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■ブラックパンサー:フー・イズ・ブラックパンサー?

■Black Panther: Who is the Black Panther?
■Writer:Reginald Hudlin
■Penciler:John Romita Jr.
■翻訳・監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BHMZTQ7J

 「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第20号は、アフリカ系アメリカ人の映画監督レジナルド・ハドリンをライターに迎えて2005年に創刊された『ブラックパンサー(vol. 4)』の最初のストーリーライン「フー・イズ・ザ・ブラックパンサー?」を単行本化。

ブラックパンサーとは何者なのか? 何世紀にもわたり、アフリカの高度先進国ワカンダ王国は、気高い戦士であり王である歴代のブラックパンサーによって守られてきた。そして今、現国王ティ・チャラは、ワカンダの貴重な資源を奪おうとする外敵から国を守るため、彼らとの戦いに挑む。

第20号表4あらすじより抜粋

 収録作品は、『ブラックパンサー(vol. 4)』#1-6。

 なお、マーベルから刊行された『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』の単行本は、最初に出たハードカバー版単行本(2005年刊)およびそのソフトカバー版(2006年刊)が、『ブラックパンサー(vol. 4)』#1-6を収録しており、おそらく本書はこの単行本を底本としている。

 これが最初のハードカバー版。まあ、今買う意味はない。

 こっちが、上記旧版のKindle版。表紙も、収録内容も同じ。

 で、その後2009年に刊行された新装版単行本は、上記の『ブラックパンサー(vol. 4)』#1-6に加えて、ブラックパンサーの初登場号である『ファンタスティック・フォー』#52-53(7-8/1966)も追加で収録された。

 こちらがその新装版単行本(表紙が新しくなった)。実はこちらは電子書籍版はない(旧版は電子書籍化されているのに)。

 代わりに、2021年に「マーベル・セレクト」レーベルで刊行された、『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー マーベル・セレクト』の電子書籍版が、新装版単行本と同じ内容なので(表紙は元に戻ったが)、『ファンタスティック・フォー』#52-53も読んでおきたいという方は、こちらを。


 ちなみに日本では、2016年に小学館集英社プロダクションから(映画『ブラックパンサー』の公開合わせで)、新装版『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』の単行本を底本にした邦訳版『ブラックパンサー:暁の黒豹』が刊行されている。

 収録作品は底本と同じく『ブラックパンサー(vol. 4)』#1-6と『ファンタスティック・フォー』#52-53(ちなみに表紙は、新装版のものではなく、エサッド・リビッチによる、『ブラックパンサー(vol. 4)』#1のヴァリアント・カバーのアートを採用)。紙の単行本は在庫切れだが、幸い電子書籍化もされているので、こちらを購入するのも良いだろう。

 なお、マーベルからは、同タイトルの「小説」も出ているので、安いからと言って間違って買わないように注意。


 話を戻すが、本作のライター、レジナルド・ハドリンは、本業が映画監督ながら、結構ガチでこの『ブラック・パンサー』のオンゴーイング・シリーズに取り組んでおり、その連載は、2005年から2009年まで、実に4年間にも及んだ。

 で、この時期の『ブラックパンサー』誌は、『ハウス・オブ・M』、『シビル・ウォー』、『シークレット・インベージョン』などの大型イベントともタイインしつつ、ブラックパンサーとストームの結婚や、ブラックパンサーのファンタスティック・フォー加入、更には当時人気の『マーベル・ゾンビーズ』とのリンク等々、盛り沢山の内容になっているので、シリーズを通しで読むのも一興だろう。

 てなわけで、以降、『ブラックパンサー(vol. 4)』の単行本を紹介していく。

 さて、『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』に続く『ブラックパンサー(vol. 4)』#7(10/2005)だが、いきなり当時のマーベルの大型イベント『ハウス・オブ・M』とタイインし、平行世界アース-58163(ハウス・オブ・M世界)を舞台にした番外編が掲載される。

 物語は、ハウス・オブ・M世界でミュータントの王マグニートーの承認の元、各地の支配者となったブラックパンサー、ネイモア、ブラックボルト、ストームら「カウンシル・オブ・キングス」の活躍を描いた読み切りで、「ブラックパンサーがストームに気があった」ということが、元の世界に先駆けて言及されている。

 で、この話は、『ブラックパンサー』の単行本ではなく、上の『ハウス・オブ・M』の短編集、『ハウス・オブ・M:ワールド・オブ・M フューチャリング・ウルヴァリン』に収録されている。

 で、続く『ブラックパンサー』#8-9は、『X-MEN(vol. 2)』誌とクロスオーバーしており、これは単行本『X-MEN/ブラックパンサー:ワイルド・キングダム』に収録。

 収録作品は『X-MEN(vol. 2)』誌の#175-176(11-12/2005)と、『ブラックパンサー(vol. 4)』8-9(11-12/2005)。

 ワカンダの隣国のニガンダ(『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』にも登場)で、ワニやライオンのミュータントが目撃されたことから、調査のためにストーム、ウルヴァリンらX-MENが出動。現地にてブラックパンサーと遭遇したX-MENは、ニガンダ政府に雇われた医師エリック・ペインが、人為的にミュータント動物を作り出していることを知らされる……といった話(で、共闘の合間に、青年時代にストームに恋心を抱いていたブラックパンサーが、彼女とよりを戻そうとしていく)。

 それに続く話が、『ブラックパンサー:バッド・ムータ』で、『ブラックパンサー(vol. 4)』#10-13(1-4/2006)を収録。

 ニガンダへの処置などを国連の議場で表明するために、ニューヨークにやってきたブラックパンサー。偶然出会ったルーク・ケイジ(デビュー前のギャング時代に、ブラックパンサーに強い敬意を抱いていた、という設定が本作で登場)を雇ったパンサーは、当時ルイジアナを襲ったハリケーンの災害救助のためにニューオーリンズに赴く一方、謎の忍者軍団に襲われたり、吸血鬼との戦いに巻き込まれていく……的な話で、ファルコン、ブレイド、ブラザー・ブゥードゥー、モニカ・ランボーといった黒人キャラクターと、シャン・チーがゲスト出演。

 続いては、『ブラックパンサー(vol. 4)』#14-18(5-9/2006)を収録した『ブラックパンサー:ザ・ブライド』。#14でブラックパンサーがストームに求婚し、ストームが割とアッサリ了承。以降、国民へのお披露目、母親との対面、記者会見、バチェラー・パーティー等々を経ての結婚式を、5話をかけて丁寧に描く。なお、#18は、当時のイベント『シビル・ウォー』とタイインしており、ブラックパンサーが、「超人登録法」を巡って対立しているアイアンマンとキャプテン・アメリカを結婚式に招き、仲直りを画策するも、2人も怒って帰る……というシーンが挿入されている。

 で、続く単行本『シビル・ウォー:ブラックパンサー』は、『ブラックパンサー(vol. 4)』#19-18(10/2006-4/2007)を収録。

 新婚旅行で世界各国を巡ることにしたブラックパンサーとストーム。まずは結婚式に呼ばれずに拗ねてるドクター・ドゥーム(まあ、直前までドゥームは『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』での騒動の結果、地獄に封じられてたので、招待しようがなかったのだが)の統治するラトヴェリアに赴くも、ワカンダに一方的な要求を突き付けてくるドゥームとケンカ別れ、その後も行く先々(インヒューマンズの月面都市や、ネイモアの統治する海底王国アトランティス)で騒動に巻き込まれていく……という前半(#19-21)と、アメリカに立ち寄った2人が、本格的に「シビル・ウォー」事件に巻き込まれ、アイアンマンと対立。なし崩しにキャプテン・アメリカ側に味方するが……という後半部(#22-25)で構成される。

 ちなみに本作は、ヴィレッジブックスから『ブラックパンサー:シビル・ウォー』として邦訳版が発売されていたが、同社が出版事業から撤退した現在、入手は困難になっている。

 次は、『ブラックパンサー:フォー・ザ・ハードウェイ』。『ブラックパンサー(vol.4)』#26-30(5-10/2007)を収録。

「シビル・ウォー」事件の後、ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)とスー・リチャーズ(インビジブルウーマン)夫妻が同チームをしばらく離れることになる。そしてリード&スーの要望を容れたブラックパンサーとストームは、チームに残ったヒューマントーチ、シングと共に新生ファンタスティック・フォーを結成する。

 で、『ファンタスティック・フォー』#544-546(5-7/2007)で、宇宙の深淵でのギャラクタス絡みの任務を終えた新ファンタスティック・フォーは、本書の冒頭で、拠点であるバクスター・ビルディング(今やワカンダ大使館も兼ねる)に戻るが、直後、異世界ネガティブゾーン(「シビル・ウォー」において、反体制派のヒーローらが収監される刑務所が置かれている)から到来した昆虫人間(無闇にタフ)を放逐するために、先の事件の解決のために用いた「ソロモン王のカエル(ジャック・カービーによる『ブラックパンサー(vol. 1)』で初登場した時空間移動装置)」を起動し、他の並行世界に移動する……が、たどり着いた先は、ヒーローらがゾンビと化した世界だった! という具合に、『マーベル・ゾンビーズ』とタイインしていく。

 ちなみに、ヴィレッジブックスから刊行されていた邦訳『マーベルゾンビーズ:デッド・デイズ』には、『ブラックパンサー(vol. 4)』#28-30が収録されていた(無論、現在では入手困難)。

 ついでに、新生ファンタスティック・フォーの最初の冒険を描いた『ファンタスティック・フォー』#544-546は、こちらの『ファンタスティック・フォー:ザ・ニュー・ファンタスティック・フォー』に収録。この間紹介した、J・マイケル・ストラジンスキー期の『ファンタスティック・フォー』が終了して、新ライターのドウェイン・マクダフィーに交代した時期にあたる。

 続く話が、『ブラックパンサー:リトル・グリーン』。こちらは『ブラックパンサー(vol. 4)』#31-34(12/2007-3/2008)を収録。引き続き気まぐれな「ソロモン王のカエル」の時空転移に巻き込まれた新生ファンタスティック・フォーは、1969年の『ファンタスティック・フォー』誌で初登場した惑星クラルIVに転送され、「ネタバレになるので登場人物の名前も挙げられないが、よくこんな突拍子もないバカ話を思いついたな、レジナルド・ハドリン」としか言いようのない冒険を繰り広げる。

 で、次は『ブラックパンサー:バック・トゥ・アフリカ』。増刊号『ブラックパンサー(vol. 4) アニュアル』#1(4/2008)と、『ブラックパンサー(vol. 4)』#35-38(5-9/2008)を収録。『アニュアル』は、一連の「ソロモン王のカエル」の話のエピローグで、カエルが見た可能性の未来の話。『ブラックパンサー』#35-38は、長いこと不在にしていたワカンダに帰還したブラックパンサーが、ニガンダを掌握した仇敵エリック・キルモンガーと対決する。シリーズ初期に提示されてた伏線が収束する、『ブラックパンサー(vol. 4)』の完結編的なエピソード。

 続く単行本『シークレット・インベージョン:ブラックパンサー』に収録されている、『ブラックパンサー(vol. 4)』#39-41(9-11/2008)をもって、『ブラックパンサー(vol. 4)』は完結する。

 こちらは、当時のマーベルの大型クロスオーバー『シークレット・インベージョン』とタイインしており、地球侵略を開始したスクラル人の軍団が、ワカンダ王国にも攻め込んでくる話。なお、本作はハドリンではなく、ゲスト・ライターのジェイソン・アーロンが手掛けているのだが、これだけ外すのもなんなので、一緒に紹介する。

 その後、レジナルド・ハドリンは、新規に創刊された『ブラックパンサー(vol. 5)』の最初のエピソード、「デッドライエスト・オブ・ザ・スピーシーズ」を手掛た後、『ブラックパンサー』誌のライターを降りた。上の単行本には、『ブラックパンサー(vol. 5)』#1-6(4-9/2009)を収録。

 内容的には、『ブラックパンサー(vol. 4)』での一件で、ブラックパンサーに勝手に敵意を抱くに至ったドクター・ドゥームの謀略によりブラックパンサー(ティチャラ)が重傷を負い、ワカンダ国内が混乱に陥る中、『アメイジング・スパイダーマン:カミング・ホーム』にも登場したモールンが突如ワカンダに顕現。混沌とする状況下で、ティチャラの妹のシュリ(『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』で初登場)が、新ブラックパンサーとなって故国を守るべく奮戦する……という話で、「シュリのブラックパンサー襲名」と「ドクター・ドゥームとの対決」という、以降の『ブラックパンサー(vol. 5)』誌のストーリーの柱となるエピソードが提示されている。

 なお同書は小学館集英社プロダクションから、2022年に『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』として邦訳が刊行されている(こちらは映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』合わせでの刊行)。

 またハドリンは、2010年にリミテッド・シリーズ『ブラックパンサー/キャプテン・アメリカ:フラッグズ・オブ・アワ・ファーザーズ』全4号(6-9/2010)も手掛けている。

 こちらは、第2次世界大戦当時、ワカンダを訪れたキャプテン・アメリカとならず者部隊ハウリング・コマンドーズが、当時のブラックパンサーと共闘するという内容で、コマンドーズ所属の黒人兵士ゲイブ・ジョーンズとブラックパンサーとの友情も描かれる。

 ちなみに本作は、元々はクリストファー・プリーストが『ブラックパンサー(vol. 3)』の中で描いた、「第2次大戦当時にキャプテン・アメリカとブラックパンサーが共闘していた」エピソードを膨らませたもので、オリジナルの話ではティチャカ(ティチャラの父親)がキャプテン・アメリカと共闘していた。しかし、さすがに2010年に刊行される作品で、ティチャカが大戦当時に成人していたのは無理があるため、本書ではティチャカの父親のアズーリ王がキャプテンと共闘している。


 と、長々とレジナルド・ハドリン期の『ブラックパンサー』誌の単行本を紹介してきたが、ブッチャけた話、ハドリン期の『ブラックパンサー』は、現在では単行本『ブラックパンサー・バイ・レジナルド・ハドリン:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻にまとめられているので、そちらを買うのがベターだろう。

 こちらが第1巻。『ブラックパンサー(vol. 4)』#1-18と、同作とクロスオーバーしている『X-メン』#175-176を収録。

 で、第2巻。『ブラックパンサー(vol. 4)』#19-34と、アニュアル#1を収録。

 第3巻。『ブラックパンサー(vol. 4)』#35-41に加え、ハドリンが担当した『ブラックパンサー(vol. 5)』#1-6と、『ブラックパンサー/キャプテン・アメリカ:フラッグス・オブ・アワ・ファーザーズ』#1-4も収録しており、スキがない。

 以上。久々に長文を書いて疲れたので、今回はここまで。


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