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イルカ棲む AMAKUSA

海上に出ると 余分のことは
どんどん後ろへ 吹き流されてゆく
海は目にするだけ 浸かっているだけで
完璧に満たされる しあわせな存在だが
波上からの景色も 得難い

堤防には 竿を垂れる姿がちらほら
港を出れば 海が拓ける
漂う手触りに 祖母の気配
還ってきたよ なつかしい光の粒が
あらわれては消え 南方に呼ばれていたのよ
海は広く 世界中が繋がっている
一番多く入ってきたのは 天草の海
道中舞い来たトンビに 思い出が溢れ出す

幼いころは 海に毎日浸かって
そこにあることは当たり前で 呼べばいつも囁き返し
どんな日にも包み込む おおらかさにやすらいで
毎日ちがう色を表し 凪いでいる日も荒れる日も
それがあなたで それが彼
わたしの内にあるものも 目の前のうみも
おなじ塩気を有する 生命体

潮風を全身に受け 海面に迫る山
まばゆい空を眺めた 太陽は遥かから照り
15分程で沖合へ 速度を落とし
そろそろと イルカ眼に切り替える
受ける風に高波のうねりも和らいだ 三角の背ビレが覗きはじめ
集まった5船のあちこちから歓声が上がる サメの尾ビレは垂直なので
背ビレと共に海面に覗く 体をくねらせ尾を左右に動かすサメと違い
イルカの水平な尾ビレは 上下に動いて

ほうと遠くに置いていた視線を 船体の脇に下げれば
おおきな円い瞳が 見上げくる
おやと 愛くるしさにぢっと見つめ返すと
腹を半分見せたまま いたずらこく笑む
こういう姿勢でも 泳げるよと
ぼくってすごいのんと 問いたげな眼差し
相も変わらず ハートを掴んで離さない

波間の妖精は ぐんぐん泳ぐ
色の浅い腹がきらめきを見せ 艶のある背を翻し
疾風怒濤の如く 切れ目なく波を狙って
立っては砕けゆく高波 リズムに乗るよう行き交って
となり合う幾頭もが 揃って泳ぐ
うつくしい動きの彩に 光も跳ねる

しなやかに海中に消える 反対側から泳いでくる個体と行き合うも
華麗に波のはじに吸い込まれて すぐに現れては波に乗り
船尾に潜り 高速で抜ける
惚れ惚れする泳ぎの名手の 果てない行き来

潮の満ち引きで イルカの居場所は変わり
魚の群れを見つければ そちらへ向かう
毎日毎秒ちがう海と 大波を切るイルカ
どこに暮らす生きものも 一緒だなと
島のクロウサギやケナガネズミ ヤマシギのもったりした動き
スリランカの紫ザル みんなの動きが思い出される

海面に浮かぶプラスチック袋が むなしく漂い
舟は揺れることもある 乗る前に一度鞄やポケットを確認して
海上で落とさぬよう ちょっとばかり気をつけて
あのこたちに会うと 意識は変わりゆこう

あいくるしい姿 一度行ってみると
海の時間を感じる ひとときを過ごせる場所

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Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛