見出し画像

2-6.コロナ・ストレス対策③「気持を整える」

(特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋)

原田 優(東京大学特任研究員)

私たちは今,外出自粛と,それに伴う劇的な変化の中で生活しています。このような非日常の中では,いつも通りに生活しているつもりでも,知らず知らずのうちに疲労をため込んでしまうことがあります。そして気づかないうちに積み重なったストレスは,心身のバランスを崩すきっかけになる場合もあります。
コロナウイルスは目に見えないからこそ対策が難しいのですが,それは心の不調も同じだと言えます。だからこそ,手洗いうがいのように,習慣的に「気持を整える」ことを意識することが大切です。
気持ちを整えて,コロナ・ストレスに負けないために,

ストレスについての知識を持っておこう!

①ストレスについて知る
②ストレスに気づきやすい習慣を作る
③ストレスに対処する方法を知っておく

画像1

ストレスに対処する3つのポイント


①ストレスについて知る

ストレスの原因(※ストレッサー)は人それぞれです。
一日中家にいることが大きなストレスの原因になる人もいれば,全く苦にならない人もいるでしょう。
「みんな平気そうにしているんだから,自分も我慢しなくては」
「こんなことでストレスを感じるなんておかしい」なんて思う必要はありません。
何がストレスの原因になるか,どれくらいストレスを感じるかは,本当に人それぞれなのです。
「ストレスの原因=こういうもの」という思い込みは,自分でも気がつかないうちにストレスを溜めてしまう原因となります。

また,厚生労働省は長い時間ストレスにさらされると,メンタルヘルス⾯の病気のリスクが⾼まることや,⾝体⾯の病気に繋がりやすくなることを指摘しています。

だからこそ,自分がストレスを感じていることに気づくこと,自分にあったストレス対処法を持っておくことが大切です。

※医学や心理学の領域では,外からの刺激に対する体やこころの反応のことを“ストレス反応”と呼び,その反応を生じさせる刺激を“ストレッサー”と呼んでいます。例えば,テレビで悲しいニュースを見て,頭が痛くなったり気分が落ち込んだりする時は,「ニュース」というストレッサーによって「頭痛」や「気分が落ち込む」というストレス反応が生じている と考えるのです。

②ストレスに気付きやすい習慣を作ろう

非日常の中ですごしていると,私たちは自分のストレスに気付きにくくなる傾向があります。

ストレスを溜め込みすぎないために,まずは「ストレスに気付く」ことが大切です。

そのための方法としては,

・自分でチェックする
「今日の自分の調子はどうかな?」と振り返ってみましょう。

・周囲の人にチェックしてもらう
相手から自分がどんな状態に見えるか聞いてみましょう。自分では気がつかなかった意外な変化があるかもしれません。また,お互いに最近の相手の様子を伝えあうことは,コミュニケーションのきっかけにもなります。

などがあります。

さらに,ストレスに気づくためのストレスサインとして,厚生労働省は以下の3つのポイントをあげています。チェックするときの参考にしてみてください。

・身体の面(睡眠の質,食欲の変化など)
・心の面(集中力,意欲,イライラの程度など)
・行動の面(飲酒の量,周囲との関わり方の変化など)

またこうしたポイントは,自分の中で比較することによって変化に気が付きやすくなります。例えば,0~10点満点で点数をつけて,日記として記録に残すのも,変化がわかりやすくなるのでおすすめです

日記を書いたりするのは面倒だなという人は,生活記録に特化したアプリなどを利用するのも良いかもしれません。下山研究室でも,日々の心身の状態を確認・記録するアプリの開発,提供を行っています。

〈東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース下山研究室 Webサービス・アプリ開発プロジェクト〉
ぼちぼち記録(iPhone用アプリ)
https://apps.apple.com/jp/app/bochibochi-ji-lu/id891132357

いっぷく堂(iPhone用アプリ)
https://itunes.apple.com/jp/app/ippuku-tang/id975104253?mt=8

じぶん記録(iPhone用アプリ)
https://apps.apple.com/jp/app/jibun-ji-lu/id1040734242


②ストレスに対処する方法を知っておこう

不要不急の外出が制限されるようになり,旅行,ジムでのワークアウト,飲み会など,普段活用していたストレス解消法が実践できなくなってしまった人も多いと思います。
趣味や日常生活での楽しみが制限されるのは,想像以上にストレスが溜まるものです。ただただ我慢をするよりも,代わりとなるようなストレス対処法を探してみましょう。
ストレス対処法にはさまざまな種類がありますが,「どの方法が一番良い」というものでありません。読書がいい気分転換になるという人もいれば,文字を読んでいるだけで疲れるという人もいるでしょう。自分に合った対処法を複数持っておくことが大切です。

自分でなかなか思い浮かばないという人は,周囲の人とアイデアを出し合ったり,インターネットやSNSで面白そうだなと思うことに挑戦してみたりするものおすすめですよ。

ストレス対処法を見つける際のヒントとして,ストレス対処の「3つのR」というものもあります。ぜひ自分に合いそうなストレス対処法を探してみてください。

ストレス対処の「3つのR」

Rest:レスト
・休息
・休養
・睡眠 など
在宅勤務やオンライン授業,家事などと休憩時間のオンとオフの切り替えを意識しましょう。休息をしっかり取ることが重要です。また,席を立って歩く,コーヒーを飲む,甘いものを食べるなど,疲労が蓄積する前に意識して短い休憩を取ることも効果があります。
Recreation:レクリエーション
・読書をする
・ゲームをする
・絵や文章などの創作活動をする
・ヨガをする
・読書をする
・料理をする
・筋トレをする など
ストレスを発散させる趣味を持つことは大事です。好きなことに打ち込むことで日々のストレスから意識をそらせるように心掛けましょう。
Relax:リラックス
・ストレッチをする
・お喋りをする
・音楽を聴く
・マッサージをする
・アロマセラピーをする
・リラクゼーションをする など
特に,呼吸を落ち着かせ,筋肉の緊張を解くなどの精神を安定させるリラクゼーション方法はどこでも行うことができ,科学的な効果も実証されています。

ここでは一つの例として,アメリカ国立PTSDセンターとアメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク(NCTSN)によって作成されたサイコロジカル・ファースト・エイドで紹介されている基本的な呼吸法について紹介します。

呼吸法
1.鼻からゆっくり息を吸ってください――ひとつ,ふたつ,みっつ――肺からお腹まで,気持ちよく空気で満たします。
2.静かにやさしく,「私のからだは穏やかに満たされています」と自分に語りかけましょう。今度は口からゆっくり息をはきます――ひとつ,ふたつ,みっつ――肺からお腹まで,すっかり息をはききりましょう。
3.静かにやさしく,「私のからだはほぐれていきます」と自分に語りかけます。
4.ゆったりとした気持ちで,5回繰り返しましょう。
5.必要に応じて,日中に何度でも繰り返してください。
(アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク,アメリカ国立PTSDセンター「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き第2版」兵庫県こころのケアセンター訳,2009年3月. http://www.j-hits.org/psychological/index.html)

コツを掴むまで難しく感じる人もいるかもしれませんが,その場合はYouTubeの動画やアプリなどを利用するのも良いでしょう。下山研究室では,初めての人でも自分にあった呼吸リズムの呼吸法を練習できるアプリの開発提供も行っていますので,興味のある人はぜひ利用してみてください。
〈東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース下山研究室 Webサービス・アプリ開発プロジェクト〉

呼吸レッスン アプリ
iPhone用: https://apps.apple.com/jp/app/hu-xiressun/id971237067
Android用: https://play.google.com/store/apps/details?id=shimoyama.haruhiko.breathtraining&hl=ja

呼吸ストレッチ アプリ(iPhone用
https://apps.apple.com/jp/app/hu-xisutoretchi/id999190884

画像3

参考文献
厚生労働省『こころもメンテしよう』
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/kokoro/kokoro_03.html

厚生労働省 こころの耳 ウサギ商事の休憩室『みんなで知りたいメンタルヘルス』 ストレスの対処ってどんなこと?
https://kokoro.mhlw.go.jp/usagi/ug004/

国立成育医療研究センターこころの診療部 『新型コロナウイルスに負けないために』
http://www.ncchd.go.jp/news/2020/d87c94efa75dede6e54ef2faf38c0b916a05a24d.pdf

ピースマインド株式会社「新型コロナウイルスによる社会的な不安やストレスとうまく付き合うために」
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/216

アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク,アメリカ国立PTSDセンター「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き第2版」兵庫県こころのケアセンター訳,2009年3月
http://www.j-hits.org/

(電子マガジン「臨床心理iNEXT」目次に戻る)

====
〈iNEXTは,臨床心理支援にたずわるすべての人を応援しています〉
Copyright(C)臨床心理iNEXT (https://cpnext.pro/

電子マガジン「臨床心理iNEXT」創刊しました。
ご購読いただける方は,ぜひ会員になっていただけると嬉しいです。
会員の方にはメールマガジンをお送りします。

臨床心理マガジン iNEXT
第2号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.2

◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?