがどういうものかを詳細に説明すると「まさしくそういうことを自分の組織でやりたいんだ」という経営者やマネージャーの声は多かったです。

平沼:
時代が求めていたものだったんですね。
当時、茂野さんが感じていたインサイドセールスへの可能性と今の状況を比較して、何か感じることはありますか?

茂野:
今は、一定以上の組織であれば、インサイドセールス専任のチームがありますし、そうでなくてもインサイドセールス的な動きはどの営業組織でも当たり前のように実施していますよね。欧米で流行ったものが日本でも再現される流れはよくありますが、ここまで日本社会にスムーズにインストールされて、関連ビジネスも広がっていくとは思っていませんでした。当時の想定よりも、より大きなマーケットになったなと感じます。

テクノロジーを正しく使うことの大切さと難しさ

平沼:
ある程度市場が成熟した今だからこそ感じる、インサイドセールス業界の課題感はありますか?

茂野:
テクノロジーが急速に発展しているからこそ、正しく使いこなす必要があるなと思います。例えば、今の技術を使えばウェブサイトをクローリングして自動的に企業のメールアドレスを収集、手当たり次第にメールを送る、なんてこともできてしまいます。ただ、そんなことをしても受け取った側のニーズにマッチする可能性は限りなく低いですし、ブランドのイメージを毀損しかねない。送る側の手間も増えますし、マイナスなことしかありません。
テクノロジーをいかに顧客=買い手のために使えるかという姿勢が、これからの企業に求められるセールスのあり方だと思います。

平沼:
「買い手」をまず意識するという考え方は、茂野さんに影響を受けて改めて強く意識するようになりました。茂野さんにはじめてお会いした時のプレゼンで、僕は「売り手も買い手も幸せに」という言葉を使ったんです。それに対して「買い手を先に持ってこよう」と言われたのが強く印象に残っています。

茂野:
日々の言葉の使い方にはこだわっています。インサイドセールスは多くのお客様と接することの多い仕事ですし、複数回ご連絡することもあります。そんな仕事だからこそ、とにかくサービスの先にいる「顧客=買い手」を常に優先すべきだと思っています。

もちろんビジネスなので葛藤もあります。特に新しい事業を立ち上げる際、焦りや市場開拓の速度を優先することで購買体験を既存することもありますし、とにかく行動量、数字優先で組織をマネジメントしたこともあります。でもやはり継続して成長できるのは、買い手のことを意識しながら正しく勝てる企業だと思いますし、難しいけれどそこを両立させるのがビジネスの楽しい部分ですよね。

欧米と日本のマーケットは違うからこそ、買い手ファーストの姿勢を

茂野:
セールス業界でいうと、欧米と日本ではマーケットの性質が明らかに違うのでそこは注意すべき点です。
例えばアメリカで、ウェブクローリングして連絡先を収集、一斉メールを送信した後に、顧客側で必要性を判断してオプトアウトしてもらうといった流れを実施したとして、法律的にも顧客感情としても特に不都合はないでしょう。ただ日本の場合、法律の壁はもちろん、消費者感情や個人情報に対するあり方にも特別な配慮が必要です。
日本のマーケットで正しく勝負していくためには、買い手と誠実に向き合って応援される存在になることが大事です。

平沼:
企業としての信念を持って、顧客から応援されるやり方でやりきるってことですよね。
茂野さんとの出会いは、まだinfoboxの構想すら無い頃。
資金調達も完了し事業としてのギアを上げている今、売り手主導でプロダクトを作ってローンチしていくのが、最もスピード感のある選択肢かもしれません。ですが、経営上の判断をする時はいつも茂野さんの存在が頭の片隅に浮かんで「買い手のことをちゃんと考えられているのか」と、問いかけられている気がします。

一人の力ではなく、組織の力で未来を変える

平沼:
茂野さんは様々な起業家・経営者の方を見てきたかと思いますが、その資質について何か考えることはありますか?

茂野:
やはり積んでいるエンジンが大きい起業家は、必ず会社を大きくできます。細かい部品やタイヤは後からいくらでも変えられても、エンジンに何か爆発力がないと前には進みません。

平沼さんには、熱の大きさ、エンジンの大きさを確実に感じます。
シード期あたりのまだ具体的に事業が立ち上がっていない企業への投資軸って、ほとんど起業家の人格と資質に対する「信頼」なんです。事業内容はピボットが当たり前ですし、アドバイスはできても、実行や結果については信じてお任せするしかない部分がほとんど。

今のインフォボックスは、ロケットの発射台を作っている時期だと思います。すぐに打ち上げようと思えば、軽くてシンプルなロケットを作って、えいやと打ち上げることもできるはず。でもあえてその選択をしないで、買い手に最大限の価値を届けられる打ち上げをするために、しっかりとした土台を作っている。むしろ、直前まで作った土台を一度壊して組み立て直しているくらいの気迫を感じています。

このプロダクトへの向き合い方は、スタートアップ企業としてすごく健全です。
経営会議の場で話題に上がるのは「伸びたのはなぜか、顧客の満足度を上げるためにどうすべきか、現状をどういうふうに捉えているのか」といった未来志向の話ばかり。平沼さんの雰囲気に引っ張られているのもあるのか、インフォボックスを支援する方々はみなさんとにかく前向きです。

それに今は心強い仲間も増えていますよね。最初は平沼さんひとりの組織だったからこそ、思いがそのままプロダクトに反映される形でしたが、今はメンバーが増えて色々な目線が交差することで、組織としての強度も増しているように思います。

やはり強い組織には強い人がいるもの。組織に必要な力を集めてくる能力も起業家の一つの資質だと考えていますが、その点においても平沼さんのことを信頼しています。

平沼:
「組織の力で前にすすむ」という姿勢は、自分の中で軸になっています。
採用に妥協はせず、泥臭くやっていきたいですし、それがサービスの提供価値とも直結してくるのかなと思います。

インフォボックスが購買を楽しいものに変える未来

平沼:
茂野さんは、infoboxがどのようにインサイドセールスを変えていくと思いますか?

茂野:
infoboxは、セールス組織はもちろん、マーケ・経営企画にとっても有用ですが、特にインサイドセールスにとって無限の可能性が詰まったプロダクトだと思います。インサイドセールスのメンバーが最大限に活用することで、買い手の購買体験を楽しくできると思います。

平沼:
「購買体験を楽しく」とは、どういうことでしょうか?

茂野:
日本におけるBtoBの購買体験って、買い手側がワクワクしていないことが多いと思うんです。
例えば、営業電話=悪といった印象を持っているビジネスパーソンは多いと思います。営業電話の中に自分にとって必要な情報が紛れていたとしても、雑な対応をされた経験が積み重なっているせいでマイナスな印象を受けてしまっている。そうなると購買が全く楽しくないですよね。

平沼:
確かに、本来営業を受けるのも製品を比較する過程も全て楽しい体験のはずが、営業を受けることや新規の顧客を開拓することに積極的でない傾向はあるかもしれません。

茂野:
また、日本的なビジネスにおいては、大手企業になるほど売り手と買い手が固定化されている状態、いわゆる「お得意様文化」が根付いていると思います。長らく売り手側が情報を持ってきて、それを買い手がジャッジするという構図が一般的でした。
日々市場の動向は変化していますが、買い手側が能動的に情報収集しやすい環境とはまだまだ言い難いと思います。

しかし、ひとたび海外のマーケットに目を向けてみると、そもそも「電話が繋がらなくて悩んでいる」という話はほとんど聞きません。営業電話が来て、少しでもいいなと思ったらその場で初回商談の日程を決める、といった日本のインサイドセールスからするとスムーズすぎるとも感じる流れも珍しくありません。
それはやはり、購買をポジティブなものとして捉えているからでしょう。

平沼:
私自身、製品やサービスを検討する側に立つこともよくありますが、雑な営業をされているうちに、検討すること自体が億劫に感じる気持ちはわかります。でも本来は、自社の課題感に合わせて準備されたプレゼンの内容を1時間ほどで端的にインプットできるんですから、嬉しいことですよね。

茂野:
本当にそう思います。
先ほどお得意様文化の話をしましたが、その流れも確実にこの数年で変わってきていると思います。
例えば、決裁権を持った部長クラスの人材や大手企業の社員が、新しい製品を検討するぞという気持ちで展示会に出向くのはこの数年だと珍しくない光景です。大手企業同士のコミュニティに閉じず新しい繋がりを作る流れへと、市場全体が変わっているのを感じています。
だからこそ、インサイドセールスがinfoboxを有効活用して買い手の購買体験をもっと楽しくすることができれば、この勢いはもっと加速すると思うんです。

もっというと、僕は買い手としての能力がもっと評価されるような社会になったらいいのにと思っています。例えば、CRMの導入担当が製品の選定と導入、社内へのオンボーディングまで担当した結果、その会社のセールスが営業戦略を立てやすくなり売り上げが向上しました、という話があるとします。その際、売り上げ目標を達成したセールス担当の給与はわかりやすく上がることが多いですが、システムの選定をして導入した担当者の評価もグッと上がるかというと、必ずしもそうとは限りません。

平沼:
確かに、買い手としての能力が可視化されて評価されることって、少ないですね。

僕は、リテラシーと行動力を持った買い手と熱意を持って製品を提供する売り手との間に、正しいコミュニケーションが生まれたら、絶対に購買環境はよくなると思っています。そして、そうしたコミュニケーションのインフラとしてinfoboxが必ず貢献できると信じています。

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