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「かはづ鳴く千枚の田は靄の底」ほか自作俳句16句(『松の花』2021年7月号掲載+α)

松の花集掲載句5句

われの背の倍の花桃つよき紅
養花天ぱんだはのたりのたりかな
熊野へと続く道なり春の雨
鳥曇り内海凪ぎて色もなく
かはづ鳴く千枚の田は靄の底

『松の花』7月号(4月25日〆切分)では、結社誌のメインとなる「松の花集」で第七席に選出していただきました。掲載句はいずれも、年度代わりの頃の三重県・奈良県・和歌山県の旅を詠んだ句で、いい記念になりました。

われの背の倍の花桃つよき紅→実家(三重県四日市市)に帰ったときの句です。母が、近所の土手で植物の手入れをしているのですが、そこの花桃が盛りの時季でした。田舎で静かに暮らしている、穏やかな母ですが、その中にある強烈な自我が、この花桃の紅として色を成しているかのような気もしました。

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養花天ぱんだはのたりのたりかな→南紀白浜へ。といえば、アドベンチャーワールドのパンダです。入場料金+駐車場料金の高さには閉口しましたが(苦笑)、何頭もいるパンダを見られたのはやはりうれしい事でした。
与謝蕪村の〈春の海ひねもすのたりのたりかな〉をもとにした句です。

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熊野へと続く道なり春の雨→もとは〈参詣とは道なり熊野春の雨〉としておりましたが、説明的だったようで、添削が入りました。
長く険しい道をのぼり、内なる自己と対話を重ねた先に、本殿に辿り着く。そんな参詣にこそ、厳粛な思いが生まれました。熊野速玉大社は本殿のそばまで車で行けるのですが、その呆気なさは何か物足りなく、少々味気なく感じたものです。

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鳥曇り内海凪ぎて色もなく→少々奮発し、尾鷲シーサイドビューという旅館に泊まりました。白浜の荒々しい海とは違い、鏡面のような落ち着いた海でした。曇天の色をうつした、彩度の低い海でした。


かはづ鳴く千枚の田は靄の底→熊野の旅のなか、丸山千枚田(三重県熊野市紀和町)を訪れました。地域の保存会の手で復田された田も含め、1340枚の田が連なる見事な棚田です。あいにくのお天気でしたが、靄と蛙の鳴き声とが合体して湧きあがってくるような、幻想的で厳かな空間に身を置くことができました。

優秀句に選んでいただき、主宰から以下のような鑑賞文を頂戴しました。

千枚田は深い靄の底にあり、かわずの声が湧きあがってきて、身体を靄とともに包み込んでいる。「千枚の田は靄の底」の表現からは、千枚田との多少の距離感を感じることができる。作者が千枚の田の中に立つのであれば、「は」は「と」に表現されたのであろう。

まさしく主宰の言葉の通り、少し離れた所からこんな感じで見下ろしたのでした。

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松の花集に投句するも未掲載の3句

たけのこ天誘はれてから食べる婿
宙ぶらりん中高の間の春休み
新緑の小寺芦雪の虎睨む

最後の〈新緑の小寺芦雪の虎睨む〉は、本州最南端の串本にある無量寺の句です。この寺には円山応挙や長澤芦雪の障壁画があります。敷地内に、小さな美術館があり、彼らの大きな絵のほか、若冲などの掛け軸も楽しむことができます。

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同人「翠嶺集」掲載句5句

こちらには、旅のなかでも、桜満開の吉野を訪ねた句ばかり集めて応募しました。上位四席に入ることは叶いませんでしたが、この五句が掲載されました。

爪先の削れたる靴春暑し
茅葺の軒を枝垂るる桜かな
桜もち床几の並ぶ山の茶屋
春昼や民藝店の和紙のあを
葉桜や駅看板の古き文字

爪先の削れたる靴春暑し→山道、特に下り道を歩くと、靴の爪先が傷むのでした。快くもうっすら汗をかく陽春の吉野です。

茅葺の軒を枝垂るる桜かな→これは上千本エリアの吉野水分神社を訪ねたときの句です。

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桜もち床几の並ぶ山の茶屋→山腹の休憩所のような茶屋がありました。私は桜餅を。ビールを楽しんでいる人も多かったです。

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同人「翠嶺集」に投句するも未掲載の3句

山路来て行者の植ゑし桜かな
桜への登山半ばの缶ビール
春の山みどりはパツチワークなり

皆さまに写真でのおすそ分け。

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