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思い出す(思い出していない)

前回からの続き。ぼんやりとしか覚えていないはずなのに鮮明に思い出せるということは、つまり脳が映像を作り出しているということだ。

映画『ダイ・ハード』の主人公は犯行グループによって封鎖されたビルの中で孤軍奮闘する。単独だからできる戦い方もある。しかし、苦しい状況は続く。愚痴ったり、弱気になる主人公をビルの外から無線で支えてくれたのがパウエル巡査部長だ。

このシリーズは続編でバディものになったと言われているが、僕は最初からバディものだったと思っている。

で、件のラストシーン。ビルから生還した主人公は多数の報道陣や救急隊が慌ただしく行き交う中、一人の警官と目が合う。そして初対面にもかかわらず彼が相棒なのだと気づく。無線越しとはいえ、ともに戦った仲間である。眼差しが違う。

このときのパウエル巡査部長の顔を僕ははっきりと思い出せる。正確に言うと思い出してはいない。おぼろげな記憶をベースにしているが、前述のストーリーで補完した実在しない映像を想像している。

物語を理解してさえいれば記憶が正確である必要はないのだろう。初めてテレビでこの映画を観たときよりも、こうして思い出しているときのほうが心を揺さぶられている気がする。