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向田邦子、“ラストベガス”男たちの恋情

勾配を登った先のかごしま近代文学館は 気になっていた建物で
生誕90年を記念した特別企画展の文字に すすすと引き寄せられ
かごしまメルヘン館隣接 職員のお姉さんの制服がとても可愛い
近くにおいしい珈琲やもちもちパンケーキ 絶品スパゲッティのお店や
四隅にすてきな友好都市モチーフの街燈ある 水辺が心地よい公園
神社や県立博物館 お花屋さんもほど近く

エッセイストだと思っていた彼女の 八面六臂の活躍に驚かされた展示
数多くのドラマの脚本を手掛け 後に直木賞作家となり
会場に吊るされた ことばが連なるカードが揺れている
読むたび胸に響くもの 一角に肖像写真が飾られており
真正面を向いた一枚に 惹きつけられた
とても良い目をしているひと 無邪気で意思的
芯のはっきりした 語りかける眼差し
いまにも口を開きそうな気配 否見つめるだけか
このひとの書いたものを読みたいと 実家の本棚が浮かんで
ノルウェイぢゃない 赤と緑のくしゃりとした狛犬の表紙

気持ちのよい筆力で描き出される 昭和の家庭の情景がひとつひとつ浮かび
懐かしい時代の風を感じつつ 男同士の友情とその家族や周囲との交わり
昔気質で融通の利かぬ父親 偉丈夫モダンの微かで深い恋情
だれしもが抱くこともあっても そうとは表さないやうな
しかし彼は全力で 友人とその家族に接する

展示には邦子のラブレターや居室 クロゼットの中身も
お洒落がすきで黒い服を好み 重厚なテーブル代わりの太鼓は
ラオスの博物館で見たもののよう 綺麗に並べられたわくわくする書棚
美味しいものに纏わるあれこれをしまっていた ラベルの貼られた小抽斗
隣では生誕100年を迎える島尾ミホ展も 奄美に縁深い島尾敏夫
彼の想像力の源となった妻 自身も作家である生涯にスポットが

ロバート・デ・ニーロ モーガン・フリーマン マイケル・ダグラス
歳を重ね 過去のわだかまりもそのままに再会する元少年4人組
カジノで弾け 高級ホテルのクラブやプールを愉しみ
かつて幼馴染とすきな女の子が重なり 遊び仲間の必然か
好きでありながらも 友と一緒になった方が相性がよく
彼女も自然にいられるだろうと 身を引いて
友人の元へと背を押し 二人は添うことに

テーマの似た二作の後 そういうこともあるかなぁと思い巡らす
男だからか 言ってしまったらいいのにと思うけど
すきだけど合わない すきかなんて考える余裕もないほどに夢中
どうしようもない想いは 人類生物みな共通でどこにもあろう
思いも関係性も考えた上で 終わらずに持ち続ける思いというものに
続けて行き当たり そういうこともあるのだなと
たくさんの笑いとともに しみじみした時間だった

“くにこのぐるり~向田邦子を作ったもの~”展(鹿児島市制130周年記念)
『あ・うん』(向田邦子・’81・文芸春秋)
“ラストベガス(LASTVEGAS)”(US・’13)

Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛