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2-3.コロナ・ストレス対処の認知行動療法

(特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋)

高山由貴(東京認知行動療法センター/公認心理師・臨床心理士)

新型コロナウイルスの感染拡大にともない,私達の生活は大きく変わっています。ちまたでは,コロナ疲れ,コロナ鬱(うつ),コロナ離婚など,コロナ・ストレスにまつわる言葉が飛び交うようになりました。
現在のような突然の大きな環境変化のもとでは,「心や身体が何かいつもと違う」と感じる方も多いのではないでしょうか? その理由の一つに,外出自粛要請等により,これまでとは異なる生活行動を余儀なくされていることもあるかもしれません。
そこで,認知行動療法の考え方を使って,健康的な行動を増やすコツをご紹介したいと思います。次の3つのステップを参考にしてみてください。

ステップ1:状況を行動・身体・気分に分けてみましょう
ステップ2:行動・身体・気分の関係について考えてみましょう
ステップ3:気分や身体にとってプラスとなるような行動を見つけ,試してみましょう

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ステップ1:状況を行動・身体・気分に分けてみましょう

例えば,こんな状況があったとします。

[夫と子どもと暮らすAさんの例]
Aさんの家では,子どもの学校の授業開始は延期となり,夫も在宅勤務中です。常に家族が家にいる生活を,Aさんは窮屈に感じています。Aさんは,このところ食料品の買い出しぐらいでしか外に出ていません。そのことに息が詰まる感じがして,イライラしがちです。時間を持て余し,一日中テレビで新型コロナウイルス関連のニュースを見ています。気になるので,つい見てしまいますが,見れば見たで気が滅入ります。夜,布団に入ってからも,なんとなくコロナ関連の情報をスマホで眺めているので,なかなか寝付けなくなっています。眠りが浅い感じがあり,朝から憂うつな気持ちで目覚めることもしばしばです。

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認知行動療法では,「心や身体が何かいつもと違う」という状況を,まず,行動・身体・気分という3つに分けてみます。Aさんの例を分けてみると次のようになります。

◇行動の変化:外出できない,テレビやスマホを長時間見続けてしまう

◇身体の変化:なかなか寝付けない,眠りが浅い

◇気分の変化:イライラする,気が滅入る,憂うつ


ステップ2:行動・身体・気分の関係について考えてみましょう

行動・身体・気分の3つに分けることができたら,次はそれらの関係について整理してみましょう。すると,行動・身体・気分が互いに影響を及ぼし合っていることが見えてきます。

Aさんの例であれば,新型コロナウイルス関連のニュースが気になって,夜もスマホで新型コロナウイルス関連の情報を眺めています。情報は見れば見るほど気が滅入ります。そのため,寝付けなかったり,眠りが浅かったりしています。そうなると,朝から気分は憂うつですし,ちょっとしたことでイライラするのも仕方のないことかもしれません。

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ステップ3:気分や身体にとってプラスとなるような行動を見つけ,試してみましょう

ステップ2までのところで,気分や身体にマイナスの影響を与える行動があることが分かりました。そこで,ステップ3では,そのようなマイナスの行動を減らし,プラスの影響を与えるような行動を探して試してみます。

まず,マイナスとなるような行動は時間を短くしたり,他の行動に変えたりします。例えば,スマホを見続けることにマイナスの影響がありそうなら,チェックする回数を減らしてみるのは一つの方法です。また,スマホの代わりに,新聞など別の媒体で情報を得るようにすることも考えられます。
そして,プラスとなる行動を探してみます。例えば,子どもが宿題をやっている時間は,自分もゆっくりと読書ができて気分転換になるとすれば,それはプラスの行動です。そのような行動が他にもないか探して,その行動を意識的に増やしていきましょう。もし,何も思いつかない場合は,いつもはやっていないけれど,プラスになりそうな行動を試してみることも一つです。家事の合間にリラックスタイムを作ってみる,自宅でストレッチや呼吸法などのエクササイズを始めてみるなどです。この時に大切なのは,あまりハードルの高くない行動であることです。そして,その行動を試してみてピンと来なくても,そこであきらめずに,また別の行動を探してみることです。プラスの行動を探すにあたっては,第2号掲載のコラムは,どれも参考になります。是非ご覧ください。

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Aさんの例でみてみましょう。

[夫と子どもと暮らすAさんの例]
気分や身体にマイナスの影響を与える行動があることを知ったAさんは,日頃の行動を見直してみることにしました。まず,テレビは決めた番組だけを見ることとして,それ以外の時間はテレビを消しておくことにしました。テレビを見ながらの食事もやめました。すると,食事時の家族の会話が増え,食べ物が以前より美味しく感じられるようになりました。その結果,心なしか気持ちも穏やかになったように感じています。

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以上,新型コロナウイルスの感染拡大時の日常生活において,認知行動療法を役立てていただくためのコツについてご紹介しました。もちろん,あまりに心身の疲労が激しい場合には休養を優先してください。無理をしないことが大切です。ご自分の心身の状態をチェックし,新しい行動に向けた意欲があるようでしたら,ご参考にしてみてください。普段の生活を,3つのステップで見直してみることが,健康維持につながるかもしれません。

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