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サッカー構造戦記GOAT(ゲームモデル編) 第4話

サッカー構造戦記GOAT(ゲームモデル編)第3話の続きです。
少し書き溜めたものがあるので、投稿していきます。
一応、「ゲームモデル編」は終わりまで書き続ける予定です。

尚、第4話以降は、随時、修正を繰り返すと思いますので、ご了承ください。


第4話:チームミーティング


2016年6月3日 第二職員室 放課後16:00 日本晴れが続く:

ベップ「モウリーニョは〈ゲームモデル〉について何と言っていましたか?」

レオンはネットで調べたことを話し、彼は敬服した。

ベップ「そうですかぁ。モウリーニョはそんなふうに….」

昨日から始まったベップによる〈ゲームモデル〉の講義は7月1日まで続いた。

そして…

ベップ「よく頑張りました。後はサッカー部で実戦することによって、さらに深く〈ゲームモデル〉を理解すると思います」

レオン「ありがとうございました」

ベップ「質問があったら、いつでも来ていいですよ」


2016年7月4日 視聴覚教室 15:45 暑い放課後:チームミーティング

レオンは黒板の横のパイプ椅子に、銀髪で目が緑色の少年と隣り合わせに座っている。

部員が2人のことについてガヤガヤと話をしている。
江川先生が壇上に立つと「シーンっ」と静まり返った。

江川「ミーティングを始める。全員いるか?」

前列の端っこの席で斜めに座っている、大柄で色黒、精悍な顔つきで短髪の斎藤武蔵2年生が言う。

武蔵「まだ優牙(ゆうが)が来ていません」

視聴覚教室の重いドアが開く、ドタドタドタッ
七条優牙2年生「すいませーん!」

大柄で長髪をオールバックにしている優牙が体を横に揺さぶりながら走って入ってきて、一番後ろの席に座る。

武蔵「遅えよ! お前いつも遅刻だろ!」

優牙「まあまあ武蔵 そう怒るなって、こっちは女の子とデートの約束で時間食ったんだよ」

武蔵「お前なめてんのか! こらぁ」
武蔵が興奮して立ち上がる。

不老「武蔵! 座れ! 優牙のことは気にするな」
新キャプテン不老理人(りひと)2年生。彼は背が高く、誰からも好かれる美少年で学校の人気者。学業は学年トップクラス、サッカーとの文武両道を体現する生徒。サッカーの強豪校からの推薦を蹴って、アンビに入学した。

武蔵「ああ。何が女だ!」

不老「優牙はもっと前に座ってミーティングに参加してくれ」

優牙「はい、キャプテン。やっぱり理人は話がわかる!」

武蔵は優牙を睨み「ちっ」

優牙「今日のお題は、この2人、ですか?」

優牙は前に出て、レオンともう一人を指差す。
優牙「おお! よく見ると一人はかっわいい、もう一人は銀髪の貴公子ってとこか」

江川「全員揃ったな。ここにいる1年生の神童レオンは、これから君たちのコーチに就任する。もう一人の1年生の佐々木賢人(けんと)は、試合分析を担当する。そして我がサッカー部は全国大会出場を目指す!」

回想1
2016年6月1日 体育教官室 江川とレオンの対話:

江川「なんで入部することにしたんだ」

レオンはキラリと光り輝く眼差しを江川に向けた。

レオン「私、勝ちたいんです! それで先生の全国を目指すという言葉に共感して、サッカー部に入部しました。よろしくお願いします」
回想1終わり


部員「あの子がコーチ!? 女子が俺らにサッカー教えられるの? 銀髪のやつはこの学校にいたか? どこかで見たことあるぞ。全国目指すって、この学校、全道大会出場だってここ10年で一度しかないぞ!」

江川「レオン、これからのサッカー部の方針を話してくれ!」

レオン「はい」

レオンは勢いよく立ち上がり、教壇に上がって部員の前に立った。

レオンが話そうとした瞬間、佐々木賢人が教壇に上がってくる。彼はレオンと同じぐらいの身長だった。

佐々木「江川先生、おそらくレオンの話が長くなると思うので、僕が先に自己紹介してもいいですか?」

レオンはあっけにとられてキョトンとしている。

江川「じゃ、君が先に話せ!」

佐々木「ありがとうございます」

レオンは脇に避けた。

レオンM:(なんなの私が先だったのに。彼も1年生だよね。ああ、もしかして、私と同じクラス!? そう言えば、誰も座っていない机が…確か。それにしても初対面で私の名前を呼び捨てにして、無礼な奴!)


佐々木「名前は佐々木賢人。できれば、サッキと呼んでください。僕の夢はヨーロッパのプロサッカークラブで監督になることです」

部員「サッキ!? 監督だってよ。ヨーロッパで!? 大きく出たな! はははっ」

サッキ「… 僕はサッカーをプレーしたことがありません。だけど、おそらくこのサッカー部の誰よりも世界のサッカーに詳しいと思います」

優牙「面白い!! 俺こう言うの好き!」

不老「黙って最後まで聞け!」

優牙「おっ 悪い」

サッキ「僕は日夜世界のサッカーの試合を見て分析をしています。僕が監督ならこの試合はどう戦おうかと戦略を練るのが大好きです。きっと皆さんのお役に立てると思います」

サッキはそう言って、教壇を降りようとした時、キャプテンの不老が質問をした。

不老「なんで、サッキと呼んで欲しいのかな?」

部員がざわついた。

サッキは教壇の中央に戻り、不老の方を見て話した。

サッキ「僕はイタリアの名将アリゴ・サッキを崇拝しています。彼はプロサッカー選手の経験がないにも関わらず、プロチームの監督になり、ゾーンプレッシングという戦術を生み出してACミランでクラブ世界一になった。その後イタリア代表の監督としてW杯の決勝に進出しました」

不老「アリゴ・サッキかっ」

優牙「その….ドイツの皇帝!? ってそんなに凄いの?」

優牙の発言を聞いてミューラーがすくっと立ち上がった。

ミューラー「ドイツの皇帝はフランツ・ベッケンバウアーです。アリゴ・サッキはイタリア人なので。ちなみに、ベッケンバウアーは選手としてチャンピオンズカップを3連覇し、クラブ世界一にもなっています」

優牙「ベッケンバウアー!?」

ミューラー「そうです。そして、ベッケンバウアーは選手と監督の両方でW杯を制覇しています」

ミューラーは誇らしげに話した。

優牙「ふーん。お前詳しいなぁ」


サッキ「アッ」
サッキは手を上げた。

サッキ「言い忘れましたが、サッキは佐々木の苗字をもじったものです」

部員「それは…みんな…わかってるよ」

腕組みをして黙って話を聞いていた武蔵が話し出した。

武蔵「俺は、サッカーをプレーしたことない奴が、サッカーがわかるとは思わない。試合をTVで観るのと、実際に試合に出て、相手と闘ってプレーをするのは大違い。サッカーをしたことない奴の意見は所詮、机上の空論」

不老「そんなことはないと思う。サッカーをしたことがなくても、監督やコーチで優秀な人はいる」

武蔵「イタリアの名将だかなんだか知らないが、それは少ない成功例の一つに過ぎないと思うぜ! まあ、サッカー部に入るのは否定しない。入るのは自由だ。ただ信頼はしない、それだけだ」

サッキは武蔵の意見にすぐに反応した。

サッキ「このようなことわざがあります。〈騎手になるために、馬に生まれる必要はない(アリゴ・サッキ)〉」

武蔵がバンっと立ち上がった。
武蔵「なんだと、俺たちが馬だっていうのか? 調子に乗るなよ。こら!」

不老が武蔵をたしなめる。
不老「僕は的確な表現だと思う」


江川は楽しそうに、このやり取りを見ている。

レオンM:(何!? この部活、いつもこんななの!?)

サッキは顔色一つ変えずに話す。

サッキ「いいえ、あなたは馬ではありません。ことわざをサッカーに置き換えると、監督になるために、選手の経験は必要ないという意味で使いました」

武蔵「ああ、わかってるよ、そんなことは。お前のその話し方が気に食わないだけだ」

武蔵は低い声で落ち着いて答えた。

サッキ「みなさん、僕はこのように思ったことはズバッと言ってしまう性格です。そのせいで迷惑をかけるかもしれません」

江川が話し出した。
江川「まあ、こういう生徒だ。わかっただろう。彼はほとんど図書館で勉強をしている。そのうちクラスにも顔を出すと思うが、部員として迎えてやってくれ!」

江川はそう言うと、レオンの方を見た。

江川「はい、次、レオン よろしく!」

教壇に上がり、正面を向くレオン
レオン「神童レオンです。サッカー部のコーチとして入部しました。マネージャーもかねています」

部員は静かにレオンの話を聞いている。

レオンは恥ずかしそうに
レオン「… 一応、中2まではサッカーをしていました。全国大会出場を目指して頑張りますので、よろしくお願いします」

レオンは深く頭を下げた。

武蔵「俺は女からサッカーを学ぶ気はねえ」と吐き捨てるように言った。

優牙「俺は大歓迎だよ。部活楽しみになってきた」

武蔵「その前に、お前は練習でろ!」

優牙「痛いところを疲れた。ハハ」

2人の意見を聞いていた不老は
不老「先生、なぜ、彼女が僕らのコーチなんですか? それほど優秀だと言うことなのですか?」

頭に両手を乗っけて窓を見ていた江川先生は、そのままの姿勢で答えた。
江川「優秀も何も、レオンは女子の元U15日本代表だ」

そう言って江川は携帯を取り出し、何やら検索し出した。

江川「あった。これだ。ヨハン・クライフの再来は女の子!? 神童レオン14歳!。ほら、こうやって記事にもなっている」

江川はそういうと携帯の画面を選手の方へ向けた。

部員「すげー、元U15日本代表、なんでうちの学校に来たの!? もっとサッカー強い所に入れたろうに。それより何でサッカーしてないの?」

レオンは隠れたくなるような心境で、顔を赤らめた。

紫「理由はこれだ!」

サッカー部1年の星野紫(むらさき)が携帯で検索した記事を読み出した。彼はこじんまりした身体に、髪の毛は盛り上がり軽くウェーブがかかっていた。頭の回転は早そうだが、少しナイーブで色白な顔に澄んだ目をしていた。

紫「神童レオンはわがままな選手で、私の指示に従わなく、チームの和を乱す存在でした。何回も彼女と話し合ったのですが。彼女自身も、これ以上チームにいると他の選手に迷惑がかかると考え、自ら退部を申し出ました。残念です。(上倉監督談)」

部員「えーそうなの? がっかり、そんな子には見えなかったのに。中身と外見は違うのだ。女は恐ろしい。騙されるなよ。でっ 俺たちのコーチ!?」

レオンはうつむいた。
レオン「違う...」

レオンは小さな声で呟き、両手拳を強く握り締め、小さくブルブル震えていた。

それを見た江川は立ち上がった。

江川「そういう記事もある。でもそこにレオンの言い分が書かれていない。物事のある一面だけをみて、それを信じる人が多い。本当かどうか自分の目で確かめることが必要な時代だ。俺は、レオンを信頼している」

レオンはハッとして、顔を上げた。

江川「きっとレオンにも、それなりの部を辞めた理由があるはずだ。だが、今それを話すときではない。今日は〈ゲームモデル〉を学ぶために集まった。よし! レオン始めてくれ!」

彼女は一瞬ぼーっと何かを考えていたようだが、

レオン「はい」と歯切れの良い返事をした。

プロジェクターの準備をして持ってきたパソコンの電源を入れた。レオンが最初にスクリーンに映したのは、ベップからもらったA4用紙をPDF化したものだった。

レオン「これが〈ゲームモデル〉です」

サッカー部一同、スクリーンに釘付けになる。「シーンっ」

不老「これはまさしくサッカーだね。面白いよ。攻撃と守備の下の〈4つのモーメント〉は、ゲームの状況をサイクルで表したものだ。これはみんな知っているはずだ」

不老は立ち上がった。

不老「サッカーの試合を想像して、ボールを保持しているときは〈組織的攻撃〉、ボールを失うと〈守備への切り替え〉、この時カウンタープレッシングを仕掛けてボールを取り戻す。ここででボールを取り戻すことができなかったら、守備ブロックを築いて〈組織的守備〉だ。ボールを取り戻したらカウンターアタック! これが〈攻撃への切り替え〉。もし、カウンターアタックができなければ、ボールを保持して攻撃を再構築する。その後〈組織的攻撃〉に入る。これは遅攻のことだと思う。これがサッカーの〈4つのモーメント〉のサイクルだ。

レオン、ここまではみんなわかったと思う、次が難しそうだね」

カウンタープレッシング:チームがボールを失った瞬間、即座にボールを取り返そうとする戦術。ゲーゲン・プレッシングともいう。


レオン「補足ありがとうございます」

レオンM:(さすがキャプテン。説明能力が私とは…)

紫が質問する。
紫「どこからが〈守備への切り替え〉で、どこからが〈組織的守備〉?」

みんなが一斉にレオンに注目する。

レオン「そ、それは…」

サッキがレオンの発言をさえぎるように話し出した。

サッキ「グアルディオラのチームは、ボールを失って5秒間は、ボールに近い3、4人でカウンタープレッシングを行い、5秒以内にボールを取れなかったら守備組織を構築して〈組織的守備〉をするそうです」

レオンがサッキに鋭い目を向け、すぐに話し出した。

レオン「これはチームの〈ゲームモデル〉に関係するのですが、ボールを失った瞬間の5秒間のカウンタープレッシングが〈守備への切り替え〉にあたります。5秒以内にボールを取り戻せない場合は〈組織的守備〉に移行する。時間で区切る方法です。」

紫「時間によって変わるんだね」

不老「それはアンビだったら、〈組織的守備〉を4-2-3-1システムに組織してから守備をするという意味でいいのかな!?」

レオン「はい、そう言うことになります」

レオンM:(ベップ先生から学んだはずなのに、キャプテンやサッキに助けてもらってばかりだぁ)

紫「と言うことは、〈攻撃への切り替え〉の時も、ボールを取って5秒以内にカウンターアタックが出来なかったら〈組織的攻撃〉に移行するってこと?」

レオンが答えようとする前にまたサッキが話し始めた。

サッキ「5秒以内にカウンターアタックができないのは、ボールを取り戻した瞬間、相手のカウンタープレッシングが激しいか、前方に相手の数的優位があり守備が組織され相手DFラインの背後にスペースがない場合のどちらか。そのような時は20本パスをつないで〈組織的攻撃〉に移行します」

武蔵「20本つなげると思うか!? 俺らのサッカーはボール奪って2、3本のパスでゴールするんだ。それは机上の空論だ!」

レオンM:(20本のパスは難しいよね、さすがに。そうだ!)

レオン「20本ではなく、5本パスをつないでから〈組織的攻撃〉を開始するのはどうでしょう? これならアンビの〈ゲームモデル〉に入れることができるのではないかと」

優牙「20本でも、5本でも、パスをつなぐ意図は?」

レオン「ボールを取り戻して、パスをつなぐと選手が自分の配置につく時間を確保することができます。多くのパス交換をすることで、選手の配置がより良くなるんです」

優牙「なんかできたらかっこいいね」

武蔵「俺にはうちのチームがパスをつなぐことができるとは思えねぇ」

この「攻守の切り替えの5秒間と5本のパスルール」は、不老の先導のもと、即決で部の〈ゲームモデル〉に取り入れられた。

レオンは不老のそのキャプテンシーに感心していた。

レオン「不老キャプテンありがとうございました」

不老「理人でいいよ」

優牙「理人でいいよって、かっこいい!レオンちゃんが惚れちゃうぞ! 気をつけてね。理人は女がいっぱいいるから騙されないようにね」

不老「優牙、嘘はいけない」

優牙「まあ、少し盛ったかな、ハハ」

レオンは引きつった笑顔で、更に詳細に〈ゲームモデル〉を説明した。

レオン「次に行きますね。〈4つのモーメント〉の下に〈13の行動〉というのがあります。これは….」

ここからレオンは一時間話し続けた。

サッカー部のみんなは、最初しっかりと聞いていたが、寝るものが続出。江川監督もいびきをかいて寝ていた。レオンは汗びっしょりかいている

レオン「そこで最後に、チームの〈プレースタイル〉を決める必要があります。これがないと〈ゲームモデル〉の方向性が決まりません」

レオンが大声で話すと、みんなはパンと起きた。

優牙「それって、日本食にするか、中華、それともフレンチ、イタリアンにするみたいなものだろ?」

レオンはキレ気味に

レオン「少し違いますが、だいたいあっています。大まかに3つのプレースタイルがあります。一つ目は〈ポゼッション型〉、二つ目は〈縦に速い攻撃型〉、三つ目は〈臨機応変型〉、三つ目は相手によってプレースタイルを変えることを意味しています」

紫「俺は〈ポゼッション型〉がいいです。自分のプレースタイルに合っているんで。札幌FA(中学時のクラブ)でもそうでした」

紫N:(自分がレギュラーになるには、〈縦に速い攻撃型〉は足が遅いから無理だ。〈ポゼッション型〉なら、俺の才能を活かせる)

回想2
紫の回想:2015年の暑い夏 札幌FA時代(紫は中3)

紫「なんで俺は先発で出られなくなったの?」

監督「何でって、わからないか? 紫、お前は足が遅い。フィジカルが弱い。スタミナも劣る。背も低い。FWなら縦に抜けるスピード、相手を振り切るスピードが欲しいんだ。純粋なスピードがな。」

紫「でも俺は、シュートは上手いし技術も高い」

監督「確かにな。でも周りを見ろ。みんな体が大きくなって、スピードがついた。だがお前は小さいままだ。うちはポゼッションが売りだが、縦に速い攻撃をもっと取り入れていきたいんだ。空中戦も弱いだろ。中3のフィジカルレベルにないのが、先発になれない原因だ。可哀想だけどな」
回想2終わり

ミューラー「俺はドリブルができればいいので、〈ポゼッション型〉がいいです」

蒼介「バカだな、お前、〈ポセッション型〉ってパスをつなぐんだぞ。俺は縦に速い攻撃派だ。今までのうちの試合見ていたらわかるだろ。得点になるときはほとんどカウンターだぜ」

不老「蒼介、人の意見を否定したらダメだ」

蒼介「ああ、そうだった。すいません」

不老は笑顔で「次から気をつけて」

スポーツ刈りで色黒、筋肉ムキムキで真面目そうな顔をしているリフティングマンと呼ばれる坂木はボールを足で転がしながら
坂木「俺はボールにいっぱい触っていたいから、〈ポゼッション型〉がいいな」

武蔵「お前はリフティングしかしねえから、使えねえんだよ」

不老「武蔵! ミーティングは個人攻撃をする場ではない。意見を尊重しろ!」

武蔵「俺は分からねえんだ。あれだけリフティングがうまいのに、試合じゃぜんぜんだろ!」

下を向く坂木。

不老「今、その話をする時間ではない。武蔵! お前の意見を聞かせてくれ!」

武蔵「俺にすぐにボールが集まる方がいいし、足が速いからスペースが前にあった方がいいんだよな。やっぱり〈縦に速い攻撃型〉!」

優牙「俺はね、ボールつなぎたいのよ。奪ったボールをただ前に蹴るだけなんてホントつまらん。あれはサッカーじゃないな、俺に言わせると。だから〈ポゼッション型〉!」

武蔵「優牙、甘いんだよ。サッカーは勝つためにやるんだぞ。お前の個人的な楽しみのためじゃない」

優牙「おれは全国も行きたいけど、どうせなら試合を楽しみたいわけよ。まあ、いいよ。どうせ多数決だろ」

不老「田丸、GKの意見を聞かせてくれ?」

不老はそう言うと後ろの坊主頭が伸びた髪型でガッチリした体格の田丸を見た。

田丸「GKとしてはどれでもいい。フィールドプレーヤーが良いと思うのでいいよ」

急に江川が話し出した。

江川「それは違うなぁ、田丸。このサッカー部に上下関係がないのは、自主自律のためだ。自分の意見を持ち、自ら行動できるような人間じゃないとサッカーもできないし、社会でも通用しない」

田丸「はい、それは重々承知していますが、GKにとって〈プレースタイル〉はあまり関係がないかと思うので、フィールドの選手が良いと思うのでいいかと…」

江川「戦争に行け、って言われて、お前は行くことになるタイプだぞ」

田丸「戦争はさすがに…」

江川「自分の考えを持たず他人の意見に従ってばかりいると社会人になったとき、何がよくて何が悪いのか判断できなくなる」

田丸「はい、すいません」

江川「謝ることはない。田丸、どうしてサッカー部のミーティングでは、人の発言を肯定や否定をしてはいけないか言ってみろ!」

田丸「自分の考えを言語化して、仲間と共有して共通点を探すためです。そして、ええと…」

不老「自分の心の中を見つめ直すことで、自分自身を客観的に見ることができるようになっていく。そしてお互いの意見を出し合うことで仲間になる。互いに助言し合うようになる。仲間の横のつながりができる。上下関係ではなく」

田丸「そうだ。それだ!」

江川「サッカーはその場その場で意思決定を下すスポーツだろ!」

田丸「すいません。先生。もう少し〈プレースタイル〉を考えます」

江川「人間は一人一人異なるから、異なる意見があるのは当然。突拍子もないアイディアは却下されたり、激しい論戦になることもある。しかしだ。それがきっかけとなり解決策へと導くこともある。多様性だ。多様な意見から良いものが出てくる」

不老はヒューゴを見た。

不老「これからGKの練習をするヒューゴはどう思う?」

ヒューゴは最近フィールドプレーヤーからGKにコンバートされた。
持久力がなく、技術も低いが、ボールを怖がらないで前に出る勇気があったからだ。そして何より、身長が急激に伸びて180cmになったことでGKが向いていると、彼も乗り気だった。

ヒューゴ「ずっと考えていたのですが、俺はパスが下手です。だから〈ポゼッション型〉だと、俺がミスして失点する可能性があるので、できれば〈縦に速い攻撃型〉がいいです」

田丸はうんうんと頷いた。

田丸「俺も、〈ポゼッション型〉だと足下の技術が上手くないので嫌です。〈縦に速い攻撃型〉の方が、リスクが少ないのでいいと思います」

部員がそれぞれの意見を述べていった。

後ろの端っこの方で、両手で机を叩きながら、足をリズムよくふみ鳴らしエアドラムをしている色の黒いドレッドヘアの1年生、丸間がいた。

不老「丸間、君はどう思う?」

手と足が止まり、顔を上げた。アジア人と黒人がミックスされた、まだあどけなさが残る顔だった。

丸間「俺!?」

不老「そうだ。君だ」

丸間「ええと、ですね。部の多数が言っている、〈縦に速い攻撃型〉で良いと思います」

不老「今までの話を聞いていたか? その答えはダメだ。君の意見を聞きたい」

丸間「俺のですか!?」

丸間は額に汗を掻き、困った表情になった。
丸間「僕はどちらかと言うと、〈ポゼッション型〉の方がリズムが合うというか、みんなでボールつないで楽しいと思います。だから、〈ポゼッション型〉がいいです」

不老「わかった」

不老「これで全員だね。圧倒的に〈縦に速い攻撃型〉が多い。僕は、〈ポゼッション型〉が良いが、対戦相手とうちの実力、うちの選手が得意とするプレーを考慮に入れると、〈縦に速い攻撃型〉が適していると思う」

江川「よし、決まったか。まあそうだろうな。カウンターアタックの得意なチームが急にポゼッションなんてできないと言うことか」

不老「そうだ。レオンとサッキはプレースタイルについてどう思う?」

レオンはきっぱりと答えた。

レオン「私は、現実的な選択肢として〈臨機応変型〉が良いかと思いました。相手によって、スタイルを変えるチームじゃないと試合に勝っていけないと思うので」

不老「まあ、両方できることに越したことはないし、相手によってスタイルを変えるのも重要なんだが...」

サッキ「僕は、皆さんが己のプレーの特徴を知っていて〈縦に速い攻撃型〉が選ばれたと思っているので、そのプレースタイルの中で勝つ方法を考えます」

不老「そうか。ありがとうサッキ」

武蔵「いちいち、かんにさわるやつだぜ」

不老「みんなの意見を集約すると、今シーズンは、〈縦に速い攻撃型〉を軸とする。〈ポゼッション型〉は来年に向けての課題とする」

不老「レオン、〈臨機応変型〉はできれば最高だ。でもそうなるとポゼッションの練習も始めなければならない。進学校は練習時間も日数も限られている」

武蔵「先生、週5日の活動じゃなくて、6日にしませんか? そうしないとやっぱり勝てないと思います」

江川「前にも言ったが、プロでもない選手が土日両方とも部活というのはよくない。人間はサッカーだけじゃなくて、家族や友達と過ごす時間も大事だ。それに学業もな武蔵」

武蔵「はい、まあそうなんですけどね!」

江川「サッカー漬けの選手は、サッカー以外の趣味を持たないのが多くて、引退後困ることになる。今、サッカーは君らの人生で大きな部分を占めるかもしれないが、人生はサッカーだけで生きていけるほど甘いものではない」

武蔵「先生には敵わないです」

武蔵はそうと言うと頭を掻いた。

江川「そうだ。日曜日、試合、練習試合な。相手はお隣の北栄Bチームだ」

部員「ええ、全国出場チームじゃん、マジで、Bとはいえなぁ。俺はAと試合がしたかったなぁ」

優牙「北栄かぁ~ 嫌だな。地下鉄で毎日会うんだよなぁ。あいつら全国行ったからってカッコつけている! そこが鼻に着く。お前らとは違うという目で俺らを見る」

回想2
レオンは北栄と聞いて、父が北海道に行くのだからと、お正月の全国高校サッカー選手権大会をテレビで観たことを思い出した。
回想2終わり

レオンM:(北栄….黄色のユニフォームだったかなぁ)

不老「相手はBチームとはいえ強敵だ。〈プレースタイル〉も決まったことだし、レオンとサッキの強力な部員を得て、〈ゲームモデル〉作りをして、来年は全国を目指す。今年はそのためのベースを作るときだ。明日からみんな頑張るぞ!」

サッカー部員「よーっし!頑張るぞ。なんか力が湧いてきぞ!」

レオンは意気上がるサッカー部を頼もしいと思った。

横にいるサッキは、北栄高校の選手権の動画を観ていた。

レオン「はやっ、もう相手を分析しているの?」

サッキ「それが僕の役割で好きなことだから」

レオン「サッキってもしかして私と同じE組?」

サッキ「そうだね。でも僕は図書室の方がいい。その方が勉強に集中できる」

レオン「ふーん、そうなんだね。それはそうと、私が話そうとするとき横から入ってこないでよね!」

サッキ「そんなことしたっけ!?」

チームミーティングが終わり、みんなが視聴覚教室から出ようとすると、女の子が通路の壁に寄りかかって携帯を触っていた。

それはサッカー部のマネージャー比嘉(ひが)雪2年生だった。キリッとした顔立ちの美人でスラリと伸びた手足に日に焼けた肌。茶髪の長いまっすぐな髪。制服をルーズに着て、ミニスカート、今風の女の子だ。背は162、3cmくらいだった。

雪はレオンを見つけ、睨みつける。

部員が「怖いな~」と小声で話す。

雪「あんたが、新しいマネージャー?」
雪は低い声でレオンに話しかけた。

【アンビのゲームモデルの進度1】
プレースタイル:縦に速い攻撃
配置:4-2-3-1

組織的攻撃
行動1 ?
行動2 ?
行動3 ?
行動4 ?

攻守の切り替え:5秒と5本のパスルール
攻撃への切り替え
行動5カウンターアタック:ボールを取り戻したら5秒以内にカウンターアタック
行動6攻撃への再構築:5秒以内にカウンターアタックができない場合はパスを5本以上つないで攻撃を再組織化する。

組織的守備
行動7 ?
行動8 ?
行動9 ?
行動10 ?

守備への切り替え
行動11 プレッシング:ボールを失った瞬間、5秒間プレッシング(5秒以内にボールを取り戻すことができない場合は、組織的守備へ移行する。)
行動12 ?
行動13 ?



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