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珈琲

珈琲は動的瞑想 淹れるときにも飲むときにも
動きを伴いながら 精神統一がなされ
至高の道筋 決まった動作がもたらす安寧
馥郁とした香りに 自分の奥深くへと下る扉は開かれ
ハンドルをゆっくりと回せば 小気味よい音の響きにまっさらな心持ち

数年前 仲間が開いてくれた珈琲講座で
ドリップの手順を覚え 外でなくとも珈琲を愉しめるように
ゆったりと流れるとき 穏やかな空間に満ちる平和
家で過ごす休日を 慈しむようになった

好きな豆を取り出すと たちまち香ばしさが広がって
それは好もしい男との抱擁の 昂揚やあまやかさに似て
だいすきなものに 大きく包まれる安心感がある

喫茶店の 茶と白の濃密な色彩
あたたかみあるオレンジの照明 艶めく木のテーブルにカウンター
椅子の彫り模様やおごそかなランプ 何処からか集い来て
カップを手に 時や空間を自在にたゆたう人々
互いに他者の気配を ゆるやかに感じながら

珈琲道具の佇まい 銅製のアラビアンなポット
ステンレスの水差しの 硬質な煌めき
鈍い光を放つ 使い込まれた道具の吐息が
布たちの朴訥とした雰囲気と ソーサーやカップの美しさと

メキシコのトセパン協同組合が取り組む 森林農法(Agroforestry)の話
多民族居住エリアの南部 コーヒーだけを栽培するのではなく
高木も低木も草も いろいろの種が混じり合い
重層的な表情を生む森に集う 多種多様な動物に鳥
昆虫や菌が ユニークな生態系を形成して
単一種に偏らない 調和した環境の維持
たくさんの植物から得られる恵みは大きく 生産者の生活安定にも繋がり
コーヒーの木の陰に 動物がやすめる日陰をつくる木を植え
トーチの花は モグラ除けにもなるとか
一本の木を伐ると 幹に暮らす昆虫やアリなど困る種が現れる
コーヒー生産地と多様な生態系 固有種の生息域は重なって
森に暮らしてきた先住民 自然全体のサイクルからうまれた知恵
微生物の活動を促すアグロエコロジーへの流れも もっと知りたくなった

カフェインレスに移行するかと思いながらも 魅かれる豆にはまだ
きっとそのうち 逢えるだろう
ときに飲む一杯に 深い森の息吹が浮かぶ
深いリラックスの中 あまたのまだ見ぬ命への祝福を

  “コーヒーと恋愛はお熱いうちに”
       ―――コーヒーセレモニーの国エチオピアの諺

Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛