3-4.非常時をアサーティブに暮らす
(特集 新型コロナウィルスに負けないためのココロの道具箱)
竹田伸也(鳥取大学医学部准教授)
もう一方のコンテンツは,アサーションをテーマにしています。私がアサーション資料を作成しようと考えたのには,コロナ禍に伴う社会状況の変化があります。
ドラッグストアでは,マスク等の欠品がいたるところで続いています。そうしたなか,客から激しく責め立てられたり暴言を吐かれたりして,接客に恐怖を感じたり深い傷つき体験となったりした店員のニュースをご覧になった方もいらっしゃると思います。家庭ではDVが増えているという大変心配なニュースもあります。また,感染者に対する心無い言葉を始めとする偏見や差別に基づく対応もみられるようです。
そこまで深刻な問題でなくても,職場において同僚に一方的な要求をして軋轢が生まれる。些細なことで,相手を強い口調で責めてしまう。こんな風に,コミュニケーションにおける攻撃的表現がいたるところでみられているのではないでしょうか。
コロナ禍により,私たちは連日不安や制限を抱えながら暮らしています。こうした終わりの見えづらい強いストレス下では,視野狭窄が起こりやすく,それによって物事を柔軟に考えることが難しくなることがあります。その結果,余裕を無くしたり,自己中心的な視点に留まったりすると,攻撃的表現は起こりやすくなります。
そのため,今このときにこそ,自他尊重の心に基礎づけられたコミュニケーションであるアサーションを,私たちが身につける必要があるのではないかと考えました。
下記で紹介するコンテンツのなかでは,攻撃的表現を「オッシー」と,アサーティブな表現を「ハッキリン」と,それぞれキャラクターとして外在化しています。これは,元々遠見書房から出版した『クラスで使える! アサーション授業プログラム:自分にも相手にもやさしくなれるコミュニケーション力を高めよう』(遠見書房,2019)で用いたキャラクターです。
アサーションを考えるときに,私たちが気をつけておかなければならないことがあります。それは,攻撃的表現を,個人的特性としてしまわないことです。
人間関係でトラブルが生じたとき,私たちはつい「あの人は嫌な人だ」とか「あいつはクレーマーだ」のように,相手をネガティブなレッテルを通して見てしまうという認知的偏り(ラベリング)に陥りがちです。このようなことがコミュニケーションにまで侵食し,「あの人はオッシーだ」のようにラベリングしてしまうと,人と人とのコミュニケーションはますます難しくなります。特に,今回のコロナ禍によって,物事を冷静に眺める力を損ねる可能性に私たちが置かれているのであれば,「あの人は糾弾されて然るべきだ」のように,他人に対して何らかの評価を下し行動する自分を顧みて,そこに攻撃的表現が隠れていることに気づくことが難しくなります。
ですので,こうした事態でこそ,「オッシー(攻撃的表現)」は誰もが持っていると理解することは重要です。それによって,攻撃的な表現を他人事とせず,自分の課題として私たち誰もが受け止める。私たちが,自他尊重のコミュニケーションを育むには,そのようなマインドセットが求められると思うのです。
コンテンツのなかでは,アサーション(ハッキリン)を用いるためのポイントを4つに絞りました。これも,「この程度ならできそう」と思っていただくことで,アサーションを実践する動機づけを高めることを狙っています。
ストレスフリーのコミュニケーション『ハッキリン』を育てる道具箱
コンテンツは,「ストレスフリーのコミュニケーション『ハッキリン』を育てよう」と名づけました。
コロナ禍で,私たちは連日不安や制限を抱えながら暮らしています。このような終わりの見えづらい強いストレス下では,つい攻撃的な言葉づかいになってしまうことがあります。
職場で,相手に一方的に要求を伝えてしまう。お店で,店員に頭ごなしにどなりつけてしまう。家庭で,些細なことでつい声を荒げてしまう。
コロナ禍のように,見通しが立たず思い通りにならないことが多いなか,力任せに伝えることでせめてその場を思い通りにコントロールしたい。いろんな制限が伴い,生活も苦しくなるやるせなさを,力任せに伝えることで表したい。そうした気持ちが,知らず知らずのうちに私たち誰の心にも浮かぶことがあるかもしれません。
ですが,力任せに伝えることで,誰にもメリットなんかありません。それは,これまで強く言ってしまった時,強く言われた時を思い返していただけたら,納得していただけるのではないでしょうか。
心理学では,お互いに嫌な思いをせず,むしろお互いの持つ力を高めるようなコミュニケーションがあります。それを,「アサーション」といいます。アサーションは,自他尊重の心に基づくコミュニケーションです。
ここでリリースしている資料では,オッシーとハッキリンというキャラクターを用いて,誰もがアサーションを無理せず生活に取り入れる工夫についてお伝えしています。
このコンテンツは,どなたにもご利用いただけます。どのような形で利用していただいても大丈夫ですので,皆さまの日々の仕事にお役立ていただけたらと思います。
(編集部注:竹田先生の資料を以下に貼り付けます。全貌は下記サイトにあるPDFをダウンロードしていただけますと,ありがたいです。)
大切にしたい価値を力にしてこころを満たす行動を拡げよう:ステイホームを,心が満たされる行動にする
には?
新型コロナウイルス感染拡大防止のため,連日ステイホーム(おうちにいよう)が勧められています。本当なら自由に活動したいのに,それを制限せざるを得ない状況は,私たち誰にとっても大きなストレスを伴います。ですが,ステイホームの動機次第では,さらにつらい気持ちを強めてしまうことがあります。
ステイホームを「心が満たされる行動」にチェンジするために,どうすればよいのでしょう。そのためのヒントを,心理学(ここでの心理学とは,応用行動分析やマインドフルネスと呼ばれる考え方を参考にしています)が届けてくれるかもしれません。
感染拡大防止のための先の見えづらい行動を,少しでも楽しく乗り切るためのヒントになりそうなこと,おうちにいながら「こころを満たすためのセンス(感覚)」を高めるエクササイズを紹介しています。
こちらもぜひ使ってみてください。
今回のコンテンツを作るにあたって,兵庫県こころのケアセンターの大塚美菜子さんにはイラスト作成の労を執っていただきました。ここに,大塚さんへの心からの感謝の気持ちを捧げたいと思います。皆さまも,最後までお読みいただきありがとうございました。
(電子マガジン「臨床心理iNEXT」目次に戻る)
====
〈iNEXTは,臨床心理支援にたずわるすべての人を応援しています〉
Copyright(C)臨床心理iNEXT (https://cpnext.pro/)
電子マガジン「臨床心理iNEXT」創刊しました。
ご購読いただける方は,ぜひ会員になっていただけると嬉しいです。
会員の方にはメールマガジンをお送りします。
臨床心理マガジン iNEXT
第3号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.3
◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?