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7-5.回復力のある自分を育てるアプリ──レジリエンスさがし

(特集 使える! 楽しい! 心理支援アプリ

平野真理(東京家政大学)

1.心は回復力を持っている

つらい出来事が起こったり,ストレスフルな状況が続くと,誰もが多かれ少なかれ,気持ちが落ち込んだり,いつものように活動できなくなってしまうものです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛生活によって,制約された生活の日々が続く中で,心身の不調を感じた方は多いと思います。しかし私たちは,そうした状況の中でも少しずつ元気を取り戻し,力を取り戻すことのできる力を持っています。そうした心の回復力や適応力のことをレジリエンス(resilience)といいます。レジリエンスを持っていない人は存在しません。転んで怪我をしても,小さな傷であれば自然に治るように,心にも治癒力,すなわちレジリエンスが備わっています。

ただし,身体の免疫力が下がっているときにはなかなか傷が治らないのと同じように,心のレジリエンスもうまく機能しないことがあります。そうした場合にまず必要なのは,個人の努力や気合いではなく,時間であったり,休息であったり,他者の助けです。どんなに身体能力の高い人であっても,鼻と口をふさがれて呼吸のできない状況に置かれたら,とても走ることはできません。それと同じで,まずはその個人がレジリエンスを発揮できるための余裕を回復できるような環境を整えることが重要です。レジリエンスは個人の能力であると捉えられがちですが,レジリエンスが発揮されるかどうかにおいては「個人要因よりも環境要因の影響の方が大きい」ということが,研究でも明らかにされています(Unger, 2013)。

その一方で,ストレス状況に陥ったときに,できるだけうまくレジリエンスを発揮することができるように,個人にはたらきかけることによってレジリエンスを向上させようとする心理学的介入方法も模索され,多くの予防的アプローチとしてのレジリエンス・プログラムが開発されてきました(Robertson et al., 2015)。「レジリエンスさがし」は,そうしたプログラムで行われている実践(e.g. Boniwell & Ryan, 2009)を参考に構成された3つのワークを,継続的に取り組むことのできるアプリです。

レジリエンスさがし

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レジリエンスさがし
iPhone用アプリ→
https://apps.apple.com/jp/app/%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%95%E3%81%8C%E3%81%97/id938064342


2.自分のレジリエンスの特徴を知ること:強みコレクション

レジリエンスを導く要因,すなわちレジリエンス要因は,大きく個人要因と環境要因に分けられます。個人要因には生物学的な要因(知能,健康,ジェンダーなど),気質・パーソナリティ(社会志向性,楽観性など),スキル(コーピングスキル,情動調整など)などがありますが,そのすべてを有している必要はなく,個人のレジリエンスはその個人にとって利用可能な要因のいくつかが相互作用して導かれると考えられています。つまり,レジリエンスを構成する要素は人によって異なるということです。自分のレジリエンスがどのような要素に支えられているのかを知ることによって,つらいときにどのように自分を立て直すことができるか,自分のレジリエンスの特徴を知る手がかりが得られます。

「強みコレクション」は,レジリエンスの個人要因の中でもポジティブ特性に焦点をあてたものです。「強み」(Strengths)とは,人の持つポジティブな特性を細かく分け,誰もが必ず何かの強みをもち得るようにリスト化されたものです(Park et al., 2004)。たくさんの「強み」の中から,自分に少しでもあてはまりそうなものを選んでみましょう。また別の日に選んだら,違うものがあてはまるように感じるかもしれませんので,ぜひ,くり返し選んでみてください。ただ,自分で自分のよいところを評価することは苦手な人も多いかもしれません。できれば,友人や家族など身近な人に頼んで,自分の「強み」を選んでもらうことをおすすめします。他者からの評価をスムーズに受け入れられることが,自分を肯定的に評価する力につながる可能性が報告されています(平野,2019)。

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3.自分を支えてくれるリソースを確認すること:回復アイテム

レジリエンスを構成する要素は人によって異なると述べましたが,つらい状況において自分の助けとなる外的なリソース(資源)も人によって違います。
まずは「人」のリソースを考えてみましょう。つらい状況の時に自分を助けてくれる人は,必ずしも身近にいる人とは限りません。もしかしたら,実際には会うことのできない存在が,自分にとっての人的リソースになっている場合もあります。また,「助け」のあり方は,物理的な手助けの場合もあれば,話を聞いてくれることの場合もあるし,思い切り一緒に遊んでくれることの場合もあるかもしれません。

つらいときに自分の支えとなる「物」や「場所」はあるでしょうか。改めて考えるとすぐには思いつかないかもしれませんが,ずっと長く使っている物や,いつもの場所,当たり前にしている行動といったものが,実は自分を支えていることに気づくことがあります。レジリエンスが必要な状況においてリソースとなるものは,平時においては気に留めないような,「日常」を支えているものであるといえます。

「回復アイテム」では,自分を支えるこうしたリソースに意識を向け,写真や音楽をアルバムにします。落ち込んだときにアプリを開けば,自分を助けてくれる存在のことを思い出せるかもしれません。

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4.うまくいっている側面に気づくこと:できたこと日記

つらい状況で気持ちが落ち込むと,「何もかもうまく行かない」「自分は全部だめだ」と,悲観的になってしまうことがあります。でも実際には,そのような状況においても,その人のすべてがダメな状態になっていることはほとんどありません。自分では意識できていなくても,いつも通り行えている側面や,新しく一歩踏み出すことができている側面が隠れていることが多いのです。
「できたこと日記」では,そうした自分の「できたこと」に気づく力を高めるために,ランダムに表示されるお題に従って継続的に記録をつけていきます。「できたこと」といっても大きな達成ではなく,むしろ小さなことに注目します。

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5.アプリの効果

アプリの効果を検討するために,150名の成人男女に1カ月間継続して利用してもらいました(平野ほか,2018)。統制群の150名と比較した結果,アプリの利用によるレジリエンス尺度得点の向上が確認されました。さらに,もともとレジリエンス尺度得点が低かった人々が,アプリを継続的に使用することで自尊感情が向上したことが示されました。自尊感情は,レジリエンスを発揮する上で基盤となる重要な要素ですが,ワークを継続的に行うことで,自分を大切に思える気持ちにつながる可能性が示されました。
非常事態宣言が解除されたとはいえ,まだまだ不自由な生活が続く中で,いつも通りに事がスムーズに進まずに苦しんだり,活動が制限されて気持ちが沈んでしまったりと,皆がそれぞれにストレスを抱えています。そうした中で自分らしい心を取り戻すために,ぜひ少しでいいので,アプリを通して自分の強みに目を向け,日常の小さな達成や喜びを振り返るような時間を持っていただければと思います。

参考:「レジリエンスさがし」のエビデンス
https://ci.nii.ac.jp/naid/40021707130
平野真理・小倉加奈子・能登眸・下山晴彦(2018)「レジリエンスの自己認識を目的とした予防的介入アプリケーションの検討―レジリエンスの「低い」人に効果的なサポートを目指して」臨床心理学, 18(6), 731-742.

〈引用文献〉
Boniwell, I. & Ryan, L. (2009)SPARK Resilience: A teacher's guide. London, UK: University of East London.
平野真理・小倉加奈子・能登眸・下山晴彦(2018)レジリエンスの自己認識を目的とした予防的介入アプリケーションの検討―レジリエンスの「低い」人に効果的なサポートを目指して.臨床心理学,18(6); 731-742.
平野真理(2019)他者をほめること・他者からほめられることを通した自己の肯定的評価―日本人女子大学生に効果的なレジリエンス教育にむけて.東京家政大学研究紀要人文社会科学,59(1); 61-70.
Park, N., Peterson, C., & Seligman, M. E.(2004)Strengths of character and well-being. Journal of Social and Clinical Psychology, 23; 603-619.
Robertson, I. T., Cooper, C. L., Sarkar, M., & Curran, T.(2015)Resilience training in the workplace from 2003 to 2014: A systematic review. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 88; 533-562.
Ungar, M.(2013)Resilience, trauma, context, and culture. Trauma, Violence, & Abuse, 14(3); 255-266.


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