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男鹿をフードテックの発信地に。食のクリエイティブディレクター・井上豪希さん

SANABURI FACTORYの「発酵マヨ」や土と風のランチメニューなど、稲とアガベのフードプロジェクト全般を手掛ける井上豪希(いのうえ・ごうき)さん。食のクリエイティブデレクターとして活動しており、ブランディングプロダクション「TETOTETO」の代表を務めています。

稲とアガベの多様な事業を食の面から支え、岡住代表と絶妙なコンビネーションを見せる豪希さんに、稲とアガベに関わるようになったきっかけや、将来のビジョンについてお話を聞きました。

初めて飲んだ稲とアガベの衝撃

岡住代表と井上豪希さん

——稲とアガベとの出会いはどのようなものだったんですか?

豪希:2021年のはじめごろに、熱燗DJつけたろう(※1)と共同でやっていた東京でのイベントで出会いました。僕もつけたろうもお店を持っていないので、年に1、2回、熱燗と料理のペアリングの食事会を開いていたんです。料理10皿に対して10種のお酒をペアリングするコンセプチュアルなコースで、お互いの半年間の研究成果を発表する場でした。

その第1回目で、僕の麻婆豆腐丼に対してつけたろうが合わせたお酒が、稲とアガベだったんです(土田酒造委託のPrototype02)。そのペアリングが強烈に美味くて、なんだこの酒は!?と衝撃を受けました。

※1:日本酒に対する愛情を熱燗で表現するDJとして日本各地のイベントに参加。オンライン酒屋・つけたろう酒店の店主。豪希さんとはポッドキャスト番組「デリシャスタイム」で共演中。

——そのタイミングで岡住さんともお会いしたんですか?

豪希:そうです。「このペアリング、すごく美味しくできてるし、造り手の方にも食べてほしいね」ということで、もともとつけたろうが修ちゃん(岡住さん)と知り合いだったので声をかけてみたんです。修ちゃんはちょうど東京の木花之醸造所にいたころで、来てくれました。ペアリングについても「めちゃくちゃうまいね」と言ってくれて、そこから一気に仲良くなりましたね。

——その流れで稲とアガベの“コーポレートシェフ”になっていったんですね。具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?

豪希:創業当初から稲とアガベの食関連の事業全般に関わってきました。例えば、レストラン・土と風ではシェフに対してコーチングを行ったり、シェフがいない昼営業のメニューを考案したり、ラーメンやおでんのポップアップの出店時にはオペレーションを担当したりしていました。

それらと並行して、創業前から続けているのが酒粕を使った商品開発ですね。2023年5月にリリースしたのが、発酵マヨです。これに関してはレシピ、アレンジ、さらにはそれを作る食品加工所の準備、手配まで全て僕が担当しています。

元は中華の調味料?発酵マヨ誕生秘話

——発酵マヨが生まれた経緯をお聞きしたいです。

豪希:はじめからマヨを作ろうとしていたわけではなかったんです。廃棄が問題になっている酒粕をどうにかしたいということで修ちゃんから相談があり、まずは、「そもそも酒粕はなぜ使われなくなったのか」と立ち返って考えました。

結論として、日本人の食文化が西洋化して、酒粕のレシピがないというところに行きつきました。そこで、今の発酵食ブームの追い風にも乗って、酒粕を発酵調味料に生まれ変わらせようとなったんです。

——それが発酵マヨだったんですね。

豪希:実は、最初の試作品は、「チューニャン」というものでした。 チューニャンとは、中華の調味料のひとつで、少し酸っぱい甘酒みたいな味わいで、原料に酒粕が使われることもあるんです。

本格的な中華のお店だと自家製で作っていますが、日本ではうどんスープで有名なヒガシマル醤油さんしか作っていないんですよ。つまり、ほぼ寡占状態だから、美味しいものを作れば商機があるんじゃないかと。完成品はうまくできました。ただ、そこでみんな気付いちゃったんですよ。「チューニャンって何?」と(笑)。

——(笑)。確かに、チューニャンという名前は初めて聞きました。

豪希:誰も知らないですよね。そもそものコンセプトが、家庭で使われなくなった酒粕の価値を再定義する、というものだったのに、名前も知らない調味料を誰が使うんだと。

でもできあがりは美味しかったので「別の名前をつけられないか?」となり、甘酸っぱくてうまみがのっているから、ドレッシングにしようと方針転換しました。それならと、油を混ぜて攪拌してみたら、図らずもマヨネーズっぽくなったんですよ。そこからブラッシュアップしたものが今の発酵マヨです。

——発酵マヨはチューニャンの延長だったんですね。リリースしてから反響はいかがですか?

豪希:おかげさまでご好評いただいています。特に外国の方からは味わい以外のコンセプト面に注目されていると感じます。そのキーワードが「ヴィーガン対応」「フードロス」です。海外にはヴィーガンマヨネーズ市場がすでにあって、発酵マヨは卵黄の代わりに酒粕を使っているので、その市場で勝負できるはずです。

——なるほど。フードロスの方はいかがですか?

豪希:酒粕の廃棄問題は、そもそもそれが食材であるという認識がない海外でも深刻です。しかも、燃えない、腐るなど処理が難しい。そんな酒粕をマヨネーズという価値ある商品に変えることで、フードロスの解消にも繋げられます。将来的には、海外でヴィーガンマヨネーズの加工場を作るかもしれません。そういう大きい未来を男鹿の外側にも見ています。

フードテックで男鹿を世界へ発信したい

——現在、新たに取り組んでいるプロジェクトはありますか?

豪希:今年の秋に完成予定の蒸留所で、世界に通用するジンを作ろうとしています。発酵マヨの下処理で、酒粕を加熱してアルコールを飛ばす工程があります。ジンはこの飛ばしたアルコールを抽出して活用することになるので、フードロスの観点でよりアップサイクルな価値を生み出します。

でも、環境に優しいという価値だけでなく、やっぱり味わいとしても最高品質のジンを作って、世界で売っていきたいんですよね。

そのためにも、なるべくリーズナブルな価格で出すというのが目標です。世界のバーシーンで飲まれるためには、安くて高品質のものでないといけません。原料の酒粕はタダみたいなものなので、低価格は実現できます。あとは品質をどう上げるかですね。

——男鹿から世界に通じるプロダクトを生み出す。発酵マヨの話も含めて、とても楽しみですね。

豪希:お酒や酒粕を取り巻く課題から、わくわくできるものを作り出し、面白い未来を描いていけたらいいなと思っています。男鹿をその発信地として、フードロスや環境負荷に着目したフードテックビジネスの拠点にしていきたいですね。

——男鹿の立地はハンデになりませんか?

豪希:むしろ、土地が広大で安いというメリットがあります。そういう意味で、加工所や研究機関はローカルにある方が良い。さらに、男鹿には理解ある協力的な自治体と強力なプレイヤーがいる。そんなエリアは全国見ても意外とありません。

——一般的なローカルのイメージとは対照的に、とてもスケールが大きいお話ですね。

豪希:僕自身、こんなに視座が上がったのは修ちゃんのおかげですね。彼と一緒にいて触れる言動や、連れてくる人々との交流によって、自然とものの考え方が変わっていきました。廃棄食品に高い価値をつけるなど、「自分がこれまでしてきたことは間違いではなかったんだ」と迷いなく進めるようになりました。

——食と酒というカテゴリでそれぞれ同じ目標に進んでいる、豪希さんと岡住さんはとてもいいコンビに見えます。話のスケールが大きくなってしまいましたが、もともと男鹿の第一印象はいかがでしたか?

豪希:初めて行ったのは(2021年の)醸造所が工事中の頃でしたが、冬でひと気もないし、閉まってる店も多くて寂しい街だなという印象が強かったです。でも、一通り回ってみると、面白いお店にもたくさん出会いました。
人との距離も近くて、例えば普段の生活の中で、すいれんのお母さんや居酒屋秀の秀さんの顔がふと思い浮かぶことがあります。今は、男鹿がすごく思い入れの深い場所になっています。人情味あふれるいい町ですね。

——稲とアガベをきっかけに男鹿との関係を深めているんですね。

豪希:最初は「稲とアガベの街」と思っていたけど、今は本当におらが街と思っているし、いろんな人に男鹿のことを自慢するようになりました。ちなみに僕は稲とアガベの社員でも役員でもない外部の人間なんですけど、対外的に話す時は「弊社」と言っています(笑)。

——(笑)。

豪希:それくらい、男鹿や稲とアガベのことが、自然と自分ごとになっています。自分のような外部の人間が深く関われているのは男鹿にとってすごくいいことだし、僕自身にとっても嬉しいことです。

【岡住代表コメント】
ごうきさんがいなければ、今の稲とアガベはありませんし、今の岡住ではない人間になっていると断言できます。時々僕はごうきさんでごうきさんは僕なのかもしれないと思うことがあります。ということはいくみちゃんはももちゃんで、ももちゃんはいくみちゃんなのかもしれません。縫は、けむとはなで、、、まあなんかそんな感じです。
(※いくみ=岡住の妻、もも=豪希さんの妻、縫=岡住の息子、けむり・はなび=井上家の猫)

この記事の担当ライター

たろけん
沼にハマりすぎて、蔵人になってしまった日本酒好き。近年はクラフトサケを応援しており、特に稲とアガベは、土田酒造からプロトタイプが出ていたころからのファン。このメディアを通じて、表向きは稲とアガベの魅力を伝えつつ、裏テーマとしてはまだ訪れたことがない男鹿を疑似体験したいと思っている。
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