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■補足:『ソー(vol. 2)』創刊までの流れ

 前回のエントリでは、『ソー(vol. 2)』誌の創刊から最終号までの話をした。

 それに続く今回のエントリでは、『ソー(vol. 2)』誌が立ち上がるまでの流れ、というよりは、先行誌である『ソー(vol. 1)』(1996年夏に#502(9/1996)をもって打ち切り)が、いかにして終了したかについて話したく思う。

 ひとまず、『ソー(vol. 1)』誌が打ち切りになる少し前、1990年代前半頃のアメリカン・コミックス市場の状況の説明から始めたい。

 この当時、『ソー』、『アイアンマン』、『キャプテン・アメリカ』のいわゆるマーベルの「ビッグ3」の掲載誌と、彼らが所属する『アベンジャーズ』誌、あとマーベルの古参ヒーローチーム『ファンタスティック・フォー』といった、マーベルを代表するヒーローらが主役を務めるコミックブックは、売り上げの低迷に苦しんでいた。

 その理由は、ごく単純に言うと、この当時、スター作家を綺羅星のごとく揃え、年に1回大規模でド派手で感情を揺さぶるクロスオーバーを行う『X-MEN』ファミリー(『アンキャニィX-MEN』『X-MEN』『X-フォース』『X-ファクター』『エクスカリバー』『ウルヴァリン』他)の人気が異様に高く、結果として当時の若い読者にとって『アベンジャーズ』『ファンタスティック・フォー』系のタイトルが「ダサくて古いもの」に映ってたお蔭である。

 ちなみにこの当時、『X-MEN』ファミリー系の編集を統括していたボブ・ハラスは、同時に『アベンジャーズ』のメインライターも務めていたが、『X-MEN』を大ヒットに導いた彼でも、ライターとして『アベンジャーズ』をヒットさせることはできなかった。当たり前だが、名編集者≠名ライターという訳だ。

 具体的な話をすれば、ネット上で見つけた、1993年11月のダイヤモンド・ディストリビュート社(コミックの大手問屋)の売り上げランキングはこんな感じだった。

1位:アンキャニィX-MEN #308
2位:スポーン #18
3位:X-MEN #28
4位:ニンジャック #1
5位:アクション・コミックス #695
6位:ワイルドキャッツ #6
7位:X-MEN2099 #4
8位:サイバーフォース #2
9位:バットマン #503
10位:スーパーマン #85
11位:アドベンチャーズ・オブ・スーパーマン #508
12位:X-フォース #30
13位:シャドウホーク #1
14位:ガンビット #1
15位:スーパーマン:マン・オブ・スティール #29
16位:デテクティブ・コミックス #670
17位:ウルヴァリン #77
18位:X-Oマノウォー #25
19位:サヴェッジ・ドラゴン #6
20位:X-ファクター #98

 と、まあ、『X-MEN』関連誌と新興のイメージ・コミックス社の『スポーン』『ワイルドキャッツ』に、ヴァリアント・コミックス社の『X-Oマノウォー』『ニンジャック』、それにこの当時テコ入れに成功して部数が回復していたDCコミックス社の『スーパーマン』『バットマン』関連誌、それに『シャドウホーク』『ガンビット』など、人気キャラクターの新シリーズの創刊号(ご祝儀買いでそこそこ部数が伸びる)が上位にひしめいて、「ビッグ3」らのコミックは影も形もない(ちなみに21位~50位くらいに『スパイダーマン』関連誌が顔を出す感じ)。

 なおこの月は、『アイアンマン』誌が300号記念号ということで、表紙を箔押しで飾り立て(この当時流行していた「ギミック・カバー」だ)、歴代アイアンマン・アーマーが総登場して強敵に挑むと言う、売れ線を狙った記念号が刊行されてたのだが、それでも37位と、『アメイジング・スパイダーマン』誌の普通の号(26位)に負けている有り様だった。

 で、その他のタイトルはと言えば、『ファンタスティック・フォー』69位、『アベンジャーズ』77位、『ソー』98位(なんとか100位以内)、『キャプテン・アメリカ』126位、という具合である。

 ちなみにこの月に出た『ソー』#470は、『シルバーサーファー』『ウォーロック&ザ・インフィニティ・ウォッチ』『ウォーロック・クロニクル』誌とクロスオーバーした長編ストーリー「ブラッド&サンダー」の真っただ中だったのだが、クロスオーバーによるブーストを足してもぎりぎり100位以内、という成績であった。

 こちらが「ブラッド&サンダー」をまとめた『ソー・エピック・コレクション:ブラッド&サンダー』。『ソー』#468-475と『ソー』アニュアル#18、『シルバーサーファー』#86-88、『ウォーロック・クロニクル』#6-8、『ウォーロック&ジ・インフィニティ・ウォッチ』#23-25を収録。

 内容は、突然ソーが発狂して、いもしない恋人のヴァルキリー(ソーの狂気が幻として顕現した存在)に導かれるまま暴走を開始。ソーの盟友ベータレイ・ビルやシルバーサーファー、ウォーロックらが、なんとか取り押さえて正気を取り戻させようとする……という話。

 そもそもの導入が「あんまり面白そうじゃない」感じな上に(なお、読み進めても、“真の黒幕”なぞは出てこない)、人材不足でアートも微妙という、「この当時のソーが全力で面白いことをしようとして、お出しされたのが……これかぁ」という感想にならざるを得ない奴である。

 閑話休題。

 で、リンク先のページから見られるこの時期のダイヤモンドの売り上げデータを拾っていくと、以降の『ソー』誌の順位はこんな具合になっていく。

1993年12月:95位(「ブラッド&サンダー」最終話)
1994年1月:100位
1994年2月:94位
1994年11月:96位
1994年12月:104位
1995年1月:98位
1995年2月:91位
1995年3月:95位
1995年4月:91位
1995年5月:103位

 1995年6月から、ダイヤモンドがマーベルのコミックを取り扱わなくなったために(この時期のマーベルはコミック流通に乗り出そうと目論み、ダイヤモンドへの卸を辞めたりしたが結局はうまくいかず、挙げ句に倒産した)、以降のランキングは不明だが、まあ、これくらい挙げれば十分だろう。

 要するにこの時期の『ソー』誌は、『X-MEN』&『アンキャニィX-MEN』が『スポーン』や『ワイルドキャッツ』らとバチバチに全米1、2位の座を争っているのを尻目に、一貫してランキング90位をウロウロし、「ブラッド&サンダー」のようなクロスオーバーを行っても、特に順位が上がることもなかった。

 でもって1995年夏頃。こうした状況を危惧した『ソー』編集部は(ていうか、営業部あたりにも突き上げられたのだろう)、当時マーベルの『2099』レーベルや『エクスカリバー』誌、それに『マーベルズ』の露悪的なパロディ『ルインズ』でそこそこ名をあげていた若手イギリス人ライター、ウォーレン・エリスと、DCコミックス社の『ワンダーウーマン』を長らく担当し、そこそこヒットさせていたライターのウィリアム・メスナー=ローブス、それに『ワンダーウーマン』誌で1994~1995年にかけてセクシーなアマゾネスを描いて人気を博していたアーティストのマイク・デオダートJr.を招き、『ソー』誌の作風の若返りを試みる(DCコミックス社の似た路線のコミック誌をヒットさせた作家陣を引き抜いてテコ入れをさせると言う、この頃のマーベルではお馴染みの手法)。


 こちらが、メスナー=ローブス&デオダートJr.の『ワンダーウーマン』のエピソードでもっとも有名な話の単行本。ワンダーウーマン(ダイアナ)が、アマゾン族の競技会で敗れ、新ワンダーウーマン(アルテミス)が誕生した! 邪悪な妖魔の陰謀に、新ワンダーウーマン&ダイアナ(ワンダーウーマンの称号を返上しただけで、引き続きヒーロー活動は継続)が挑む! ……的な話で、まあ、この時期のDCコミックス社のテコ入れイベントの定番(「古参ヒーローに代わって、現代的な新ヒーローが登場! 古参ヒーローか新ヒーローのどちらかが、キラキラした表紙の記念号で死ぬ!」)な内容。

 で、実際のところは、まずエリスが『ソー(vol. 1)』#491-494(10/1995-1/1996)にかけて、1エピソード分(4話)の話を書き、そこで今後の『ソー』誌の方向性を打ち出した後に、ウィリアム・メスナー=ローブスがレギュラーライターとして話を続ける……という具合な流れで新路線は展開した(ただまあ、この頃のデオダートJr.は、執筆ペースが微妙に月刊連載に届いていない感じで、ちょいちょい別のアーティストが描いていたが)。


 上は、エリス&デオダートJr.による新展開の最初のエピソード、「ワールド・エンジン」編をまとめた電子書籍(話の流れで貼りはしたが、もっといい収録内容の単行本が出てる)。

 マッドな悪役が己の願望(非常に突拍子もない動機だが、本作の一番面白いトコをネタバレしてしまうので詳細は伏せる)のために世界樹ユグドラシルを暴走させて世界を滅ぼそうとする……というエリスらしい退廃的な話。


 そんな感じに始動したエリス&メスナー=ローブス+デオダートJr.による新しい『ソー』誌の路線は、ひどく大雑把に語ると、こんな具合となった。

・基本的には「雷神ソーがニューヨーク市内を闊歩し、そこで遭遇した怪事件や市井の犯罪者、テロリストに対処する」的な話で、ソーのアイデンティティに特別な変化などは起きず、事件の規模も「神々の戦い!」「宇宙が滅ぶ!」的な仰々しいものではなく、割かし地に着いたスケール(出てくるのはまあ「ぶん殴れば倒せる」程度の悪役で、悪事の規模もせいぜい「人類が滅亡するかも」程度)の話になった。

・ソーのテコ入れと言えば、「ソーが諸事情により人間に身をやつし(あるいは人間と合一して)、定命者として生活する」的な、「神さまとしてのアイデンティティの変容」が割と定番だったが(『サーチ・オブ・ゴッズ』もその路線だ)、今回の新路線ではそれは見送られた──なぜなら「そういう奴」は、1980年代後半~1990年代前半に『ソー』誌のライターを務めたトム・デファルコが何度も何度も試みていたので、当時的には手垢の付いた展開だったためだ。

 参考までに、トム・デファルコ期の『ソー』の脂の乗ってる時期をまとめた『ソー・エピック・コレクション:ザ・ブラック・ギャラクシー』。『ソー』#419-436と『ソー』アニュアル#15を収録。「死んだ友人エリック・マスターソンを救うため、ソーとマスターソンの肉体と魂が融合した!」という『ウルトラマン』的展開に始まり、「強敵との戦いのさなか、ソーとマスターソンが分離してしまった! しかし、死力を振り絞って友情の合体だ!」的な奴を経た上で、「ソーがアスガルドの禁忌を犯してしまい、次元の彼方へ追放された! 以降はエリック・マスターソンが単独で新ソーになる!」展開と、節目節目でソーのアイデンティティが変わっていく。

・また、物語の舞台をガラリと変えて、宇宙だの異世界だのにすることも避けられた。これはまあ、同時期に『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー(vol. 1)』や『ウォーロック&ザ・インフィニティ・ウォッチ』誌といった、宇宙を舞台にした「コズミック系」のオンゴーイング・シリーズが不人気で打ち切られているのが多少は影響しているのかもしれない(あるいはエリスがそういうのが趣味じゃなかったからかもしれない)。

・そして、最初のエピソードの冒頭で、ソーは父オーディンに「人界と関わり過ぎだ」と怒られ、故郷アスガルドから追放されてしまう(「オーディンによる命令」も、『ソー』のテコ入れとしては定番)。

・で、人界を彷徨っていたソーは、仇敵である魔女エンチャントレスと遭遇し、やがて彼女と恋に落ちる。以来、ソーはエンチャントレスの拠点の高級ペントハウスにて生活し、気が向いたらニューヨーク市内で起きる怪事件に対処してく感じになる(いいご身分だ)。なお、エンチャントレスはソーの恋人になって以降も、依然として悪女であり、ソーを追う探偵を怪光線で灰にするなど、独自の思惑で行動をしている。

・他方、ソー不在のアスガルドは、不明の理由により壊滅し、オーディンは記憶を失いホームレスとなっていたところをソーに発見される(他の神々は行方不明)。

・あと初期の話でソーは、なぜかは知らぬが神様としてのパワーが弱まったり、完全に無くなったりするが(アスガルド追放の影響?)、特に原因とかよく分からぬまま、ソーがゲスト出演した『インクレディブル・ハルク(vol. 1)』#440(4/1996)で、ハルクの仇敵リーダーの発明したマシンの謎の効果で元に戻った(なぜ『ソー』本誌じゃないトコで解決するのか)。

・あとソーは新しいコスチューム(1990年代流行の「顔の輪郭を覆う布」「肩パット」「なんかジャラジャラしたチェーン」「胸にX字に装着する用途不明の金色のベルト」のミックス)を獲得する……が、表紙とかゲスト出演した『ハルク』誌でしか、この新コスチュームを着ておらず、本誌ではもっぱら「上半身裸」「腰から下は全身タイツ」というスタイルをかたくなに貫いた(エンチャントレスとベッドで寝てる時もこの格好で、そのまま外出する)。

 ……そんな感じで1年間ほどメスナー=ローブス&デオダート体制で進めてきた『ソー』誌は、売り上げ的にはそこそこ成功を収めた。

 先に挙げたネット上のデータだと、この時期のデータが不明なので、代わりに筆者手持ちのコミック情報誌「WIZARD」(この時期毎月買っていた)の全米トップ100ランキングページを確認してみたが(最初からこれを見とけばよかった気もするが、気にしない)、新体制となった『ソー』#491は全米93位にランクインし、その後、#492:圏外、#493:圏外と、まあ当初は微妙だったものの、#494:41位、#495:73位、#496:53位、#497:22位、#498:63位、#499:50位、#500:26位……と、微妙に安定はしていないものの、ランキング100の「そこそこの位置」に入るようになる(ベスト20位の壁は崩せないが)。なかなか大したものだ。

※ランキングが安定してないのは、この時期、どこの会社もタイトルも、人目を惹くイベントやクロスオーバーをバンバンぶち上げていて、注目作が出た月はランキングが荒れたため、だと思う。

 しかしながら、そうした『ソー』編集部の懸命の頑張りにも関わらず、1996年初頭、マーベル・コミックス社の「偉い人」たちは、『キャプテン・アメリカ』、『アイアンマン』、『ソー』、『アベンジャーズ』、『ファンタスティック・フォー』の5誌を、一律で打ち切ることにした。

 これは、当時のマーベル社内で、ジム・リー&ロブ・ライフェルド(1990年代初頭のマーベルのスター・アーティスト。数年でマーベルとケンカ別れして、独立出版社イメージ・コミック社を創業。全米トップ20を占める人気作品を送り出していた)を、三つ指ついてマーベルに再び招き入れた上で、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォー、あとついでにソーやハルクを現代的にリメイクさせるという一大企画、『ヒーローズ・リボーン』の企画が動き出したためであった。

 まあその、ジム・リーとロブ・ライフェルドの名声は当時でもなお高く、彼らがチョロリと『キャプテン・アメリカ』や『ファンタスティック・フォー』を描けば、即、全米トップ10に入るのは明々白々であり、彼らが『ヒーローズ・リボーン』の契約に同意してくれた以上は、毎月一生懸命頭を捻って、ようやく全米30位に入れるようなタイトルなんか続ける意味がなかったのだ。ヒドい話だが。

 なので、『ソー』他の5誌は、1996年夏にマーベルが(ていうかボブ・ハラスが)総力を挙げて行った超大型クロスオーバー・イベント「オンスロート」の冒頭のストーリーとタイインした上で打ち切られ、その後の「オンスロート」のクライマックスで、アベンジャーズ+ファンタスティック・フォーの面々は、サイオニクス生命体・オンスロートを倒すために異次元空間に特攻し、マーベル・ユニバースから消え去った(『オンスロート:マーベル・ユニバース』#1(10/1996)での出来事)。

 こちらは、『オンスロート』のイベントを完全収録した『X-MEN:ザ・コンプリート・オンスロート・エピック』(全4巻)の第1巻。特別号『オンスロート:X-MEN』#1に、オンスロートが本格的に活動を開始する『X-MEN』#53-54と『アンキャニィX-MEN』#334-335、オンスロートに洗脳されたハルクがケーブルと戦う『インクレディブル・ハルク』#444&『ケーブル』#34、それにタイイン・イシューの『アベンジャーズ』#401と『ファンタスティック・フォー』#415を収録。どうでもいいが、『アベンジャーズ』#401は、マイク・デオダートがゲストで描いているため、同号のソーは「表紙では新コスチュームだが、本誌では常時上半身裸」という、『ソー』本誌でのスタイルを踏襲したスタイルで登場している。

 そうして『ソー(vol. 1)』誌は、#502(9/1996)で最終話を迎えた。話的にはオンスロートとの最終決戦の直前、ソーと盟友のレッド・ノーベルが一息つきつつ過去を振り返り、「さあ、いくぞ!」的な感じで終了した(それまでの展開の「消えた神々」の話は、ひとまず脇に置かれて、単独で「なんかいい雰囲気の最終回」が描かれた感じ)。なお、この最終話で、始めてソーは(自身のタイトル内で)新コスチュームを着ることができた。

 ちなみに、テコ入れの入った『ソー(vol. 1)』#491~最終#502までの話は、上に貼った『ソー・エピック・コレクション:ワールドエンジン』に丸々収録されている。

 収録内容は『ソー(vol. 1)』#491-502と、打ち切り後に出たメモリアル増刊『ソー:ザ・レジェンド』#1、それにクロスオーバー企画「ファースト・サイン」(それぞれテコ入れを終えた『ソー(vol. 1)』#496、『キャプテン・アメリカ(vol. 1)』#449、『アイアンマン(vol. 1)』#326、『アベンジャーズ(vol. 1)』#396の4誌で展開。テロリスト集団ゾディアックと、心機一転したヒーローらの戦いを描く)の全話分。

 ちなみに『ソー(vol. 1)』誌は、打ち切られた翌々月から、タイトルを『ジャーニー・イントゥ・ミステリー:フューチャリング・ザ・ロスト・ゴッズ』と改称して継続。ライターにちょっと前まで『ソー』誌のライターだったトム・デファルコを招き、『ソー』誌の展開の続き──記憶を失い人界をさまようアスガルドの神々が合流していく話──を書いていった。

 上はその関連誌を取りまとめた『ソー エピック・コレクション』の最新刊(2024年6月刊行予定)。『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』#503-513と『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』#-1(「マイナス1号」と銘打って、過去話をやる企画)、それに『ヴァルキリー』#1、『ハーキュリーズ&ザ・ハート・オブ・ケイオス』#1-3を収録。

 ちなみに、「ビッグ3」と並ぶマーベルの看板キャラクターである「ハルク」が主役を務める『インクレディブル・ハルク』誌は、ベテランライターのピーター・ディビッドが超長期連載を続けてて、まあ安定した人気を誇っていたため、打ち切りは食らわなかったのだが、代わりに『オンスロート』の作中で、ハルクとブルース・バナー(ハルクの「中の人」)が分裂してしまい、このうちバナーだけが異次元に飲み込まれて失踪……という感じで、「ブルース・バナーを『ヒーローズ・リボーン』企画のために貸し出しつつ、残ったハルクで『インクレディブル・ハルク』誌の連載を継続する」というアクロバティックな展開をしてみせた。


 んでもって、「オンスロート」完結から3ヶ月後の1996年9月より開始された「ヒーローズ・リボーン」版『キャプテン・アメリカ(vol. 2)』(ロブ・ライフェルド担当)、『ファンタスティック・フォー(vol. 2)』(ジム・リー担当)、『アイアンマン(vol. 2)』(ジム・リー側のウィリス・ポータシオ担当)、『アベンジャーズ(vol. 2)』(ライフェルド側のジェフ・ローブ&イアン・チャーチル担当)の4誌は、マーベルの目論見通りに全米ベスト10を席巻した。


 こちらは『キャプテン・アメリカ(vol. 2)』をまとめた単行本『ヒーローズ・リボーン:キャプテン・アメリカ』。『キャプテン・アメリカ(vol. 2)』全12号と、『アイアンマン(vol. 2)』#12、『ファンタスティック・フォー(vol. 2)』#12、『アベンジャーズ(vol. 2)』#12(各々の最終話である#12は、4誌をまたいだ話が展開されており、他の3誌の#12を収録することで、単巻で話が通るようにしている)、あと「WIZARD」の付録として刊行された『ヒーローズ・リボーン』#1/2掲載の予告編も収録。


 続いて『アイアンマン(vol. 2)』を収録した『ヒーローズ・リボーン:アイアンマン』。『アイアンマン(vol. 2)』#1-12に加え、『アベンジャーズ(vol. 2)』#6(ちょっと話的にリンクしている)と、『キャプテン・アメリカ(vol. 2)』#6巻末の数ページ分(これもちょっとリンクしている)、それと『キャプテン・アメリカ(vol. 2)』#12、『ファンタスティック・フォー(vol. 2)』#12、『アベンジャーズ(vol. 2)』#12と、『ヒーローズ・リボーン』#1/2掲載の予告編を収録。

 こちらは『ファンタスティック・フォー(vol. 2)』をまとめた単行本『ヒーローズ・リボーン:ファンタスティック・フォー』。『ファンタスティック・フォー(vol. 2)』#1-12を収録(他の3誌の#12は未収録)。

 ラスト、『アベンジャーズ(vol. 2)』をまとめた『ヒーローズ・リボーン:アベンジャーズ』。やはり『アベンジャーズ(vol. 2)』#1-12のみ収録。


 ああ、ちなみに「ヒーローズ・リボーン」の企画において、ソーは単独で「リボーン」されず、チームものの『アベンジャーズ(vol. 2)』誌の方で、「主役級のキャラクターのひとり」として登場した。多分、リー&ライフェルドと、それぞれが率いるスタジオは、キャパシティ的に月刊誌を各2誌、計4誌やる程度が上限だったので(多分ね)、『ソー』を単独のオンゴーイング・シリーズとして刊行するのは見送られたのではないかと思う(なお、ハルクも単独では「リボーン」されず、『アイアンマン』誌のサブキャラクターとして登場)。

 なお、「ヒーローズ・リボーン」世界は、その前後のコミックでの補完で、フランクリン・リチャーズ(ファンタスティック・フォーのミスター・ファンタスティックとインビジブルウーマンの長男)が、自身の持つ強力な現実改編能力を無意識に発動させて作り出した閉鎖空間(ポケット・ユニバース)であり、オンスロート事件で次元門に特攻したヒーローらはフランクリンの無意識によって救出され、この世界に「リボーン」された存在である……と、説明された。

 で、どうやらフランクリンの現実改編能力は、神であるソーに対しては、あまり上手く働かなかったようで、『アベンジャーズ(vol. 2)』のストーリーの途中で、オンスロート事件で次元の彼方に消えたソーが、「ヒーローズ・リボーン」世界に流れ着き、「ヒーローズ・リボーン」世界のソー(実はフランクリンの能力で生み出された「複製」だったらしい)と対面するという、そこそこ驚きの展開がなされた(その後「複製」と判明した方のソーは、『アベンジャーズ(vol. 2)』#11での決戦で死亡)。


 で、結局のところ「ヒーローズ・リボーン」の4誌は、予定していた1年間・全12話の物語を終わらせ、一応、セールスも好調なまま大団円を迎えた。──実際のところは、全12話を半分ほど消化したところでライフェルド側が降板し、以降、4誌すべてをジム・リーのワイルドストーム・スタジオが総出で担当することになったりはしたが、まあ、なんとか破綻せずに終わらせた。

 マーベルは感謝の印にワイルドストーム・スタジオが刊行しているコミックのキャラクターが、マーベルのキャラクターと共演する、全4話の「ワールド・コライド」編(『キャプテン・アメリカ』『ファンタスティック・フォー』『アイアンマン』『アベンジャーズ』4誌の#13として発売)も刊行した。ちなみにこの#13は、権利上の関係から、単行本化も、電子書籍化もされていない。

 んで、マーベル側はワイルドストームに対し、このまま4誌を続けることも打診していたが、ジム・リーは「キャパシティ的に無理」と断り、夢の企画は1年限定で終了することとなった。

(なお、「古典的なヒーローを本来のマーベル・ユニバースとは異なる世界で再生させる」という『ヒーローズ・リボーン』のコンセプトは、後年の『アルティメット・スパイダーマン』他の『アルティメット』レーベルに、より洗練された形で継承される)


 さて、1997秋に刊行された『キャプテン・アメリカ』『ファンタスティック・フォー』『アイアンマン』『アベンジャーズ』の#13(11/1997)をもって、『ヒーローズ・リボーン』の企画は終了し……マーベルは、すかさず「リボーン」したヒーローらを元のマーベル・ユニバースに戻すことにした。

 そんなわけでマーベルは、『リボーン』完結の翌月から、リボーンしたヒーローらが、彼らの住む世界の成り立ちを知り、マーベル・ユニバースへの期間を試みると言う筋立ての全4話のリミテッド・シリーズ『ヒーローズ・リボーン:ザ・リターン』(12, 12, 12, 12, /1997)を開始する。

 で、同シリーズは週刊ペースで刊行され、ほんの1ヶ月でヒーローらはマーベル世界への帰還を果たした。いくらなんでも早すぎる感はあるが、まあ、マーベルとしては鉄は熱いうちに打っておきたかったのだろう。

 こちらが『ヒーローズ・リボーン:ザ・リターン』の単行本。リミテッドシリーズ全4号に加えて、後年に刊行された、ヒーローズ・リボーン世界を舞台にしたワンショット群(『ヒーローズ・リボーン:ドゥームズディ』他7編)を収録。

 内容的には、ベテランのピーター・デイビッドが、熟練の技でフランクリンの生み出したヒーローズ・リボーン世界の帰趨と、ヒーローらの帰還をテキパキ取りまとめた佳作。


 で、『ヒーローズ・リボーン:ザ・リターン』の完結に合わせ、マーベルはすかさず、「ヒーローズ・リターン」と銘打ったイベントを始動。『ザ・リターン』完結の翌月に『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』#1(1/1998)と『ファンタスティック・フォー(vol. 3)』#1(1/1998)を創刊し、さらに翌々月には『アイアンマン(vol. 3)』#1(2/1998)と『アベンジャーズ(vol. 3)』#1(2/1998)を創刊した上で、臆面もなく「クラシカルで王道なヒーローが帰ってきた!」と宣伝した。

 ……その、『ヒーローズ・リボーン』の企画が始まる前から、コミック業界は派手なイベントをバンバン連発していく手法に疲弊していて、代わりに「派手さはないが、きちんと面白い」王道ヒーロー路線への回帰が進んでいた。なので、マーベルは『リボーン』が終わるや否や、4誌を王道路線(『リボーン』とはまあ、真逆な方向性だ)に乗り入れさせた。ていうかまあ、『リボーン』終了早々に『ザ・リターン』を突っ込んできたのは、大分出遅れてしまっていた「王道展開路線」を一刻も早く始めたかったからなのだろう。

 ちなみに、この「王道路線」は、『リボーン』前に『キャプテン・アメリカ(vol. 1)』誌のテコ入れのために招かれたマーク・ウェイドと(この人もDCの『フラッシュ』誌での成功を見込まれて連れて来られた)、『マーベルス』で一躍名を馳せたカート・ビュシークという2人のライターが牽引して巻き起こしたムーブメントであったが、マーベルは「ヒーローズ・リターン」の展開において、ちゃっかりこの2人をライターとして起用している(ウェイドが『キャプテン・アメリカ』誌に復帰し、ビュシークは『アイアンマン』と『アベンジャーズ』の2誌を任された)。

 で、それら「ヒーローズ・リターン」路線の新タイトル4誌の創刊から半年ばかり遅れて、リボーン世界から帰還したソーの冒険を描く『ソー(vol. 2)』#1(7/1998)が創刊された。なぜ『ソー』誌だけ新タイトルの立ち上げが遅れたかは不明である。作家陣のスケジュール調整なりで手間取ったのかもしれない(ちなみに『ザ・リターン』の作中では、ソーは元の世界へ帰還する途上で、色々あって次元流の彼方に流されてしまった……という描写があり、「だから、一人だけリターンが遅れた」というエクスキューズがなされていた。<こういう現実のコミックの事情を、実際のコミックの内容に反映させる手法、結構好き)。

 そんな感じで、1990年代のソーは「不人気からの若い作家のアイデアでテコ入れ」「テコ入れ無視して人気作家による派手な企画で人気を回復」「人気回復したので手堅い作家を迎えて王道回帰路線」……的な感じの紆余曲折を経て、続くミレニアムを迎えることになるのだった。

 以上。


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