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4-3.現場でのニーズから心理職の活動を創る:「スタッフサポート」

(特集 COVID-19治療の最前線から“心理職の役割”を考える)

秋山恵子(日本赤十字社医療センター 公認心理師・臨床心理士)
with 下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)・遠藤麻美(東京大学助教)

1)スタッフサポートの多職種チームの形成へ

【下山】COVIDに感染した患者さんに心理支援を直接することを考えなかったのか?

【秋山】早期の時点から,自分が患者さんに直接対応することは無理だなと感じた。防護服は着脱の時に感染リスクが高いと聞いていた。自分がそこまで完璧に着脱できるとは思えなかった。リモートでの心理支援は不可能ではなかったが,十分に準備ができていなかった。そうなると,一番初めにできるのは同僚の支援だと判断をした。自分も省エネをしていかないと,この先やっていけないと考えた。対応が長期化した際には,心理職6名で2,000名の職員を支えるのは無理だと思った。そうすると,小さな動きによってどれだけ多くの対象に働きかけるのかが重要であると考え,集団への働きかけを行うことにした。現在,スタッフをサポートするチームを立ち上げている。メンバーは,災害時に心のケア指導者である看護師,心理職,健診センターの医師や保健師,感染対策本部とメンタルヘルス科小児保健部,リエゾン看護師,院内の通常のラインも必要であるとして人事課職員で構成されている。

【下山】そのチームのリーダーシップは誰がとるのでしょうか?

【秋山】表に立ってリーダーになっていただいているのは,健診センターの医師と看護部長。私は,裏方として「このようなことをした方が良い」「このようなメッセージを出そう」などと話をしている。


2)現場のニーズから心理職の活動を構成する

【下山】今のお話をお聞きして,なぜサポートガイド(日本赤十字社作成)が早期に出せたのかが理解できた。秋山先生を始めとする心理職が後方支援としてスタッフを支える役割を取るという判断を早期にしたこと,そしてスタッフのサポートチームを立ち上げ,心理社会的なサポートに取り組もうとしたことが重要だった。しかも,少ない心理職で2,000名もの職員をサポートするために,サポートガイドなどを通して情報提供をするという方略を採用した。非常に戦略的な対応をされている。

【秋山】ただ,私も3月の時点でそこまで考えられたわけではない。3月の初めにサポートガイドを作った。作成の際は,「きっと医療者はこういうことを感じているよね」「こういう支援がないと医療は立ち行かないよね」と経験とイマジネーションを組み合わせて創っていった。スタッフのサポートチームを院内で立ち上げたのは4月の初め。そして,実際に現場で対応してみて,こんなにサポートガイドが役に立つのだなと感じた。

【下山】まずCOVIDに関わる医療者をサポートするという現場のニーズに基づき,心理職が中心となってサポートガイドを作成した。その結果,それが影響して多職種横断的なサポートチームが結成された。そして,それが,効果的に動き出して,COVIDに対応するスタッフを支援するための新たな活動が発展したという流れになった。

【秋山】サポートガイドが,結果的に自分のことを後押ししてくれたと思う。

【遠藤】私は,先日まで非常勤心理職として総合病院に勤務していた。そこでは,COVID感染が出始めた時には,心理職として感染者に対応する機会はなく,自ら積極的に何ができるかを考えることはなかった。どこか蚊帳の外にいる気持でみてしまっていた。心理職がそのように動けるのは,日赤の組織の伝統なのか?

【秋山】サポートガイドを作ること,さらに生物-心理-社会モデルに基づく多職種から構成されるワーキングチームを構成したことは,初めてのことだった。日赤にとっても新しい試みだった。その動きは,3月にサポートガイド作成のためにワーキングチームが集まってから始まった。

【遠藤】今回のCOVID対応において,日赤のサポートガイドが最初にインターネット上に最初に出てきた。内容もとても充実していた。しかも,当初はわからない中で情報を集めてチームビルディングに還元していくプロセスがそこにあったということを伺って,今後,心理職が活躍していくモデルになると感じた。現場から新たな活動を創造していくモデル。

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3)COVID-19に関連する心理支援のニーズと,対応の課題

【下山】COVID患者さんの心理支援ニーズはどうだったのか?

【秋山】ニーズはとてもある。PCR検査結果が陽性になった患者さんと1カ月ほど電話での面談をした。退院のためには検査結果が2回陰性になる必要がある。「また陽性になったらどうしよう」「このままじゃ帰れない」「自宅に帰ってどう反応されるか」など不安は出てくる。ただ,遠隔で顔がしっかりと見えない中で対応できるか,仮に自殺してしまったらどうするか,などのリスクを抱えながら対応することになる。心理職として,そのような遠隔の心理相談を安心してできるかという問題がある。iPadなどのタブレットPCなどを用いたオンライン心理相談をしている心理職もいると聞いている。オンライン心理相談は,今後の課題だと思う。ただ,今の優先順位は,病院として対応が継続できることの支援を第一においている。医療従事者の命がないとどうにもならないので,病院として適切に医療を継続できることの支援が最も大事だと思っている。

【下山】感染していない人も,外出自粛などでメンタルヘルスの問題を抱えている。しかし,今感染していなくても,面接室での直接面談における感染リスクも考えると,通常の心理支援は難しい。伝統的な心理療法は,“3密”状況といえる。閉鎖された部屋の中での長時間の会話を伴った密接な交流となる。そのため,伝統的な心理職の活動の方法ができなくなる。デイケア,グループ療法,家族療法は,今一番ニーズが高いとも言えるが,最も感染リスクが高い心理支援形態となってしまう。
さらに,感染患者さんにおいても「いつ陰性になるのか」,「回復しても社会復帰の際に差別を受けないか」と不安がある。重症な患者さんには,リエゾン・コンサルテーションのサポートも必要になる。そのような場合には,オンライン心理支援の仕組みを考える必要がある。しかし,その一方で自殺企図などのリスク対応を備えたサポートシステムを作らなければいけない。心理支援には,多くの課題がある。

【秋山】見切り発車では始められない。患者さんの命や,自分たちの職業生命もかかっている。「自分が感染したら」,「自分が無症候性キャリアだったらどうしようか」と考える。自分はマスクをして心理療法をやるのにも最初は抵抗があった。1月末からずっとマスクをつけている。個室の心理療法と遠隔の心理療法は,別物にならざるをえない。それぞれの役割もある。遠隔で敷居が下がるのもあるし,心理職が開業しやすくなるなどのメリットもあると思う。しかし,それによって,心理療法のあり方が変わってくると思う

【下山】クラスター発生に心理職が介在するリスクだってある。

【秋山】お互いにマスクを付けるなどのルール作りが必要となる。アルコールで室内を消毒することを頻繁にやるようになった。しかし,たとえば,箱庭の砂や玩具をどうするかなどの限界がある。

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