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空気を運ぶ

物流業界の言葉らしい。以前、テレビのニュースで初めて耳にして妙に感動したのを思い出した。

トイレットペーパーは軽くてかさばるため、トラックの積載重量にいくら余裕があっても荷台に収まる分しか輸送できない。この状況を指して「空気を運んでいるようなもの」と表現していた。

運ばれる空気に価値はない。ずいぶん昔にハワイの空気の缶詰が話題になったりしていたが、製紙工場の空気を欲しがる人がいるとも思えない。要は実質的に荷台がスカスカだと言いたいわけだ。

似た言葉に「雲を掴む」とか「空を切る」などがある。どちらも実がないことを空気の存在で表現している。「ない」を「ある」と言い換えるレトリックは技巧的でもあり、詩的でもあると思う。

物流といえば大型トラックの積み下ろし、深夜の長距離移動、排気ガス等の過酷なイメージだが、そこへ突然ポエミーな表現が出てきて、不覚にもキュンとしてしまった。これがギャップ萌えか。

雲を掴むことも気体を切断することも現実には不可能である。これに対して空気は本当に運ばれている。この言葉を知ってから僕の目にはトイレットペーパーがボリューム感のある空気の塊に見えるようになった。