ワクチン問題:「統計的有意差なし」は「因果関係なし」を意味しない
※本稿は2021年10月2日に言論サイトアゴラで公開した論考の転載です。
厚労省の発表では、接種後死亡者は1000人を超えてきましたが、個々の症例の精査ではγ判定(因果関係不明)ばかりです。個別の症例で因果関係を立証することは極めて困難であり、今後もγ判定の症例のみが積み上がることが予想されます。そのため統計分析が非常に重要になってきます。今回は、統計的有意差について考えてみたいと思います。
と記述されています。
これは、検定した結果、統計的有意差を認めなかったということです。実は、統計的有意差がないことは、因果関係がないこと意味していません。「統計的有意差なし」の間違った解釈については、Natureで指摘されています。
今回の検定の場合、帰無仮説は「ワクチン接種により、疾患Xによる死亡者は増加しなかった」となります。有意差ありの場合は、帰無仮説は棄却され、「ワクチン接種により、疾患Xによる死亡者は増加した」という結論になります。有意差なしの場合は、帰無仮説は棄却も肯定もされず、「接種により増加したどうかは不明」ということになります。つまり、因果関係は不明ということです。
もう少し具体的に考えてみます。個別の症例の精査で、因果関係ありの症例が3例のみ見つかったと仮定してみます。この場合、3例程度の死者数の増加では、統計的有意差はなしのままです。つまり、有意差なしの場合は2つの可能性があるわけです。一つ目は、因果関係がないため有意差なしとなる場合です。二つ目は、因果関係はあるが、発生率が低いため有意差なしとなる場合です。したがって、有意差なしの場合の正しい解釈は既に述べたように、因果関係なしではなく、因果関係は不明ということになります。
更に具体的に考察してみます。心筋梗塞に着目してみます。
12歳以上の国民の6割が接種したと仮定します。非接種群と接種群の心筋梗塞の死亡率において、統計的有意差が生じるかどうかを計算してみます。観察期間は、7か月間とします。
(a)非接種群:12歳以上の国民4割の心筋梗塞の死亡者数=7か月間の心筋梗塞の偶発的死亡者数
(b)接種群 :12歳以上の国民6割の心筋梗塞の死亡者数=7か月間の心筋梗塞の偶発的死亡者数+接種後の心筋梗塞死亡者数
(a’)非接種群の心筋梗塞の死亡率:(a)÷(12歳以上の人口4割)
(b’)接種群の心筋梗塞の死亡率 :(b)÷(12歳以上の人口6割)
接種後死亡者の心筋梗塞の発生率を、4人/100万人接種と仮定します。日本の人口の12歳以上の6割は、約6,819万人であり、接種後の観察期間中にすべての死亡が発生したという前提で、心筋梗塞の接種後死亡者は273人となります。厚労省Webサイトより心筋梗塞の年間死亡者数は31,429人です。12歳未満の心筋梗塞による死亡は極めてまれですので、この数値をそのまま使用します。これの12分の7の4割が(a)の値となります。12分の7の6割に接種後死亡者数を加えたものが(b)の値となります。
以上の数値を用いて、カイ2乗検定により、(a’)と(b’)との統計的有意差を検定してみました。結果は、p値は0.103で、有意差なしとなりました。種々の条件で検証したところ、有意差ありとなるためには、接種後死亡者の発生率は、有意水準5%で、4.9人以上/100万人接種が必要となります。有意水準1%では、6.4人以上/100万人接種が必要となります。
5人/100万人接種と設定を変更してみます。この場合、有意水準5%では有意差ありなのに対して、有意水準1%では有意差なしとなります。つまり、有意水準の設定により、結論が反対になってしまうことが有り得るのです。論者が有意水準を恣意的に設定し、自らの都合がよい結論に導こうとする場合があることを、常に留意しておく必要があります。
厚労省のデータより、心筋梗塞が接種後死亡原因に占める割合は6.3%です。心筋梗塞の死亡率で有意水準1%で有意差ありとなる死亡者6.4人以上/100万人接種の場合には、死亡者全体では102人以上/100万人接種となります。別の言い方をしますと、死亡者全体で101人/100万人接種の発生率では、心筋梗塞の死亡率は有意差なしになるということです。有意差なしの場合でも、以前に解説しました「許容できる死亡者数は100万人あたり数人まで」という基準では、とても許容できない発生率となる場合があることを認識しておく必要があります。
厚労省の計算では、死亡の発生率は、ファイザー製ワクチンで、19.1人/100万人接種です。心筋梗塞の割合を6.3%としますと、心筋梗塞による死亡の発生率は、1.20人/100万人接種となります。ただし、以前に解説したように、接種後死亡の報告漏れの疑念があり、発生率は公表値より高い可能性があります。
厚労省は、発生率の統計分析だけでなく、偶発性の検証も同時に行うべきです。ただし、報告バイアスの問題があるため、現在集積されているデータは、その分析に耐えられるデータではありません。したがって、過去に何回か指摘しましたが、マイナンバーを利用した分析方法を実施してほしいと、私は思います。
【補足】
・観察期間の設定の仕方により結論が変化する可能性があることに留意する必要があります。
・本論考では、因果関係という用語を使用していますが、厳密に言えば統計解析で判明するのは因果関係ではなく関連性です。