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ジャック・アマノの“アメリカNOW” ワイルド・ウエストの旅 その3 近頃話題のサウス・ダコタ

 世界的パンデミックになって3月のインディーカー・レース開幕戦が延期になり、その後のレースもバタバタとキャンセルされ、仕事=レース取材の再開は6月末にまでズレ込んだ。日本に戻って情報を集め、取材計画を立てると、今回の渡米は6〜7月に行ったきりで4ヶ月は日本に戻れない……との結論になった。そして、レースは毎週あるワケじゃないので、インターヴァルに何をするか、どこに行くかを考えねばならなくなった。パンデミックの状況に応じて、より安全な場所に移ることになる可能性もあった。いろいろ検討した末、未踏のアメリカ西部を見て回るツアーを思いついた。アメリカ北西部の州はほぼ全部に行ったことがなかったし、住んでる人が少ないので感染率も低いだろう……と。


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実は結構来てみてかったマウント・ラシュモア。やっぱり、この国のスケール感で作られてる(タイトル写真)。彫像がよく見える場所までは、アメリカ50州の旗が掲げられ、その下に州として認められた順番、年号が記されている

 モンタナ、アイダホ、ノース、サウス・ダコタ……辺りにはおそらく一生行かないだろうな、と考えていた。それが、自分が行く可能性を検討し始めた途端、色々な情報が入るようになった。あれこれ面倒な事態が起きていると耳に入ってくるようになった、とも言える。例えば、4月の初めにはサウス・ダコタ州スー・フォールズの食肉加工工場で80人以上の大型クラスターが発生、すぐに400人以上にまで拡大した。それでも州知事はステイ・アット・ホームのオーダーを出さない。「大丈夫なの?」と当然心配になる。

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マウント・ラシュモアを背景に

 7月4日の独立記念日には、マウント・ラシュモアで大統領が来ての式典が行われた。日本にいて、「えーっ!」ってなった。岩山に4人の大統領の顔が彫られたマウント・ラシュモアは、近頃はアメリカでもそんなにみんなが興味を引くものじゃなくなってたはず(日本にいて持っていた勝手なイメージだけど、それなりに当たっていたと思う)なのに、パンデミックがひどくてヨーロッパどころかカナダとメキシコからも「来ないでね」と入国を拒まれるようになっているアメリカンたち、特に愛国者たちにとって、この夏に訪れる場所のひとつとしてマウント・ラシュモアは一気に注目度が急上昇しちゃったんである。

 バッドランズの後に訪れたマウント・ラシュモアは、そういう事情のためらしく、かなりの人出だった。駐車場からモニュメントの見える場所までは徒歩数分。大半の人たちがマスクをしていたのにはホッとした。ギフト・ショップが入場できる人数に制限をかけていた点もマルかな。

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四大統領の顔、完成から70年とか経っても全然風化していない様子。顔ひとつがだいたい18メートルの大きさ。彫象を作る際にはダイナマイトで何度も爆破をする必要があったということで、下に瓦礫が堆く残されている

 「しかし、よく彫ったもんだよなぁ」というのが四大統領の彫像を見ての感想。1941年完成なのに、侵食とかはほとんどないかのように見えた。ルーズベルトとリンカーンの髭のディティールとか、「お見事!」と舌を巻くレヴェル。
 この四人を選んだのは、彫った人本人。それより、彼はなぜサウス・ダコタの山中に大統領の顔を、それも四つも彫る気になったのか。14年もの年月をかけて。

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マウント・ラシュモアもクレイジー・ホースもブラック・ヒルズ・ナショナル・フォレスト内にある。国立森林公園とでも訳す?

マウント・ラシュモアは、ブラック・ヒルズ・ナショナル・フォレストと呼ばれる、国の指定する保護森林地区にあるのだが、このエリアは今もアメリカ先住民が多く住んでいるところでもある。彼らとすれば、「なんでここに白人のリーダーの顔が彫られなきゃならないのか」となって当然。その思いが、すぐ近くに”クレイジー・ホース”というニックネームだった先住民の偉大なリーダーの彫像を作る計画になった。大統領の彫像が完成してから7年後の1948年、モニュメント製作は始まったが、70年以上が経った今でも完成まではまだまだ程遠いことが見てすぐわかる。

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1840〜1870年代に生きたアメリカ先住民の勇敢な戦士。彫像は顔の部分が完成。その右下に作業場が見える。貫通した穴の上が突き出した腕で、その腕も上半身も、彼の跨がる立て髪の豊かな馬の部分もほとんど手付かずのまま。馬の耳と目が白い線で描かている

顔の部分こそほぼでき上がっているものの、クレイジー・ホースは馬にまたがった彫像となるはず。人間と馬との間の穴は貫通したが、計画が壮大過ぎて、完成しないんじゃないか? と心配する声まで上がっている。四大統領の顔が18メートルほどの高さなのに対して、クレイジー・ホースは馬+上半身なので高さは170メートル。横方向の長さも190メートル以上に達するものだからだ。

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カスターという村のTシャツ屋。トランプ・シャツのバラエティ豊富

 今週、またサウス・ダコタが注目を集めている。ハーリー・デイヴィッドソン乗りが全米から集まるイヴェントが今週から10日間に渡って、スタージスという小さな街で開催されるからだ。タイミングの悪いことに、第80回目の記念すべき年なので、イヴェントが大々的になっている。公式日程の始まる前からトータル25万人以上が結集するだろう……という。

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クレイジー・ホースの近くのカスターという街に泊まった。こんな西部劇に出てくるような田舎町でもCOVID-19感染者が10人とか出たらしい

バイカーたちのマスクをする意識が弱いので、スタージスの住人たち、特にお年寄りがいる過程は戦々恐々。しかし地元の市長は、「人々が押し寄せるのを止めることなど、私たちにはできません」と平然としている。職務放棄じゃないの?。このイヴェントがあるおかげで1年間の収入の大半がカヴァーされちゃう……という人たちも多く、バイカーたちが来ないようにする措置はとれないという事情もあるらしい。

以上 第22回終了

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