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慢性蕁麻疹(じんましん)にセレスタミンを使用すべきではありません

※本稿は、2008年12月に私設ホームページで公開した論考の転載です。

通常の蕁麻疹は、抗ヒスタミン薬あるいは抗アレルギー薬の内服(飲み薬)で治療します。ごくまれに、それらの薬が効かない場合があります。この場合は、セレスタミン(ステロイド薬と抗ヒスタミン薬の合剤)などのステロイド内服薬が処方される場合がよくあります。皮膚科の学術書では、蕁麻疹が抑制された後、徐々にステロイド剤を減量すれば中止が可能と記述されています。しかしながら、私自身はセレスタミンの減量が困難な症例に時々遭遇してきました。セレスタミンがうまく減量できない場合は、その治療は困難を極めます。特にセレスタミンを2年以上内服した時は、その減量は、ほとんど不可能な場合が多いのです。

 慢性蕁麻疹では、「内服により発疹を完全に抑制する状態を長期間維持することが、完全治癒までの期間を短縮する。」と、一般的に考えられています。これは、抗ヒスタミン薬と抗アレルギー薬は重大な副作用が、ほとんどない薬であるから可能な治療方法です。ステロイド内服薬は、抗ヒスタミン薬と異なり、少量でも長期間使用すると副作用が問題となります。抗ヒスタミン薬が効かない蕁麻疹の場合、「セレスタミンで発疹を完全に抑制することが、本当に完全治癒までの期間を短縮するのか?」については、十分検討されているとは、とても言えません。また、「セレスタミンの減量が困難な場合は、どのように対処するのか?」に対する答えが存在していません。

 慢性蕁麻疹は、一生続くことは通常ありません。いつかは必ず治ります。ただ、いつ完全に治癒するかを予測することはできません。また、慢性蕁麻疹は内臓の慢性疾患のように徐々に進行して後遺症が生じたり、死に至ったりすることはありません。したがって、慢性蕁麻疹の治療は、副作用の少ない薬で行われる必要があります。

以上から導き出せる結論は、

抗ヒスタミン薬抵抗性慢性蕁麻疹の治療指針(私案)

1)蕁麻疹を完全に抑制することを目標とせず、日常生活に支障がない程度に症状を改善することを目標とする。   
2)セレスタミンなどのステロイド内服薬は、原則使用しない。

具体的には、抗ヒスタミン薬あるいは抗アレルギー薬に、漢方薬を併用して治療します。抗ヒスタミン薬と漢方薬で日常生活に支障がない程度まで症状が改善すれば、完全に抑制されなくても、そのまま完全治癒するまで治療を続行します。慢性蕁麻疹は、死ぬまで続くことはなく、いずれは漢方の効果にて治癒、または自然治癒となります。

 ここ数年、私は抗ヒスタミン薬が効かない慢性蕁麻疹を多数治療してきました。蕁麻疹の漢方治療については、すでにホームページで公開しています。それを見て、現状の蕁麻疹治療に不満を感じている人が当院を訪れてきたわけです。そして、それらの症例の積み重ねが、今回の結論を私にもたらしました。最後に、抗ヒスタミン薬抵抗性慢性蕁麻疹の症例をいくつか紹介します。

症例1 28歳、男性

 1年前より蕁麻疹が生じるようになった。5種類の抗アレルギー薬をためしたが効かなかった。内服中でも蕁麻疹は毎日生じた。蕁麻疹は、運動、辛い食べ物、精神的緊張で誘発された。かゆみによる不眠も時々あった。当院受診、漢方薬2剤、抗アレルギー薬1剤で治療を開始した。治療開始後、顕著な悪化は少なくなったが、蕁麻疹は毎日生じた。その後、漢方は4回変更した。1年後、かゆみによる不眠は、なくなった。運動による誘発は同じ程度続いた。辛い食べ物、精神的緊張による誘発は軽減してきた。2年後、運動による誘発は続いているが、蕁麻疹により日常生活に支障をきたすことはなくなった。4年後、蕁麻疹は、ほとんど生じなくなった。

コメント:どんなにひどい蕁麻疹でも、いつかは治ることを示しています。

症例2 34歳、男性

 5年前より慢性蕁麻疹にて、セレスタミン2錠+抗ヒスタミン剤で治療を受けていた。当院受診、セレスタミン2錠+抗アレルギー薬+漢方薬にて治療を開始した。煎じ薬も含めて10回程漢方薬を変更したが、セレスタミンを減量することは、できなかった。治療開始9年後の時点でも、セレスタミンは2錠より減量できていない。1錠に減らすと、我慢できない程強いかゆみを伴う蕁麻疹が生じてしまう。プレドニン錠への変更も試したが、成功していない。

コメント:セレスタミンを2年以上内服すると、その減量は極めて難しくなってくる場合が多いように思われます。

症例3 51歳、男性

 2年前より、蕁麻疹が生じるようになった。他院で、セレスタミン2錠+抗アレルギー薬で2年間治療を受けていた。当院受診、漢方薬1剤を併用して、セレスタミンの減量を開始した。3か月後、セレスタミン1錠となった。漢方薬は2剤に変更した。2年3か月後、セレスタミン半錠(0.5錠)となった。4年後、セレスタミン半錠隔日(1日おき)を試みているが、現時点では成功していない。

コメント:セレスタミンを2年以上内服すると、その減量は大変困難となります。減量に成功した場合でも、非常に長い年月を必要とします。

症例4 39歳、男性

 2か月前より、蕁麻疹が生じるようになった。他院で、抗アレルギー薬で治療を受けたが無効であった。その後、セレスタミン1錠+抗アレルギー薬1剤+漢方薬2剤で治療を受けたが、効かなかった。セレスタミンは、1か月間内服した。当院受診、抗アレルギー薬1剤+漢方薬2剤で治療を開始した。セレスタミンは、ひどい蕁麻疹が生じた時のみ臨時で内服するように指示した。2か月後、蕁麻疹は、ほとんど生じなくなった。セレスタミンは全く飲まなくてもよくなった。抗アレルギー薬1剤と漢方薬で治療を続けている。

コメント:セレスタミンの内服も1か月間程度であれば、その減量は比較的容易です。

症例5 19歳、男性

 2年前より、蕁麻疹が生じるようになった。他院で、抗アレルギー薬を数種類試したが効かなかった。セレスタミン1錠内服したこともあったが、これも無効であった。当院受診、漢方薬2剤+抗アレルギー薬1剤で治療を開始した。漢方薬は、5回変更したが、いずれも効かなかった。すべての内服をいったん中止したところ、かゆみの強い蕁麻疹が生じるようになった。内服再開後、強いかゆみは生じなくなったが、蕁麻疹自体は毎日生じた。漢方などの内服は、完全に蕁麻疹を抑制することはできないが、ある程度までは、かゆみを軽減するため同処方を続行とした。2年半後、内服を1日2回より、1日1回に減らした。軽度の蕁麻疹は毎日生じているが、日常生活に問題がない程度のかゆみとなっている。

コメント:当症例にて、「抗ヒスタミン剤が無効の蕁麻疹の場合、皮疹を完全に抑制する必要はない。」ことに気付きました。

症例6 37歳、女性

 2か月前より、蕁麻疹が生じるようになった。他院にて、抗アレルギー薬を3種類試したが、いずれも無効であった。当院受診、漢方薬1剤+抗アレルギー薬1剤で治療を開始した。蕁麻疹は多少減少したが、毎日続いた。漢方薬は4回変更した。蕁麻疹は、完全に抑制されることはなく、毎日軽度の蕁麻疹の出没を繰り返した。3年後、軽度の蕁麻疹は毎日生じてるが、ひどい悪化はなくなったので、日常生活に支障はなくなった。

症例7 62歳、女性

 2か月前より蕁麻疹が生じるようになった。総合病院の皮膚科で、抗アレルギー薬2剤併用で治療を受けた。内服しても、蕁麻疹は毎日生じた。当院受診、漢方薬3剤、抗アレルギー薬1剤、抗ヒスタミン薬1剤で治療を行った。治療開始1か月後、軽度の蕁麻疹は毎日出現するが、我慢できる範囲内の症状となった。3か月後、漢方を一部変更した。5か月後、蕁麻疹は、ほとんど生じなくなった。

症例8 22歳、女性

 4~5年前より蕁麻疹様の皮疹が生じるようになった。個々の皮疹は2~3日間持続した。抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤は無効であった。セレスタミンの投与でも、皮疹は完全には抑制されなかった。当院受診、漢方薬3剤と抗アレルギー剤で治療を開始した。1月後、変化はなかった。1か月半後、皮疹の発現頻度は減少してきた。4か月後、ほとんど生じなくなった。

コメント:個々の皮疹は2~3日間持続していますので、厳密には蕁麻疹様紅斑と診断すべき症例です。


補足1)
「ステロイドの内服でも少量であれば、あまり副作用はない。」と間違った認識を有する医師が時々います。ステロイド少量内服長期投与は、骨粗しょう症の原因となります。

日皮会誌:118(7), 1253-1259,2008より引用
   プレドニソロン換算で1日2.5mg未満, 2.5mg~7.5mg、7.5mg以上に分けると、椎体圧迫骨折のリスクは、非投与群に対して、それぞれ1.55倍、2.59倍、5.18倍に増加していた。

セレスタミン1錠にはベタメサゾン0.25mgが含まれ、プレドニソロン換算では2.5mgとなります。つまり、セレスタミン1錠でも長期投与すると、骨粗しょう症が発症しやすくなり、椎体(背骨)の骨折の危険が増加することになります。

補足2)
慢性蕁麻疹の原因は、ほとんど不明であり、アレルギーではありません。しかし、しばしばその治療に抗アレルギー剤を使用します。これは、多くの抗アレルギー剤が、抗ヒスタミン作用を有しているからです。

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