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断酒

断つ、止めると思い 久しいもの
今度こそ決意したのだ この数年で大きく変わった身体は
飲酒には適さなくなった コンディションにより酔いは回り
翌日に持ち越すような飲みかたや食べかたは 終えなければ
身体には赤い引っ掻き傷 哀しい痕跡
血中にアルコールを入れまいと 幾度も思ったのち

  “少し飲むということができないのだよ。だから絶対に触らない。
   わたしの場合、断つことは簡単でも、量を抑えることは難しい”
                   ―――サミュエル・ジョンソン

愉しくなってしまうと 引き返しにくい
体内時計が太陽とともにある今 生活リズムも変わり
日が暮れてからの飲食は 翌朝に堪えるように
入眠時刻をとうに過ぎた宴では 身体は冷え切って

美味しいお酒と食事の席が 何より楽しかった頃
声が掛かれば必ず参加し 率先して会を開きさえした
酒は憂いの玉箒と 病めるときくるしいとき
蘇軾の言葉が頭に浮かんだ 仕事を忘れこぼれ話に泣き笑い
論議は白熱した 痛飲するたび懲りようと
一年経てば 忘却の彼方
お酒が好きな友人の母と旅した折 食事の席には常に飲みものがあった
焼酎も日本酒も味わい深く 炭酸以外は飲むように
後に渡ったカナダで ビールの美味しさに目覚める

ラオスのビールは水より安く いつでも傍にあり
夕刻にはビアラオを求め 人々が店先に押し寄せる
朝や昼に見かけることも 間々あったけれど
宴会ともなれば クジラのように呑み
グラスを置けば 瞬時に野次が飛ぶ
終わりなき飲み方 ステージの前だから
飲酒は控えていると断ろうと まず飲みたまえ
話はそれからだと 意に介さぬ姿勢も常
飲んで歌って踊ってと 愉しい宴は止まぬのだ
ラオラーオという蒸留酒 薬草酒に皆で竹ストローを差して愉しむ壷酒も

次に暮らした徳之島 奄美群島は日本で唯一の
黒糖焼酎の生産地 島々にある蔵元
たそがれの港や町角 庭先に呑み屋
船上にあろうと 船酔い止めにと飲み語らう
どこもかしこも酒豪揃いで 気持ちのいい飲みっぷり
飲めど崩れぬその姿に 何度驚かされたことだろう
唄い踊りと盛り上がり 夜はにぎやかに更く
シマの宵は 黒糖焼酎抜きに語れぬ
ライムを絞り入れた 爽やかな喉越しに杯を重ねれば
幸せに酔い 島人(シマッチュ)の温もりを肌で感じる
島魚に豚肉 野菜も盛り沢山の島料理は
滋味深く沁み渡って 腹八分以上になることもしばしば
どちらの地でも 乾杯の音頭は果てしない

ベジタリアンに出会うようになり 体質的に飲めない人や
選択的に飲まない人にも出会った 土地の影響も大きいか
飲むことが当たり前だったが 飲まない選択にも徐々に慣れ
男性に混じり 同じように飲んできた身を振り返った
そもそもの分解力が異なるのだから もう無理をする必要もないのではと
カナダにいた頃 ヨガを教えている人が
お酒は飲まないのと きっぱり言い切っていたことを思い出した
飲んで尚 うつくしいひとはいない
というのが彼女の主張 娯楽の少ない田舎の出で
飲酒や喫煙 妊娠の若年化を憂えていた
飲むと声は大きくなり ふるまいもやや粗野に傾くことも
摂取反応は避けられまい 無論本人が楽しんでいれば口を挟むことではない

   “酔っ払いと恋をしている人間には
    守護神(まもりがみ)がついている”
            ―――『三銃士』

その通りと頷くが もはや神も助けぬ酔いっぷり
路上や公園で寝る齢でもなく ひとりしゃきりと家まで帰りたい
ヱビスをほんのひとくち 素敵なバーでカクテルを一杯
空間と少量の美酒に 充分酔い満たされるように

   ”わがダイキリはフロリディータにて、
    わがモヒートはボデギータにて”
        ―――E・ヘミングウェイ

体質の変化か 飲酒に温泉
ランなどの運動はじめ 体温が上がるものが苦手になり
代替はお水、白湯、ハーブティー、紅茶 そして海
体を動かすのは好きで 踊り続けているが
長距離を走っていると 体が火照り汗のせいか痒く
直後に入浴が出来る環境では 続けられた
お水もお白湯も美味しい 育てたハーブは最高
海は世界中に広がり つながっている
いつでも心身の浄化を促し クリアな状態に導きゆく
年初に自然食のカフェで お冷やの代わりに運ばれてきた湯気の立つ白湯
冷えた身体にぢんわり染みわたる 温かさを知る人よ

お酒は大抵 身体を冷やす
アーユルヴェーダでは お酒と煙草は
オージャス(生命エネルギー)を 破壊する存在
飲み放題メニューに頼みたいものがなく 場を愉しむことに意識を向ける
そういう場はできるだけ回避し 整然とした
簡素な暮らしを志向するように 場に応じた臨機応変さや
必要最小限の機会に止めてもいいのかなと 思い始めている


Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛