ワクチン問題の本質は、トロッコ問題である
※本稿は2021年9月10日に言論サイトアゴラで公開した論考の転載です。
今回の解説は、コロナワクチンの話ではありません。ワクチンの安全性は、どのように担保されるべきか、という一般論です。
「この問題の本質は、トロッコ問題である」と、私は考えています。
「ワクチンの副反応のために死亡する人がいたとしても、何千万人という人の安全が確保できるのであれば、そのワクチンの接種は許されるのか?」という問題提起です。ワクチンは健康な人に接種しますので、病気の治療薬よりも高い安全性が求められます。副反応による死亡者ゼロのワクチンを開発するのが理想ですが、それでは何年たってもワクチンは完成しないかもしれません。したがって、何人か死亡したら、直ちにワクチンは中止というわけではないのです。
副反応による死亡が許容されるといっても、限度があります。「欧米では、ワクチンによる死亡で許容される人数は、100万人あたり数人までと考えられている」ということをワクチンに詳しい医師より以前に教えてもらったことがあります。欧米人らしい合理的で冷徹な考え方です。ワクチンの安全性で議論すべきことは、「ワクチンによる死亡は、100万人あたり何人まで許容できるか?」ということだと、私は考えます。ゼロリスク信仰の信者が多い日本では、なかなか受け入れられない考え方かもしれません。
ワクチンの安全性を示すために、年間の死亡率の比較を用いる専門家がいます。この論法には、実は問題があります。思考実験により、問題点を示してみたいと思います。
12歳以上の国民の6割が接種したと仮定します。非接種群と接種群の死亡率において、統計的有意差が生じるかどうかを計算してみます。観察期間は1年間とします。
(a)非接種群:12歳以上の国民4割の死亡者数=年間の偶発的死亡者数(自然死)
(b)接種群 :12歳以上の国民6割の死亡者数 =年間の偶発的死亡者数(自然死)+接種後死亡者数
(a’)非接種群の死亡率:(a)÷(12歳以上の人口4割)
(b’)接種群の死亡率 :(b)÷(12歳以上の人口6割)
接種後死亡者の発生率を、30人/100万人接種と仮定します。日本の人口の12歳以上の6割は、約6,819万人であり、接種後の観察期間中にすべての死亡が発生したという前提で、接種後死亡者は2,046人となります。人口動態統計月報年計(概数)の概況より過去5年間の12歳以上の死亡者数の平均を計算してみます。結果は約135.0万人です。これの4割が(a)の値となります。6割に接種後死亡者数を加えたものが(b)の値となります。
以上の数値を用いて、カイ2乗検定により、(a’)と(b’)との統計的有意差を検定してみました。結果は、p値は0.148で、有意差なしとなりました。種々の条件で検証したところ、有意差ありとなるためには、接種後死亡者の発生率は、有意水準5%で、41人以上/100万人接種が必要となります。有意水準1%では、54人以上/100万人接種が必要となります。
死亡率の比較で統計的有意差なしと説明を受けますと、普通は安全だと思ってしまいます。ただし、ワクチンの場合は、「許容できる死亡者数は100万人あたり数人まで」という観点では、安全とは言えなくなってしまうのです。別の言い方をしますと、100万人あたり30人程度の発生率の場合は、統計上では偶発例として処理されてしまうということです。
「100万人あたり数人」という基準は、必ずしも絶対的なものではありません。致死率の高い感染症が拡大し緊急を要する場合には、「100万人あたり数十人」が許容されることは有り得ます。ただし、その場合には、何人まで許容できるかについて、事前に十分議論されていなければなりません。コンセンサスが得られていることが極めて大切なのです。
なお、コロナワクチンの接種後死亡の発生率(ただし因果関係は不明)は、厚労省のWebサイトで公開されていますので、興味のある方は自分の目で確かめてみてください。
【補足】
観察期間の設定の仕方により結論が変化する可能性があることに留意する必要があります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?