自作俳句5句「まだ知らぬことの多さよ秋の雲」ほか(『松の花』2019年1月号掲載分)

**木犀に今日の過ち許さるる

雨粒の冷たし金木犀の散る
月隠るあなたに下手な路上歌手
折り紙で紅葉先取る好々爺
まだ知らぬことの多さよ秋の雲**

木犀に今日の過ち許さるる

仕事でミスをしたり、つい人にきつく当たってしまったりすると、その後悔が残り続ける。何をしていても、魚の小骨のように、違和感が引っかかっている感じ。自信がじわじわと削られていく。
そうした帰路に金木犀の香り。自分の過ちを許してくれるかのように、夜の澄んだ空気のなか甘やかに香る。

雨粒の冷たし金木犀の散る

金木犀が散るのは、10月の上旬から中旬頃。その頃に降る雨にはもう夏の余韻はなく、冷たい。

月隠るあなたに下手な路上歌手

月隠る、で初句切れ。美しい秋月も隠れ、夜空には楽しみがなくなってしまった。そんな中、遠くからは路上歌手の声。上手ければ良いのだが、振るわない。興ざめな帰路である。

折り紙で紅葉先取る好々爺

古典講座の受講生が、自作の折り紙作品をプレゼントしてくれた。11月も半ばで、平地ではまだ紅葉という感じでもなかったなか、好々爺の贈り物で紅葉を感じることができた。

まだ知らぬことの多さよ秋の雲

読書の秋というが、本を読むたびに実感するのが、己の知らないことの多さである。学んでも学んでも、自分の空っぽさ、浅さ、薄っぺらさに絶望するばかりである。しかし、諦めはしない。上を見ることはやめない。

主宰(松尾隆信先生)の評

先師上田五万石に〈秋の雲立志伝みな家を捨つ〉があるが、澄む空のはるかに高く、白くたおやかに流れ行く雲は、人に、立志やあこがれの心を持たせるのかもしれない。さわやかな句である。

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