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10倍生産できる醸造所になるために。稲とアガべの定番酒「交酒 花風」開発秘話

2024年2月22日、稲とアガベの新商品として、「交酒 花風(こうしゅ はなかぜ)」がリリースされました。

小規模での醸造であるため、販売価格が高くなりやすいクラフトサケ。「飲食店で取り扱いにくい」というハードルを乗り越えるために開発されたのが、「交酒 花風」です。その背景には、岡住代表の「2年後に10倍の製造量を実現し、クラフトサケをもっと手に入りやすいものに」という熱い想いがあります。

「交酒」とはなんなのか? なぜ、「定番酒」を作るのか? 岡住代表へのインタビューをお届けします!

※この記事は、「岡住修兵のふわふわタイム!!2月号」インタビュー時に非公開となった話を元に編集しています

クラフトサケは、飲食店で扱いにくい

岡住:そういえば、今まで黙ってたんですけど、稲とアガベの「定番酒」として、新しいブランドをリリースするんですよ。

──定番酒ですか。定期的にリリースされる「稲とアガベ」や「稲とホップ」などが、定番酒的な立ち位置なのかなと思っていました。

岡住:日本酒の酒蔵が、「定番酒」と呼んでいるようなお酒のイメージです。ラベルデザインは、こんな感じで。

──渋い! なるほど、言わんとしてることがわかりました。いわゆる、酒蔵さんの商品の中でもいちばんリーズナブルで手に入りやすい、日常酒としてのお酒ということですね。

岡住:クラフトサケって、一般的な居酒屋に置いてもらおうとすると、値段的なハードルが高いんですよね。1杯あたり、2000円とか2500円とかになってしまうので。

──小売価格が500mLで3000円ほどとなると、そうなりますよね。

岡住:なので、稲とアガベのお酒というのは、基本的には個人のお客さんが買ってくれているものなんです。でも、日本酒の場合、多くの人は飲食店でお酒に出会うじゃないですか。

──おっしゃるとおり、四合瓶を購入して家で飲む人って、お酒好きの中でも結構コアな日本酒ファンだと思います。

岡住:飲食店で頼むにしても、一杯1000円の日本酒と、副原料が入った一杯2500円のクラフトサケが並んでいたら、誰が僕たちのお酒を飲んでくれるんだろうと。お酒に興味が強い人ならともかく、初心者には難しいですよね。その壁を超えるには、 価格の問題をきちんとクリアしていかないといけないとずっと考えていたんです。

値段を安く設定できる理由

──それで生まれたのが今回の「定番酒」なんですね。価格はいくらなんでしょうか?

岡住:四合瓶(720mL)で、小売希望価格2100円(税別)です。

──おお、一般的な日本酒とあまり変わらないですね。でも、クラフトサケって、小規模な設備で造られているからこそ値段が高くなってしまうわけで。どうやってそんな価格が実現したんでしょうか?

岡住:確かに、少量生産だと、価格を下げるのって難しいんですよ。だから、この2年間、なるべく多く造れる方法を実験していたんです。

稲とアガベのラインナップは基本的に、30〜35日間という長い時間をかけてゆっくり発酵させることで、キレイな酒質を目指しています。つまり、その期間を短縮できれば、倍近い量のお酒ができるな、と。

──日本酒の酒蔵でも、吟醸酒などの透明感の高いお酒は、低めの温度で長期間発酵させるのがセオリーですね。

岡住:20日間くらいの発酵期間でも美味しいお酒を造れるように試行錯誤した結果、今回の定番酒が完成しました。同じ期間でタンク2本作ることができれば、製造量は倍になるから、価格を下げることができるんです。

むしろ、これまでの「稲とホップ」より美味しいものができている自信があります。今後出てくる「稲とホップ」も、この製法を踏まえてレベルアップさせることができるんじゃないかと思います。

──稲とアガベの創業から数えきれないほどのプロジェクトが生まれていますが、水面下でそんな実験も進めていたんですね!

「交酒」とは? 「花風」とは?

──名前は「交酒 花風」。「交酒」というのは、以前岡住さんがTwitter (X)で少し触れていたのを覚えています。

岡住:日本酒とほかの文化が交わったものがクラフトサケである、というイメージです。

──アガベシロップを用いた「稲とアガベ」に始まり、さまざまな素材を掛け合わせるのがクラフトサケの醍醐味だと。「花風」はなんでしょうか?

岡住:「花」は、ホップの和名である「西洋唐花草」から来ています。古くから、唐花草を使用したどぶろくは「花酛(はなもと)」と呼ばれていて、秋田の農村でも伝承されてきました。「風」は、稲とアガベのクラフトシリーズのコンセプトとしてもともと使っていたものです。

──稲とアガベには「土」、「風」、「雷」、「星」という4つのシリーズがあり、どぶろくは「土」、副原料を使うクラフトサケは「風」にあたります。ホップを使ったお酒だから、この定番酒は風シリーズなんですね。

岡住:男鹿には寒風山という山があって、風が強いことで有名なんですが、この商品を通じて業界に新しい風を吹かせるという思いが込められています。
あと、「はなかぜ」ではなく「かふう」と読むと、能の世阿弥の用語で「観客を引きつけるに足る美しい芸風」という意味があるんですよ。2年以上の経験を積んで、こうした定番酒をリリースできる舞台に立てたんじゃないかな、という想いも込められています。

クラシックで新しいナマハゲラベル

──それにしても、ラベルがいいですね。クラシックで、昔ながらの日本酒みたいです。

岡住:文字は書家の辻井樹さんにお願いしました。

──デザインはナマハゲが元になっていますよね。男鹿の定番酒らしいなと思います。

岡住:デザイナーの石田(敬太郎)さん、創業当初は「ナマハゲはデザインに使わない」と言っていたんですけどね。「花風」という文字を見ていたら、だんだんナマハゲに見えてきて、使ってしまったそうです(笑)

──確かに、草かんむりがツノ、虫の部分が目と口に見えてきます。肩ラベルには「稲と忽布(ホップ)」と書かれていますね。今後、これまでの「稲とホップ」はもうリリースしないんでしょうか?

これまでの「稲とホップ」

岡住:花風の中でとても出来の良いものや、特殊なホップを使用したものは「稲とホップ」として別途販売していく予定です。時間をかけて丁寧に造ると酸が下がるので、より吟醸酒に近い酒質になるんですが、それを「稲とホップ」としてリリースしていくイメージです。

──このお酒をきっかけに、稲とアガベやクラフトサケを楽しんでくれる人がもっと増えていけばいいですね。

岡住:このお酒をベースに、クラフトサケというジャンルのお酒がもっと多くの飲食店に置かれるようになって、クラフトサケブリュワリー協会に所属しているほかの醸造所のお酒も注目されるようになってほしいですね。

目標は、いまの10倍規模の醸造所を立ち上げて、クラフトサケをもっとリーズナブルな価格で売ること。目指すは黒霧島や獺祭、ヤッホーブリューイングのようなメーカーです。そこまで成長できるよう、死ぬ気で頑張り続けますので、ご支援何卒よろしくお願いします!

インタビュー・執筆:Saki Kimura

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