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令和新撰百人一首(45)花は散りその色となく眺むればむなしき空に春雨ぞ降る (式子内親王)

花(はな)は散(ち)りその色(いろ)となく眺(なか)むればむなしき空(そら)に春雨(はるさめ)ぞ降(ふ)る

現代語訳

桜の花はすっかり散って、「もう美しい桜は見られないのだ」と思いつつも、ふと外の景色を眺めやる。目に入るのは、やわらかに降る春雨。

英訳

Cherry blossoms have already fallen. Then, in the empty sky, I found that it was raining softly.

解説・コメント

百人一首の「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする」で知られる式子内親王。後白河天皇の第三皇女で、10代の十年間、賀茂斎院をつとめました。藤原俊成に師事し、その子・定家とも交流があり、その当時の和歌の美意識を深く学び得たのでしょう。現存する和歌は四〇〇首程度でありながら、その三分の一以上が勅撰和歌集に入っています。

この歌も、定家の歌の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」(新古今和歌集)に似たところがあります。読み手からすれば、桜や紅葉の名が出ることで、その映像が一瞬、頭に浮かびます。それが「散り」「なかりけり」と打ち消された後も、その美の風情だけは漂い続けるのです。

古典文法

眺むれば:マ行下二段活用「眺む」の已然形+ば。「已然形+ば」のうち「~と」「~ところ」を訳す偶然条件。
春雨ぞ降る:強意の係助詞「ぞ」が「降る」を連体形にしている。春雨が強く印象付けられる。

古文単語

眺む:単に「見る」というよりも、「ぼんやり物思いにふけりながら眺める」のイメージ。「眺め」「長雨」で掛詞にするのが定番なので、今回の「眺むれば」にも裏に「長雨」が響いて、五句目の「春雨」につながる。

読み方・発音(ローマ字)

Hana wa chiri
Sono iro to naku
Nagamureba
Munashiki sora ni
Harusame zo huru.

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