2-5.コロナ・ストレス対策②「身体を整える」
(特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋)
井上 薫(東京大学特任研究員)
コロナ感染拡大による外出自粛の中で,「眠れない」「運動時間が減った」「お酒を飲む機会が増えた」など,さまざまな体への影響の声が聞こえてきます。しかし,まだまだ外出を自粛しなければいけない状況が続くことが考えられます。
さらに,家で仕事や勉強をすることで,プライベートと仕事・勉強の境界が曖昧になってくると,切り替えが難しくなってしまうかもしれません。そうすると,休む時間がとれなくなって疲れが溜まってしまいます。
「引きこもり生活」で体を整えて,コロナ・ストレスに負けないために,
生活のルーティン・リズムを決めよう!
びっしりとルーティンを決める必要はありません。次の3つを守れるように生活リズムを整えていくことをおすすめします。
①食事の時間,睡眠の時間をしっかり確保する
②体を動かす時間を確保する
③身体に悪いことに依存しないようにする
生活のルーティン・リズムを決める3つのこと
理想的な生活を目指して大きく変えるのではなく,自分の生活スタイルにあった生活のルーティン・リズムを見つけましょう。
①食事の時間,睡眠の時間をしっかり確保する
・バランスの取れた食事の時間
普段の生活でも栄養バランスを考えることは重要ですが,栄養をバランス良く摂ることによって,体を守ってくれる体内の仕組みを整えることができます。それによって,ウイルスに感染しても,体内でウイルスが増えるのを抑えこみやすくなる可能性があります。高齢の方や一人で住んでいる方は栄養が偏りがちなので,特に注意する必要があります。
また,外出自粛の中で,外食やコンビニ食などではなく,自宅で料理を作る機会が増えたのではないでしょうか。自宅で料理を作る時に,栄養が偏らないように一食一食考えることがストレスになる場合もあります。そんな時には,「一回の買い物でバランスよく栄養がとれるように材料や食べ物を買う」ようにして,数日間の食事全体で栄養バランスをとるように考えると,気持ちが楽になるかもしれません。無理をしすぎずに,自分ができる範囲で,いつもよりも少し栄養バランスを気をつけてみましょう。
『スポーツ栄養web』では,WHOや英国栄養士会のおすすめのバランスのいい食事やサプリメントで栄養を摂ることについて,記事を紹介しています。
例えば,
・新鮮な野菜や果物などを摂ること,そのため買い溜めは意味がないこと
・脂肪分や塩分,糖の摂り過ぎに注意すること
・水分を1日8~10カップ飲むようにすること
などが重要です。(参考:スポーツ栄養web『食事・栄養面からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策 WHO』https://sndj-web.jp/news/000638.php)
・適切な睡眠「7~9時間」の推奨
現在,コロナウイルスに感染しにくくなる睡眠時間はわかっていません。しかし,アメリカ国立睡眠財団は,普段の生活での睡眠時間が「7~9時間」となることを勧めています。また,カリフォルニア大学の研究では,風邪ウイルスへの感染のしやすさは,7時間が分かれ道だと言っています。6時間以下の人は,7時間~9時間の人に比べ,風邪になる人が多いということです。
しかし睡眠時間が長すぎるのも良くありません。睡眠時間が長すぎることで,うつ病や死亡リスクが高まるとも言われています。ワシントン大学の研究では,10時間以上寝ているグループは7~9時間寝ているグループに比べてうつ症状の発症率が約2倍以上であったと報告されています。
そのため,「7~9時間」の睡眠時間を考えて,ルーティンを決めましょう。(参考:東洋経済オンラインDomani『【新型コロナ対策】政府が推奨する「十分な睡眠」とは何時間なのか』https://domani.shogakukan.co.jp/303926)
②体を動かす時間を確保する
自宅にいる時間が増えることによって,通勤や通学,買い物など日常的に行っていた生活に必要な運動の機会も減っています。さらに,外出自粛の要請によって,いつも行っていたジムがしまり,運動したくてもできない人もいるのではないでしょうか。
WHOは1週間あたり150分間の中等強度の運動または75分間の強強度の運動,あるいはその両方をするとよいとしています。また,『Journal of Sport and Health Science』では,30分の中程度の身体活動や1日おきに少なくとも20分間の激しい運動が推奨されるという見解が出されました。
ここでは,自宅でできる中等強度の運動を紹介します。
まず,中等強度の運動は,わかりやすく軽く会話ができる程度の運動だとされています。運動強度の単位であるMets(メッツ)では,3~6 Metsが中等強度の運動にあたります。
では,どんな運動や活動が「中等強度の運動」とはどのようなものがあるのでしょうか?
Metsを基準として,自宅でもできる中等強度の運動を紹介します。運動だけではなく,家事や日常生活での動きなども入っています。
3.0 Metsの活動
ウェイトトレーニング(軽・中程度),家財道具の片付け,屋内の掃除,階段を降りる,歩行 [これらのエクササイズの時間は20分で1単位,以下同]
家での体操,掃除機やモップがけ [16, 17分]
やや速歩き,床磨き,風呂掃除 [15, 16分]
4.0 Metsの活動
速歩き,ラジオ体操第一,太極拳,子供と遊ぶ,犬の散歩 [15分]
ラジオ体操第二,庭の草むしり,ダンス [13分]
5.0 Metsの活動
かなりの速歩き,踏み台昇降 [12分]
軽度のジョギング [10分]
6.0 Metsの活動
家具の移動・運搬 [10分]
以上を参考に,運動の時間を取り入れてください。
では,どのように生活のルーティンに取り入れるとよいでしょうか。「1週間に150分間以上の運動」と言われると,なかなか難しいように感じます。さらに,「1週間のうち,2日間で75分ずつ運動する」ような,1回にまとまった時間をとって運動をすることは,あまり意味がないと言われています。つまり,1週間のうちにバランスよく運動時間をとる必要があるということです。
平日の5日間でバランスよく時間を取るとすると,1日30分間の運動になります。例えば,踏み台昇降であれば,1回12分ほどになるため,休憩時間などを使って,12分の踏み台昇降を1日に3回行えるように時間を見つけていきましょう。
また,同じ運動である必要はありません。朝にラジオ体操,休憩時間に踏み台昇降を12分間,仕事や学校終わりに筋トレをする,など,自分がやる気を保てるように工夫していきましょう。
また,WHOは自宅待機中に運動の機会を確保する方法として,
・掃除など日中に短時間なアクティブな活動を行うこと
・YouTubeなどにあるプログラムなどオンラインツールを活用すること
・電話をしている時などの歩行(足踏でも可)
・在宅ワーク中にも時々立ち上がりストレッチすること(できれば30分ごと)
・瞑想や深呼吸,ストレッチ,ヨガなどのリラックスする時間をとること
を推奨しています。
仕事中や勉強中に机に座っていなくてもできるような作業があれば,意識的に立ち上がって動きながら行うようにすると,運動時間を増やすことができそうです。(参考:スポーツ栄養web『新型コロナウイルス感染症で外出自粛中の運動・エクササイズWHOガイダンス』https://sndj-web.jp/news/000643.php,WHO『Stay physically active during self-quarantine』(英語ではありますが,写真も載っています)http://www.euro.who.int/en/health-topics/health-emergencies/coronavirus-covid-19/novel-coronavirus-2019-ncov-technical-guidance/stay-physically-active-during-self-quarantine#section-ALLF182Ik8)
③依存(アディクション)への注意
自宅待機の中でストレスがたまるとお酒やタバコが増える人もいるかもしれません。また,眠れなくなってしまって睡眠薬を飲む,眠れるまでお酒を飲むようにしている人もいるのではないでしょうか。また,外出しなくてもいい遊びとして,ゲームやテレビなどの娯楽に費やす時間が増えることもありえます。
依存症対策全国センターは,WHOによる注意喚起文書を日本語で掲載しているほか,日本アルコール・アディクション医学会もお酒やゲーム・娯楽,薬物依存に対する注意喚起を行っています。
・依存(アディクション)に対する注意喚起
アルコールを大量に飲むことや薬をたくさん飲むこと,タバコを長期的に吸うこと,ゲームのやりすぎ,テレビの見過ぎなどは,健康に悪い影響を与える可能性があります。
また,アルコールを飲みすぎたり,薬を飲みすぎて意識が朦朧となったり,タバコを吸うために密集する場所に行くことによって,感染を予防する行動ができなくなる可能性があります。
現在,何かしらの依存症の治療をしている人は,その治療の計画に悪影響を与えることも考えられます。
このように,依存しすぎてしまうと,自粛を頑張ることで感染を予防してきたことが台無しになってしまうこともありえます。
・情報の正しさを確認すること
消毒のためにアルコールに効果があるという話から,アルコールを摂取することで感染から身を守ることができるといったような誤った情報,誤解を招く情報が広まる可能性があります。
さまざまな情報に惑わされないよう注意しましょう。その話の根拠はどこか,どのような機関がその話をしているのか,複数の機関がその話を正しいとしているのかをしっかりと見極めましょう。
眠れないときに薬に頼りすぎたり,お酒を飲まないようにしても,どうやったら眠れるのかわからないと困ってしまいます。どのようにすれば,きちんと眠れるでしょうか。
・きちんと眠れるためには
厚生労働省は『健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~に基づいた保健指導ハンドブック』を発表しています。こちらは,研究のデータも示しながら,わかりやすく説明しているため,こちらを参考にするとよいでしょう。(http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf)
Suimin.netでは,すこやかな眠りのための情報を提供しているほか,江戸川大学睡眠研究所は,『外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント』を発表されています。
・睡眠時間は人それぞれであり,こだわりすぎないこと
・寝る前のカフェイン摂取,スマートフォン操作など刺激物を避けること
・眠ろうと意気込みすぎないこと
・光を浴びること
・規則的な運動習慣
日光を浴びることは食物からなかなか摂取できないビタミンDを作ることにもつながります。また,どうしても眠れない日が続くときには専門機関に相談してください。
(参考:依存症対策全国センター『WHOによるCOVID-19の世界的流行時の物質使用および嗜癖行動に関する注意喚起文書(日本語版)』https://www.ncasa-japan.jp/pdf/info20200410_jp.pdf,一般社団法人日本アルコール・アディクション医学会『「新型コロナウィルスで心配されるアディクションについて」5つの注意喚起』(http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jmsas/news/1854.html),厚生労働省『睡眠づくりのための健康指針2014~ 睡眠12箇条 ~に基づいた保健指導ハンドブック』http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf,Suimin.netすこやかな眠りのために『睡眠障害対処12の指針』https://www.suimin.net/data/images/guide/guide.pdf,江戸川大学睡眠研究所『外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント』https://www.edogawa-u.ac.jp/img/media/17995.pdf)
また,ストレス発散のために行っている体に悪い習慣を変えるためにはどのようにしたらよいでしょうか。前述したルーティンを決めることで,お酒を飲む時間やゲームテレビなどの娯楽の時間を制限することも大切ですが,別のストレス解消法を見つけることがとても大事です。
次の『2-6.コロナ・ストレス対策③気持を整える』の記事では,そのストレス解消をどのようにすればよいのかを紹介しています。どうぞ参考にしてください。
(電子マガジン「臨床心理iNEXT」目次に戻る)
====
〈iNEXTは,臨床心理支援にたずわるすべての人を応援しています〉
Copyright(C)臨床心理iNEXT (https://cpnext.pro/)
電子マガジン「臨床心理iNEXT」創刊しました。
ご購読いただける方は,ぜひ会員になっていただけると嬉しいです。
会員の方にはメールマガジンをお送りします。
臨床心理マガジン iNEXT
第2号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.2
◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房