三歳の悪魔
三歳の時に胸部に火傷を
負ったのである。
母親の湯飲みに入った熱いお茶を
飲もうと、棚の上に手を伸ばしたのである。
それが倒れ、こぼれたお茶が、
胸部にかかったのである。
母親は、お茶を冷ますために、
幼児が「手の届かない高さ」に
置いたつもりであった。
にもかかわらず、火傷を負う
事態となったのである。
火傷の後は、それから十年ほど、
残り、やがて消えていった。
しかしその間、火傷の跡を見るたびに、三歳の頃の「母親の不注意」を
思い出し、無意識に断罪してきた
わけである。
不可抗力の出来事であるにも
かかわらず、母親を糾弾して
いたのである。
そのような自分に気づいたのは、
三歳の時の自分をありのままに
思い出したからである。
実際、棚の上の茶碗に手を伸ばしながら三歳の自分は、次のように考えていたのである。
「この女(母親のこと)、息子である
俺様のことにまったく関心を示していないな。これはひとつ懲らしめてやろう。「自分の非を思い出すような一生続く罪悪感を植え付けてやろう。」
自分が火傷を負い、
母親に罪悪感を負わせることが
目的で、茶碗に手を伸ばした
のである。
火傷をしたいがために、
茶碗に手を伸ばしていたのである。
母親は無罪だったのである。
すべては、自作自演の偽旗作戦
だったのである。
あどけない顔をしながらも、
その正体は、三歳の悪魔そのもの
だったわけである。
すべては、母親に対する
強烈な支配欲と差別意識から、
生じたのである。
ありのままの自分とは、
かくも無慈悲で残酷な一面を
持っているのである。
そして、自らの生きる世界も
また同じような面を持って
いるのである。
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