自作俳句5首「かこたじの真一文字に虎落笛」ほか(『松の花』1月投稿分)

朝富士の白きにその日始まりぬ
かこたじの真一文字(まいちもんじに)に虎落笛(もがりぶえ)
受験日は誰も一人ぞ吾(われ)も汝(な)も
鉛筆に未来を賭けん春浅し
いざ帰らん白魚飯(しらうおめし)の待てる家

朝富士の白きにその日始まりぬ(冬)

「ぬ」は完了の助動詞。冬の澄んだ空気の中、朝日を浴びる霊峰富士。雪の積もった白い富士山はひときわ神々しい。引き締まった気持ちの中で、その日1日がスタートした。

かこたじの真一文字に虎落笛(冬)

「かこたじ」は、愚痴などをこぼすまい、と強く決心する気持ち。そうした覚悟を湛えた真一文字の表情。そのまわりに、ピューピューと冬の虎落笛が吹きすさぶ。

受験日は誰も一人ぞ吾も汝も(春)

塾で指導していて、いつも思うこと。私たちはできる限りサポートをしたいと考えているけれど、結局、当日彼らは1人で闘わなくてはいけない。それは心細いことだけれど、会場にいる人間は皆そうなのだ。そういう意味で、受験という戦場は残酷なまでに平等だ。

鉛筆に未来を賭けん春浅し(春)

教え子たちの受験当日に想いを馳せながら。

いざ帰らん白魚飯の待てる家(春)

外で、気を張って過ごしていると、早く家に帰りたくなる。安心できる場所で、一刻も早くのんびりとしたい。
例えば、受験の日。「終わったよ」とLINEをすると、「お疲れさん。頑張ったね。あんたの好きなごはんを作って待っているよ」と返ってきたら、救われるだろうと思う。
そんな風景を想像しつつ。

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