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よろめき与論 パナウル島よ 1/3 <印象与論>

つい数日前 縁ある島が近くにあると知った
電話口で母が そういえばと思い出したように話してくれて
5月は休もうと急遽決め 旅立つことに
この世に取り上げてくれた 助産師さんの故郷
婦長だったという彼女の名前は 思い出せなくても
**
鹿児島県最南端の与論は パナ(花)とウル(珊瑚)の楽園
「東洋に浮かぶ一個の真珠」と称され エメラルドグリーンの海広がる小島
好もしいパワーにあふれ 与論女性たちから発される光に
否応なく魅きつけられる おじいさんたちの素敵さと人々の可愛らしさ
何より 出会ったともだちと大声で笑って話し
あふれる感情に 思い切り返せるこころよさに癒され
登り切った先や曲がり角に とびきりの青が覗いて思わず声は弾む
ひと月振りに跨った自転車 坂の多さに悲鳴は止まず
車とバイクは便利で雨にも強い 自転車なら行き過ぎても引き返しやすく
サッと止まって人に話しかけられと 小回りが利く
*
暗いステージに響き渡った音 聴く者を素直にしてくれるメロディー
欠けた照明 客席から幼い我が子の声援が飛ぶ
完璧な調和のなか 祭は始まった
ひょうきんな面々と 連れ立って呑み屋へ
黒糖焼酎と油ソーメン もずく天のもっちり食感
幻想という名の店 ノスタルジーを誘う灯り看板が浮かび
町角には獲れたてマグロの切り身の店 おばあと話していると
時空はゆらりと形を変え 笑顔だけが広がっていく

洋上に出たボートは 何処までもクリアな波を切り
果てしない青に沈む みずいろの先のブルー
絶妙にかさなるグリーンに 終りなく溶けていたくて
口呼吸もやっとわかったやも カラフルな熱帯の魚たちと
クールなエラブウミヘビ すいと天から
左右に振り下ろされる動き アオウミガメと呼吸を合わせる
*
誰かの涙の温度を感じるとき こちらの切なさも止めどなく
泣かないで またきっと逢える
感情の連なりが 珊瑚の桃や深紅に滲み
雫の如く きらめいた

離れがたい風景 窓辺に並んで座ったカウンターに
もずく蕎麦の碗を置く 貝殻の箸置きの可憐さ
島へ戻るフェリーはまもなく 港までゆっくり歩いて
空港に向かう子とお別れ 数日前に会ったばかりなのに
哀しみも どこかで栄養になる筈
地上と甲板が 幾本ものカラフルなテープで繋がっている
送られる立場であろう人の姿 他人事ながらぐっとくるねぇと笑い合い
中のテーブルへ 自販機にはキリンラガー
船酔い防止と 一斉にプルタブを引く
最後の島有泉 おもむろに鞄から現れた白岳も
ワンカップの懐かしさと ほろ苦さが過って
話しているうち着岸し 鹿児島まで上る子らが
とっぺんから勢いよく手を振って いいおとななのに
海上の船は皆を子どもにして 笑顔のまま軽トラに乗り込んだ
*
車にまつわるハプニングは あっという間に積み重なる
初日のパンク 助けてくれたレストラン店主の華麗な工具捌き
手際よく交換されるタイヤ 淋漓と路面を濡らす汗に見惚れ
町から里を抜け森へと 関係者を探してひた走る内
二度目の脱輪 声が嗄れるほど叫んだとて
JAFには届かぬこの思い 電波もひよわな己も頼れぬものの
試行錯誤しているところへ 天の助け
通りがかりの研究者の 偉大なる輝き
先の人生に 幸多からんことを祈り続ける

気が付けば 何時のときにも山中を巡って
うんうん唸って切り替えし 側溝にはもうはまらないわと
数年振りに思い新たに お願い猿田彦
もう少しだけ傍で見て 危うそうな場面が来たらそっと囁いて
麦酒のグラスを 高らかに挙げ
黒糖の小皿もうやうやと捧げ持ち 漆黒の闇に願ふ
(2017.05)

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Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛