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2-2.外出自粛のコロナ・ストレスとは何か

(特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋)

下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)

新型コロナウィルス感染拡大によるパンデミックという事態によって,私たちが当たり前と思っていた日常生活は,突然失われました。そして,感染爆発を身近に感じつつ “外出自粛”の生活をしています。現実生活の変化があまりに急激に起きたために,人々の心も身体もその変化についていけていません。

生活の劇的変化は,本人が気づかないまま心身の健康を蝕んでいきます。

外出自粛は,さまざまなストレスを生じさせ,心のバランスを崩していきます。多くの人は,まだその危険に気づいていません。しかし,国際プロサッカー選手会は,新型コロナウィルスの影響でうつ症状を訴える選手が急増していると報告しています。今後,不安症や抑うつといったメンタルヘルス問題が起きてくることが予測されます。

そこで,“外出自粛”の生活が,なぜ深刻なメンタルヘルス問題を引き起こすのかをみていきます。

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1)普通の生活の喪失

私たちは,これまで当たり前と思っていた“普通”の日常生活ができない非常事態を生きています。普通の生活を失ってみて,初めて,実は平凡な毎日の生活が私たちの健康を支えていたことを痛感しています。

①生活のリズムが狂ってきます。朝起きて食事をして通勤や通学することが生活のリズムの土台となっていたのです。

②安心できる感覚がなくなってきます。外で会って挨拶をして雑談をすること,冗談を言い,笑い合うこと,愚痴を言ったり相談をしたりすること,そのような人との交流が安心をもたらしてくれていたのです。

③気分転換ができなくなります。ジムで運動し,サウナや温泉で汗を流し,居酒屋で大いに語ることでストレスを発散し,気分転換をしていたのです。

④楽しいという感覚を忘れていきます。サッカーや野球を観戦し,演劇を楽しみ,遊園地で遊ぶことで満足感や幸福感を得ていたのです。

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2)いつ感染するかわからない恐怖

普通の日常生活を失うだけではありません。感染してしまう危険と隣合わせの生活となります。外出すれば,いつどこで感染者に会うかわかりません。感染した物に触っているかもしれません。家族が感染しており,あまり近づかないほうがよいのかもしれません。このような感染への危険性を抱えることで,さらにメンタルヘルスは悪化します。

①環境に対する安心感がなくなります。常にウィルスがついているのでないかと疑惑をもち,心配や不安で一杯になります。

②他者への不信感も出てきます。感染させられるのはないかという被害感は,他者に対するイライラを生じさせ,対人トラブルが増加します。

③自分が他者を感染させてしまうのではないかという心配で自責感が生じます。

④人に近づかないようにすることで孤独感が強くなります。

⑤感染し,隔離されるかもしれないという予期不安が生じます。

⑥感染して,悪化した場合には,短期間での死に結びつくということで,常に恐怖感を伴う生活となっています。

⑦経済的損失や苦境による絶望感や,将来がみえない閉塞感で抑うつ状態が深刻化します。

画像33)コロナ・ストレス対策の必要性

普通の生活の喪失」は,日常生活に緊張(ストレス)をもたらし,知らず知らずのうちに心身の疲労が溜まっていまきます。「いつ感染するかわからない恐怖」は,見えない敵と戦うボクサーのようなものです。いつの間にかボディボローを打たれており,気づかないまま疲労が蓄積し,心身のバランスが崩れていきます。

外出自粛のコロナ・ストレスは,見えない形であなたの心身のバランスを崩しています。

見えにくいコロナ・ストレスに上手に対処するためにも,自分の状態を知り,環境を整え,心身の調子を整えていく努力が必要となります。


本特集の記事は,いずれもコロナ・ストレスに適切に対処するための考え方や行動の仕方を知り,そして実践するためのヒント満載の知恵袋となっています。

ぜひ,ご活用ください。


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