2-4.コロナ・ストレス対策①「環境を整える」
(特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋)
原田 優(東京大学特任研究員)
外出の機会が大幅減ったことで,私たちを取り巻く環境はどんどん変化しています。
今まで当たり前にできていた外での息抜きがしづらくなって,ストレスを感じる人も多いでしょう。家族や知人と過ごす時間が急に増えたり減ったりして,疲れてしまうこともあるかもしれません。
このように,環境の変化は私たちにとても大きな影響を与えます。
コロナ・ストレスに負けないために,
安心して話せる環境を作ろう!
①心地のよい対話をする
②周囲とのつながりを持つ
③相談窓口を知っておく
「話す」ことはただ情報伝達をするだけではありません。
・自分の気持ちを言葉で表現し,解き放つことによって気持ちがスッキリする「放す」効果。
・気持ちを言葉にして人と共有することでその事柄と一旦距離を置き,客観的に考えることができる「離す」効果。
などが期待されます。
安心して話せる環境を作ることは,コロナ・ストレスに振り回されないための大切なポイントです。
安心して話せる環境を作るための3つのヒント
①心地のよい対話をする
外出自粛が続いている今,私たちは以前よりずっと長い時間家の中で生活するようになりました。
同居している家族やパートナーとの関係に苛立ちや息苦しさを感じ,居心地が悪くなる人も多いでしょう。でも,せっかく家で過ごすなら,少しでも気楽に,居心地よく過ごしたいですよね。
居心地の良い家庭環境作りとして,まずは心地のよい対話をすることが大切です。
「もともとあんまり話す方じゃないし……」「今さら何を話したら良いかわからないし……」という方もいるかもしれませんが,難しく考えなくても大丈夫!
なんでもないおしゃべりをしたり,気持ちを言葉にして伝えたりするだけでも,張り詰めた関係を緩ませ,心をほぐすきっかけになります。
この対話が目指すのは,問題の解決や正解ではありません。
「しゃべったらちょっとスッキリしたな」「話してよかったな」と心地よくなれることが目標です。
一緒に過ごす時間が長い相手との対話では,つい自分の考え方を押し付けるような「命令」(例「○○してよ!」)や相手への「ダメ出し」(例「○○しないからそうなるんだよ」),いうこと聞かせようとする「説得」(例「そんなこと言ってないで○○してちょうだい」)等が増えがちです。
こうしたコミュニケーションのあり方では「話さなければよかった」「どうせ言ってもわかってくれない」と感じ,さらに不安や不満が増して,居心地が悪くなる可能性があります。
心地のよい対話をするためのコツは,
・相手が話し始めたら,途中で口を挟まない。話が一段落してから発言する。
・相手の方を見ながら話を聞き,テンポに合った相槌を打つ。
・たまにお互いの理解があっているか確認してみる。
例:「それってこういうこと?」「~っていう気持ちかな? 合ってる?」
・まずは相手の気持ちを受け止める。
例:「外で遊びたい!」
『そうだよね,これだけお家にいたら外で遊びたくなるよね』
・困りごとについては一方的に答えを出したり決めつけたりせず,一緒に考える姿勢で会話する。
例:「最近外出できなくてイライラするなあ」
『そうなんだね。何をしたら少しはマシになるかな?』
・アイ・メッセージ(私は~で始まる言葉)で気持ちを伝える。
例:「(あなたは)なんで片付けもしないでゴロゴロしてるの!」よりも
「(私は)時間があるなら片付けてくれると助かるな」
↑同じように片付けて欲しいと伝えていても,印象が随分変わりますね。
などがあります。
その他,日本産業カウンセラー協会のホームページでは,お互いの気持ちをわかり合うコミュニケーションのための「理解的な態度」や「傾聴」についてわかりやすく紹介されています。興味のある方はぜひ目を通してみてください。
もちろんこれらの対話のコツを,最初から全て完璧にこなす必要はありません。「今の自分はこれならできるかも」というものから取り入れてみてくださいね。
「どうしてもイライラして話を最後まで聞けない」「余裕がなくて,ついつい一方的に責めて対話が終わってしまう」というときは,外出自粛といういつもと違う環境の中でたくさん頑張って,疲れが溜まっているのかもしれません。そんなときは自分を責めたりせず,ひとりになれる空間に移動したり(お風呂やトイレでも構いません),温かい飲み物を飲んで休憩したりして,自分を労ってあげてください。心地のよい対話をするために「努力する」「我慢をする」ばかりでは大変です。まずは「肩の力を抜く」ことが近道ですよ。
また,いつも「聞く人」に徹していると,誰だって疲れてしまいます。家庭で話す機会がなかなか作れない人は,「話す人」になれる環境(友達など家庭の外の人間関係,SNS,相談窓口など)を確保しておくことも大切です。
②周囲とのつながりを持つ
今まで当たり前に顔を合わせていた人や親しい人と会えなくなり,「寂しい」「ひとりぼっちだな」と感じている人も少なくないと思います。
もちろん話したくない時に無理をして誰かと話をする必要はありません。しかし,一人で過ごす時間や人と話さないで過ごす時間が増えると,考え事が堂々巡りになったり,想像がどんどん悪い方へ膨らんでいったりと悪循環に陥りやすくなります。
これを防ぐためにも,人と話をする環境を意識して作ることが大切です。今は直接会って話す事はできなくても,
・電話
・メール
・SNSや通話アプリ(SkypeやZOOM,LINEなど)
で対話をすることができます。
これを機に,新しいツールや機能を使ってみても良いかもしれません。久しぶりに仲の良かった友人と電話をしたり,メールで写真を送りあったり,ビデオ通話中の背景を変えたりするのも気分が変わって楽しいですよ。
オンラインゲームや最近話題のオンライン飲み会も人と繋がる良い機会です。ただ,その楽しさからついつい時間を忘れて没頭し,生活リズムや健康状態に大きな影響を及ぼす危険性もあります。終わりの時間を決めておくなど,自分なりのルールを作って楽しむのがおすすめです。
これについては,次項「③アディクションへの注意」でも詳しくご紹介します。
③相談窓口を知っておく
心配事や不安を話したくても安心して話せる相手がなかなか見つけられないときに備えて,安心して話せる相談窓口を知っておきましょう。
外出自粛によるストレスの蓄積や,外に出づらい状況によって,
・心や身体の状態が不安定になる人
・さまざまな理由で衣食住に不安を抱える人
・虐待やDVをしてしまう人,被害を受ける人
が増えています。
今回の外出自粛がきっかけの人もいれば,今まで相談していた相手と話せなくなったり,利用していた相談機関に行けなくなったりしている人もいるかと思います。
もちろん,自分の力で環境や,身体,心を整えるセルフケアも大切です。しかし,非日常を過ごしている今,「いつも通り」に過ごすのはとても難しいことです。「どうしたらいいかわからない」「誰にも話せなくてしんどいな」というときには,是非相談窓口を利用してください。
はじめは少し勇気がいるかもしれませんが,相談窓口の方はいずれも,困りごと解決のスペシャリストです。あなたが落ち着いて話せるように,しっかりサポートしてくれます。
外出自粛期間が終わった後にも健やかに過ごせるように,今,自分が安心して話せる環境を整えておくことが大切です。
〈相談窓口のご紹介〉
一般社団法人日本臨床心理士会・一般社団法人日本公認心理師協会 「新型コロナこころの健康相談電話」
http://www.jsccp.jp/info/infonews/detail?no=708
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症関連 SNS心の相談
https://lifelinksns.net/
厚生労働省 こころの耳 新型コロナウイルス感染症対策(こころのケア)
https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/
一般社団法人 社会的包摂サポートセンター よりそいホットライン
https://www.since2011.net/yorisoi/
内閣府 男女共同参画局 女性に対する暴力の根絶 DV相談+(プラス)
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/pdf/dv_soudan_plus.pdf
〈参考にしたサイト〉
斎藤 環『健やかに引きこもるために』
https://note.com/tamakisaito/n/nd59fa9aa39ff
厚生労働省『心の健康を守るために』
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015or4.html
一般社団法人日本産業カウンセラー協会『職場や家族とのコミュニケーション,傾聴を大切に』
https://www.counselor.or.jp/covid19/covid19column5/tabid/511/Default.aspx
こころのかまえ研究会『緊急事態宣言と80%スリムな生活(Community Disaster Risk Reduction Association: CoDRRA)』
http://kokoronokamae.umin.jp/archives/state-of-emergency/
公益社団法人日本心理学会『もしも「距離を保つこと」を求められたなら:あなた自身の安全のために』
https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/#L2h-2
NPO法人 全国女性シェルターネット「新型コロナウィルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」
http://nwsnet.or.jp/statement/20200330.pdf
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