見出し画像

7-6.フォーカシングで感受性を高めるアプリ──きもちのとびら

(特集 使える! 楽しい! 心理支援アプリ

シュレンペル・レナ(花園大学)

1.自分の感性を大切にしていますか?

私たちは日々,目まぐるしく変化する忙しい生活の中で,自分の気持ちやからだの感覚を後回しにすることが多いと思います。しかし,気持ちとからだの感覚を無視することは,気がつかないうちにストレスを溜め,体調を崩すことにつながります。そのような状態にならないようにするためには,日常生活を送る中で状況に流されずに,一息の間をとって,気持ちやからだの感覚といった自分の感性に気づくことが秘訣となります。自分の感性に基づいて自己表現をしたり,行動したりすることで,より自分らしい豊かな日常生活を送ることができるようになります。本章では,自分の感性に気づく力である『感受力』を身につけるためのアプリを紹介します。

心理学では,感性のことを「物事に対する感受性で直感的な能力」と定義されています。
自分の感性には,日常生活の中で感じる気持ちやからだの感覚が含まれます。気持ちには,「嬉しい」や「悲しい」など,言葉で表現できるものもあれば,胸の辺りが「どきどき」するなど,まだ言葉にはできないけれど,何か感じ取れるものがあります。まだ言葉にできない気持ちは,お腹や胸の辺りに感じることがあるように,気持ちとからだの感覚は深く結びついています。このようなからだの感覚に気づくことで,自分の気持ちを探ることができます。そのため,自分の感性に気づくためには,気持ちとからだの感覚の両方を感じ取れるスキルを身につける必要があります。

この自己探索・自己発見は,「フォーカシング」という心理療法の技法に基づいています。「フォーカシング」では,なにかの問題や迷っていることがあるときに,自分の中で何か感じられている気持ちやからだの感覚を探り,それを参考に行動することで,日常生活を前向きに送れるようにしていきます。

2.アプリ「きもちのとびら」の紹介

日々の生活の中で皆さんは,どんな気持ちを体験しているでしょうか? また,どんなからだの感覚を体験しているのでしょうか? 自分の感性に気づくことができるようになるために,感受力を高めるアプリ「きもちのとびら」で練習をしてみましょう。

きもちのとびら

画像1

画像2

「きもちのとびら」
iPhone用アプリ→https://apps.apple.com/jp/app/kimochinotobira/id1119030712

「きもちのとびら」は,感受力を身につけるためのアプリです。ここでは,「感受力=気持ち+からだの感覚に気づく力」と捉えていきます。このアプリでは,フォーカシングの技法に基づき,初級編と上級編の2つのコースが用意されています。以下に,初級編と上級編を紹介します。アプリのダウンロードは,AppStoreで「きもちのとびら」と検索してください。

3.初級編:感性に気づく

初級編では,以下のステップで感性に気づく練習をしていきます。

①INTRODUCTION:いまの”きもち”を探ってみよう
このステップでは,いま感じている自分の気持ちに注意を向けてみます。さまざまな気持ちの表現が描かれているイラストから,今の気持ちに近いものを選びます(図1)。

画像3


②ステップ1:あなたの中に出てくる“感じ”を味わってみよう
ステップ1では,いま感じている自分の気持ちを探ってみます。イラストや気になる画像を選び,そこから感じ取れる自分の気持ちに注意を向けて,ゆっくりと味わってみます(図2)。

画像4


③ステップ2:“からだ”の声をきいてみよう
ステップ2では,ステップ1で感じた気持ちが,からだのどこで感じられ,それがどのような感覚なのかについて,じっくりと注意を向けてみます(図3)。

画像5


4.上級編:感性を表現する

初級編では,自分の感性に気づく練習をしてきました。自分の気持ちやからだの感覚に気づく力が強くなると,今まで意識的に注意を向ける必要があったものが,少しずつ直感的に感じ取れるようになっていきます。ただ,感性に気づく力だけでは,自分の感性をどのように表現していければ良いのかが分からない状態です。上級編では,自分の感性を表現する力を身につけるための練習を用意しています。自分の感性に気づく力に加えて,表現する力も身に付けることは,より自分らしく行動できるようになるために役に立ちます。上級編では,以下のステップで感性を表現する練習をしていきます。

①ステップ1:あなたの中に出てくる“感じ”を味わってみよう
ステップ1では,「初級編」と同じように,気になる画像を選び,いま感じている気持ちを味わってみます(図4)。

画像6


②ステップ2:“からだ”の声をきいてみよう
ステップ2では,からだの部位を選んだ後(図5),自分で感じ取れた感覚を表現できるようになっています。「自分で入力する」をタップし,「言葉を入力してください」の欄で自由にからだの感覚を記入してみてください。自分の感性を表現する練習をしてみましょう(図6)。

画像7

画像8


5.自分の感性と付き合っていくこと

以上のように,アプリ「きもちのとびら」では,手軽に自分の気持ちとからだの感覚に気づく・表現する練習を通して感受力を身につけることができます。その日に振り返った自分の気持ちやからだの感覚は,アプリ内の「日記」に記録されるため,自分の状態を定期的にモニタリングして健康維持につなげることもできます。
自分の気持ちとからだの感覚に気づき,表現することは,生活の中で自分の感性とうまく付き合っていくために欠かせません。生活のいろいろな場面で自分の感性と付き合っていくことで以下のような効果が得られます。

・自分がどんな気持ちで,何を感じているのか,が分かりやすくなる
・自分の感性に気づくことで,感情を表現できるようになる
・からだの感覚に気づくことで,体調管理が上手くなる
・自分の気持ちに正直に行動することが増える
・他人のことを優先し過ぎず,自分を大事にできるようになる
・意思決定や選択場面において,自分に合った選択ができるようになる

ウィズ・コロナの時代では,今後の生活スタイルや働き方,コミュニケーションのあり方などでさまざまな変化が起きることが予想されます。このような変化が激しいとき,私たちはさまざまなストレスを乗り越える力が必要だと思います。このようなストレスを乗り越える力の1つとして,感受力を身につけることがこれからの生活の中で役に立つと考えられます。

文献
村山正治監修,日笠摩子・堀尾直美・小坂淑子・高瀬健一編著(2013)フォーカシングはみんなのもの─コミュニティが元気になる31の方法.創元社.
村山正治監修,福盛英明・森川友子編著(2013)マンガで学ぶ フォーカシング入門.誠信書房.


(電子マガジン「臨床心理iNEXT」7号目次に戻る)

====
〈iNEXTは,臨床心理支援にたずわるすべての人を応援しています〉
Copyright(C)臨床心理iNEXT (https://cpnext.pro/

電子マガジン「臨床心理iNEXT」は,臨床心理職のための新しいサービス臨床心理iNEXTの広報誌です。
ご購読いただける方は,ぜひ会員になっていただけると嬉しいです。
会員の方にはメールマガジンをお送りします。

臨床心理マガジン iNEXT
第7号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.7


◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?