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9-1.心理職の未来に向けて

(特集 今でしょ! 心理職スキルアップ!)

下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)

1.秋になってしまう前に

夏が過ぎ,風あざみ
誰のあこがれに さまよう
青空に残された,私の心は夏模様

井上陽水の「少年時代」の歌詞です。
「夏が過ぎ,風あざみ」と詠われています。

さて,ここで詠われている季節はいつ頃か,おわかりでしょうか。

「アザミ」が紫色の花をつけるのは,夏から秋が始まる頃です。ということで,アザミが風に揺れる季節は,8月後半から9月にかけての時期となります。

臨床心理iNEXTのオンライン研修「心理職スキルアップ2020夏」は,この「風あざみ」の頃に開催されます。
プログラム⇒https://tomishoboevent.blogspot.com/2020/07/inext.html?spref=tw

申込み⇒https://stores.jp/search?q=2020%E5%A4%8F&store=tomishobo&sort=new

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2.今でしょ! 心理職の出番は!
ところで,皆様は,今の日本の心理職が目標を失い,さ迷っていることに気づいていますか。かつては,フロイトやユングの心理療法を理想とする心理臨床学モデルがありました。しかし,公認心理師導入されたことで,それが唯一の目標でない現実を突きつけられて混乱や対立が生じています。

まさに「誰のあこがれに さまよう」事態になっています。さらにコロナ禍に直面し,心理職は何ができるのだろうかと,自信を失っています。

その一方で,世の中は,今まさに心理職を必要としています。多くの人がコロナ・ストレスで苦しんでおり,心理支援が求められています。さらに,ポストコロナの時代は,社会のあり方が本質的に変化します。テレワーク社会となり,人々は会社といった組織に依存できなくなります。管理されるのではなく,自律した生活を営むことが求められるようになります。一人ひとりが自己管理をする時代となり,「これで自分は良いのか」という不安も高まります。そのようなときに必要となるのが心理支援なのです。

ですので,今こそ,心理職の出番なのです。社会のニーズに応えられるように心理職は,しっかりとポストコロナの時代に向けて研修を積み,実力を蓄えておく必要があります。

まだ夏が終わってしまわいない,この時期にしっかりと研修をしておけば,学びがしっかりと心に定着し,次につながります。冬の厳しい時期も乗り越えることができます。

「青空に残された 私の心は夏模様」です。私も,少年時代の夏休みの記憶だけは,鮮明に覚えています。

3.心理療法家への憧れに彷徨う
では,心理職は,何故「誰のあこがれに さまよう」事態になってしまっているのでしょうか。

河合隼雄氏がリーダーシップをとって構築した心理臨床学モデルは,フロイトやユングといった,偉大なる心理療法家が実践する個人心理療法を理想とするプライベイト・プラクティス(個人開業)を基本としています。これは,20世紀前半に興隆をみたモデル(=20C前半モデル)です。

それに対して公認心理師は,20世紀後半に興隆をみた科学者-実践者モデル(20C後半モデル)を到達目標として掲げています。そして,効果研究によって有効性が実証された介入法を用いることを主張するエビデンスベイスト・プラクティスを標榜しています。

日本の心理職は,プライベイト・プラクティスに憧れをもち,河合隼雄氏のような,一角の心理療法家になることを目指してコツコツと頑張ってきました。ところが,2015年に成立した公認心理師法は,エビデンスベイスト・プラクティスや多職種連携を到達目標に掲げ,夜陰に乗じて「医師の指示に従う」ことを法律に書き込んでしまいました。それは,独立した個人開業の心理療法家をモデルとする,それまでの心理職の理想を打ち砕くものでした。

その結果,“心理療法家”への憧れは,彷徨うことになりました。

4.公認心理師の,その先へ
しかし,公認心理師の実体は,本来のエビデンスベイスト・プラクティスや多職種連携のあり方とは似ても似つかぬものでした。

エビデンスベイスト・プラクティスは,研究活動ができることが前提であり,博士課程修了が条件となります。ところが,公認心理師は,研究活動は不要で,学部(あるいは専門学校)卒で受験資格があるとなっています。多職種連携は,各専門職が平等に協力することが前提となります。ところが,公認心理師は,医師の指示に従うことが条件となっている“不平等条約”です。

したがって,公認心理師は,専門職というのには,看板に偽り有りの,かなりフェイクな資格となっています。実体は,専門職というよりは,医師や行政職に仕える“実務者”が目指されています。

では,日本の心理職は,どうしたらよいのでしょうか。

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答えは簡単です“公認心理師の,その先”を目指せば良いのです。

5.“今”から実践心理職の未来を創る
心理療法家を理想とするのは,20C前半のモデルです。公認心理師が錦の御旗のように掲げる科学者-実践者モデルは,20C後半のモデルです。しかも,公認心理師は,専門職としては看板倒れです。

今は,すでに21世紀なのです。AIやIoTが時代を牽引し,第4次産業革命が起きつつあります。そのような中で起きたコロナ禍は,20世紀後半(≒昭和)の遺物を押し流し,新しい時代や社会を引き寄せる役割を果たすでしょう。
内閣府資料:https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html

そこでは,エビデンスベイスト・プラクティスでさえ時代遅れとなります。エビデンスベイスト・プラクティスは,生態学的妥当性がありません。高度な情報社会で生活している人々にきめ細やかなサービスと提供するためには不十分です。

心理職の未来を創るために必要なことは,心理療法家という夢をみるのでもなく,公認心理師という看板に惑わされるのでもなく,21世紀の“今”という現実を見据えることです。そして,そこから心理職自身が自分たちの未来を創っていくことです。

それは,公認心理師よりも上位の専門性をもつ心理職,つまり実践心理職(Practitioner Psychologist)の専門技能体系を新たに構築し,その教育訓練の場を創造することです。そのためにICTの活用は必須です。

心理職スキルアップ2020夏」は,そのような実践心理職の教育訓練の場として,臨床心理iNEXTが提案する研修会です。

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真っ青な夏空の下で学んだ研修の成果が皆様の心に深く刻まれて,次の時代の心理職の心模様となっていくことを期待しています。

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