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ジャック・アマノの“アメリカ NOW” 3万人以上感染のウィスコンシンでインディーカーが観客を入れてのレース初開催

 ウィスコンシン州は乳製品の産地として名高く、最大都市ミルウォーキーはビールと大型バイクのハーリー・デイヴィッドソンで有名。そこからミシガン湖の西岸づたいに60マイルぐらい北に行ったところに1955年オープンのサーキット、ロード・アメリカはある。

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終末はミシガン湖半の街にいたが、日曜の朝にチェック・アウト。レースを終え、次のホテルへ引っ越すために西に向った田舎道で出会った地平線

 畑と牧場ばかりのエリアにレーシング・コースが造られたのは、この辺りには珍しく土地に結構な起伏があるからだろう。開墾が大変な地形は、攻略しがいのあるサーキットをレイアウトするのに最適で、緑の木々の間を貫く、ドライヴァーたちに最高のテクニックを求める全長4マイルの高速ロードコースが完成された。そして同時に、コース両側に広がる斜面は、ファンたちに絶好の観戦エリアを提供することとなった。
 広大な敷地を持つコースのインフィールドではたくさんの家族がキャンプをして、夏休みの週末をレースともども堪能。このコースは自分のクルマを観戦場所近くまで運転して入れるので、泊まりがけでなくても、レース観戦とピクニック気分を一緒に楽しむ人が多い。

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コースサイドでレースを見るファン。金網のこちら側は結ハード・ブレーキング、コーナリング、加速……を間近に見ることが可能。向こう側の丘に陣取れば、コーナー全体を見渡せる。右手前に見えているサインは、トイレのじゃなくて「ソーシャル・ディスタンスのおねがい」

 そんなコースで先週末に行われたインディーカー・レースは、アメリカ最高峰オープンホイール・レース・チャンピオンシップが今シーズン初めて観客を迎えて開催するものだった。そして、それは大盛況となった。

 このイヴェントを前にしたウィスコンシン州の状況は、決して楽観のできるものではなかった。日本の40パーセント近くという広さに東京都の半分より少ない600万人ほどが暮らす州では、COVID-19感染者数が5月10日に1万人を越え、6月2日に2万人、イヴェント前の7月3日には3万人以上となっていた。感染拡大が治まってはいるとは、まるで言えない状況だった。

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ベンチ状のスタンド席には「前後左右に6フィートの間隔をとって」とお願いするサインあり

 それでも州政府によるイヴェント開催ストップはかからず、シリーズ主催側もファンをサーキッに入れてのレース決行に踏み切った。プロ・ゴルフのPGAとは対照的だ。彼らがオハイオ州コロンバスで今週末に行うトーナメメントは、6月にシリーズが再開されて以来初めてファンの入場を許すことになっていたが、イヴェントが間近になった先週月曜に無観客への方針変更が発表された。
 野球のメジャー・リーグ、バスケットボール、ホッケーはまだ試合開催にも漕ぎ着けられずにいる中、インディーカーは早くも3、4戦目をロード・アメリカで迎え、そこにはとても多くのファンが詰め掛けた。3月からライヴ・スポーツ観戦のできない状態が続いていることから、「待ってました!」とばかりに大勢が集まったというところもあるだろう。シーズン前半に予定されていたレースがキャンセルされたのを受け、1レースだけだったのがダブルヘダーに変更され、お得感の増した点も人気に拍車をかけたと見られる。

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右のドライヴァーは普通のマスクで、左のチーム・オーナーはスポーティなフェイス・カヴァー着用。どちらもスポンサー・ロゴ入り

 ウィスコンシン入りするや、人々のウィルスへの警戒心が高くないことが感じられて戸惑ったが、さすがにこの時期の開催とあって、サーキットは感染防止対策に万全を期していた。前売りチケット購入者には自宅でそれをプリントして持参することを推奨。そうすればサーキットのゲートに直行できるので、チケット・カウンターに並んでパスを受け取る手続きを省け、人と人の接触機会が減るから感染リスクが低められる。ゲートでは入場者全員の検温をし、その後にマスクと手の消毒ジェルを配布。サーキット内のあちこちに「ソーシャル・ディスタンスを保ちましょう」という小看板が出され、トイレや売店には消毒液が常備されていた。
 アメリカでは使い捨てマスクがまだ結構高いからか、布製マスクが流行っている。レース・チームはオリジナルを用意してクルーたちに着用させ、中にはもう商品化をしているところもあった。
 サーキット内を徘徊してみたが、大方のファンは感染防止ルールを守って行動していた。酔っ払って大騒ぎ……という人たちは少なかったように見えていた。

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サーキットを出たら、目の前に最新のシヴォレー・コーヴェット=C8が。初めてだ、路上で実物を見るのは。ミッドシップ・エンジンになってヨーロピアン・スポーツカーとの区別はつきにくくなった。しかし、エンジンは6.2リッターV8 とアメリカンのままだし、495hpと十分にパワフル

 肝心のレースはというと、2戦ともインディーカーならではのエキサイティング&スリリングな戦いになっていた。今週末の通し券は150ドルだったが、快晴で暑過ぎないコンディションにも恵まれ、来場していたファンたちは払った値段に見合うか、それ以上の満足感とともに家路についたことと思う。

以上 第12回 終了

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