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■マーベルズ

■Marvels
■Writer: Kurt Busiek
■Artist: Alex Ross
■翻訳:田中敬邦 ■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0B7QJPYYY

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第15号は、1994年に刊行された全4号のミニシリーズ『マーベルズ』。

 オリジナルの『マーベルズ』#1-4(1-4/1994)と、シリーズの完結後に刊行された#0(8/1994)に掲載された短編「ジ・オリジン・オブ・ヒューマントーチ」(序文の前に掲載されている話)を収録。

今から70年以上前、突如現れた超人類。炎の男が街を歩き、あざやかな自警団が切り立った壁を登り、異世界から来た銀色の異星人が世界破滅の予兆をもたらすという街で、マーベル・ユニバースの誕生に立ち会った一般人の反応はどのようなものであったのか? この超人たちは世界の人類になにをもたらすのか?(第15号表4あらすじより抜粋)

 本作は、かつて1998年に小学館集英社プロダクション(当時は小学館プロダクション)より邦訳本が刊行され、その後、2013年に同社より新装版が刊行された(翻訳はいずれも秋友克也)。

 こちらが1998年版。当時は「Marvel」の公式なカナ表記は「マーヴル」だったので、書名は『マーヴルズ』になっている(ネット古書店などで検索するときは注意)。

 こちらが2013年版。旧版との差異は、小学館集英社プロダクションのブログ「アメコミ魂」に載っていたのでそちらを参照。

 そんな訳で本書は今回で3回目の翻訳になるが、まあ正直な話、『マーベルズ』という作品だけを読みたい、という場合は、まだ新品が普通に流通している小学館集英社プロダクション版を買った方が良い気はする(値段的にはあっちの方が500円ばかり高いが、小プロ版はアシェット版よりも30ページほど多く、巻末の資料が充実しているので、その分の値段と思おう)。

 ちなみにアシェット版は、2008年に刊行された『マーベルズ』新版単行本を定本としていると思われる(表紙が同じなので)。


 なお、原書ではこの2008年版単行本は絶版になっており、代わりに2018年に『マーベルズ:リマスタード・エディション』が刊行された。

 なお、こちらの単行本はKindleアンリミテッドに加入していれば、無料で読むこともできる(どこがどう「リマスター」されているかは未確認)。

 それから2019年には、『マーベルズ』25周年を記念して、本編の再録+作中に盛り込まれた細かなネタの数々をつまびらかにする解説ページ+資料ページで構成された『マーベルズ・アナテイテッド』全4号も刊行された(#1には#0とその解説も収録)。

 この解説&資料が、まあ、圧倒的な熱意と物量の産物になっており(なにせ再録された本編よりもボリュームがある)、一読の価値はある。


 後は、2004年に刊行された400ページ越えの10周年ハードカバー版とか、2008年に刊行された新版ハードカバーなども刊行されているが、Amazonで引っかからないので省略する。


 要は、この『マーベルズ』という作品は、アメリカ、そして日本で幾度も再版されている傑作なのである(そして、無数に選択肢があるなら、良いものを選ぶべきだ)。


 さて、マーベル・コミックス社は、本作『マーベルズ』の商業的な成功に気を良くし、その後、『マーベルズ』的な作品(大雑把に言えば、「一般人の視点から見たマーベル・ユニバースの歴史の話」を、「ペイントアートで描いたもの」)を、いくつか刊行していく。

 具体的には、以下の作品群になる。

・『テールズ・オブ・マーベルズ:ブロックバスター』#1(4/1995):ニューヨーク市内でのシルバーサーファーとテラックスとの戦いに巻き込まれ、家族を喪ったローマン・スチュワート青年が主人公。作:マイク・バロン、画:ショーン・マーティンブロー。

・『テールズ・オブ・マーベルズ:ワンダー・イヤーズ』#1-2(8-9/1995):ワンダーマンに生命を救われ、彼に強い憧れを抱くようになった平凡な少女シンディ・ナッツとその友人ベルナデットの物語。作:ダン・アブネット&アンディ・ラニング、画:イゴール・コーディ。

・『テールズ・オブ・マーベルズ:インナーデーモン』#1(1/1996):ファンタスティック・フォーがデビューした直後を舞台に、ニューヨーク市の下町に住む青年ショーン・マホーニーと、正体不明のホームレス「オールドマン」との交流を描いた物語。作:マリアーノ・ニシーザ、画:ボブ・ウェイクリン&スタジオ・インフィニティ。

・『ルインズ』#1-2(8-9/1995):『マーベルズ』をひたすらに露悪的にパロディした怪作。全ての「奇跡」が最悪な結果を迎えた暗黒の未来で、新聞記者フィル・シェルダンは、無数の人々にインタビューを行うが……。作:ウォーレン・エリス、画:クリフ・ニールセン、テレーズ・ニールセン、クリス・モーラー。

・『コード・オブ・オナー』#1-4(1, 3-5/1997):ニューヨーク市警に勤める黒人警官ジェフリー・パイパーの眼から見た近代のマーベル・ユニバースの歴史を描く。作:チャック・ディクソン、画:トリスタン・シェーン、ブラッド・パーカー。

・『コンスピラシー』#1-2(1998):デイリー・ビューグル新聞社に勤める新聞記者マーク・ユーイングが、偶然発見した過去の資料から、アメリカ政府と軍による「陰謀(Conspiracy)」に巻き込まれるサスペンス。時系列的にはスパイダーマンの「クローン・サーガ」の時期。作:ダン・アブネット、画:イゴール・コーディ。

 で、上記の『マーベルズ』フォロワーの作品は、後年、2014年に500ページ強の単行本『マーベルズ・コンパニオン』としてひとまとめに刊行された(よりによって『ルインズ』が表紙に)。


 が、同書は再版されておらず、現在では入手困難。電子書籍版も刊行されていない(そして例によってマーケットプレイスで法外な値段が付けられている)。

 収録作品では、かろうじて『ルインズ』が電子書籍化されている程度か。


 で、当時のマーベルは、上記のような『マーベルズ』のフォロー作を刊行する一方で、オリジナルの作家陣であるカート・ビュシークとアレックス・ロスに、『マーベルズ』の続編企画を依頼した……が、この企画は形になる前にアレックス・ロスが降り(続編に登場するであろうパニッシャーやウルヴァリンの様なキャラクターを描きたくなかったかららしい)、やがてカート・ビュシークも降りて企画は立ち消えた(ビュシークが練っていた物語の構想は、彼のオリジナル作品『アストロシティ:ダークエイジ』にいくらか受け継がれたという)。


 が、その後、2008年に、カート・ビュシーク単独で『マーベルズ』の正統な続編である『マーベルズ:アイ・オブ・ザ・カメラ』#1-6(2, 2, 3-4, 6/2009, 4/2010)が刊行されている(画:ジェイ・アナクレト)。

 同作は、老境を迎えたフィル・シェルダンが、己の人生の決算のために報道の現場に復帰し、暗く殺伐としたものに変わりゆく世界と対峙する一方で、思いがけない人物と再会する……という物語。個人的には好きな作品だが、「あまりにも悲観的過ぎる」という評も、まあ、うなずけなくはない。


 また、その後2019年に、『マーベルズ』刊行25周年を記念し、カート・ビュシーク&アレックス・ロスのオリジナル・コンビによる16ページの短編『マーベルズ エピローグ』#1(9/2019)が刊行された。

 同作は『マーベルズ』のラストから『マーベルズ:アイ・オブ・ザ・カメラ』の合間の話で、引退したフィル・シェルダンが娘と共にクリスマスを過ごしていたところ、『X-MEN』#98(4/1976)で描かれた、X-MENとミュータント・ハンターロボット「センチネル」との戦いを目撃する……という物語(なので、アレックス・ロスも観念してウルヴァリンを描いた)。

 で、このエピローグは、同年に刊行された単行本、『マーベルズ 25thアニバーサリー』に収録されている。

 この単行本は、前述した『マーベルズ・アナテイテッド』全4号と、『マーベルズ エピローグ』、それに当時マーベルが企画した「マーベルズ 25thトリビュート・ヴァリアント・カバー」のイラストを収録した487ページの大冊。現時点での『マーベルズ』の「最終版」と言える。

 なお、Kindleでは、『マーベルズ エピローグ』単話の電子書籍も安価で発売されている。

 旧来の『マーベルズ』を持っていて、わざわざエピローグのためだけに『25thアニバーサリー』を買いたくはない、と言う方はこちらを買うのも良いだろう(まあ、『25thアニバーサリー』の電子書籍版は結構安いので、本作が好きならばあらためて買うのもアリだ)。


 この他、2020年にはアレックス・ロスの別企画『アースX』の続編である『マーベルズX』が刊行されたり、翌2021年には、『マーベルズ』の前にアレックス・ロスが企画していたアンソロジー・シリーズ『マーベル』が30年を経て実現したり、カート・ビュシークがライターを務める全12話のシリーズ『ザ・マーベルズ』が刊行されたりと、『マーベルズ』っぽい作品がちょいちょい登場しているが、まあ、オリジナルの『マーベルズ』とは路線の違う作品であるので、今回はパス。


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