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自由研究とは戦争である。(後編)

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⑤あと2日

次の日、いつものように起床してリビングへ行ってみると、
相変わらずうつむいてしょぼくれてる息子がいた。
昨日怒ったのがまだ尾を引いているのは一目瞭然だった。
彼は一度落ち込むと切り替えて立ち直るのに割と時間がかかる子なのだが、
あと2日で学校が始まってしまうことを考えると、あまりそっとしておくこともできない。
とにかく話を聞いてみないことには始まらないので、様子を見つつ聞き出していこう。
「昨日はなに?どうしちゃったの?そんなにめかぶがイヤだった?」
なるべく優しく怒っていない言い方で静かに話すことを心がける。
夫から私はいつも怒っているような言い方が多いと言われることがあって、最近は気をつけるようにしている。自分では全くそんなつもりはないのだけど、誤解されるのは避けなければいけない。
まずは息子を怯えさせないようにしなくては。
聞いてから数分。しばらく黙っていた息子であったが、ようやくぽつりぽつりと話しだした。
「作ってて失敗しちゃって…夕食に嫌いなものがでたから…」
「八つ当たりしちゃった?」
うん、とうなずく息子。言葉がうまくでないから、自分から少しでも話してもらうように誘導してみる。
「自分でやったけどうまくいかなくなった」
そうして、息子は机の上に置いてあったビニール袋を取り出して、
中身を広げて見せ始めた。
「これ…」
そこにあったのは導線が極端に短くなった豆電球であった。
電池のソケットも同じようにほとんど導線がないレベルまで短くなっている。
ええ…ちょっとそんなんじゃ電球がつかないだべよ…
息子には申し訳ないのだが、本当にちょっと信じられないものを見たような、後頭部を殴られたような衝撃のあまり、私はしばらく声がでず呆然と部品を見つめた。
しかし子供のやることは本当に大人の想像を簡単に越えていくなあ…。
こんなのほんとに見たことない。どうするんだこれ。

「だからお父さんと一緒にやりなさいってあれだけ言ったのに…」
私がやっと発せた一言で、息子は再び下を向いてメソメソし始めてしまった。あああ、まずい、泣かす気はないんだ、泣かす気は。
「お父さんまてばよかった…できるとおもったのに」
根気よく話を聞き続けてみたのだが、自分で何でもできる気分になって調子に乗って切ってしまい、組み立てる段階になってから導線が短すぎて電池と電球を繋げることができなくなったことに初めて気がついた、ということらしい。
普通そこまで切ったら無理なのはわかりそうなもんだけど…わかんなかったんだろうなあ…。ツッコミどころ満載とはこういう事を言うんだな。うん。

失敗するのは誰でもあることだから仕方ないにしても、
あと2日で夏休みが終わってしまうことを息子はわかっているのだろうか。
実験や製作だけじゃなく、まとめまで終わらせなきゃいけないのに時間がなさすぎる。
こうなったらもうあれだ、有無を言わさずテーマをこっちが決めて、とにかくやってもらうしか、ない。


⑥怒涛の最終決戦

これ以上息子に自主的にやらせようとすると、それだけで夏休みが終わってしまうので口出しせざるを得なかったのだが、今思うとこれもあまりいい手段ではなかったかもしれない。でもそこまで考えている余裕が私にもなかった。
さて、1~2日でまとめるまで簡単にできるような自由研究のテーマ…。

私が選んだのはアイスキャンデー作り。材料を変えて数種類つくり、それぞれ凍るまでの時間の変化を測定する、という夏休み定番中の定番テーマである。
道具なんて今の時代ならたいてい100円ショップで揃うだろうし、今から買いに行けば間に合う!
「よし、今から買いに行くよ!」
私は息子に必要な材料のメモをまず作らせた。私が何でもやってあげてしまっては意味がないので、できるだけ息子にやらせる方向で指導してかなければ。
私は息子を自分の自転車の後ろに乗せて、近所のスーパーまで急いで向かった。ここには100円均一ショップがテナントで入ってるので全部揃うはず!

ところが。
「お母さんメモわすれた…」
100円ショップで、店内のかごを持ってさあ探そうとはりきっていた私に突如このセリフである。
えええ、ちょっとなんでえ!??
メモをかばんに入れたつもりが入ってない、と。そんなバカな。
予想外の展開に白目をむきそうになった。
うーん漫画かネタのような話って本当に起こるんだな。いやいや、感心している場合ではない。
「ちょっとあんた自分の自由研究でしょー!時間ないんだからしっかりしなさいよ…」
「ごめんなさい…」
そしてまたうつむいて泣きそうになる息子。ここで泣くのやめて。お願いだから。
私は無言で店内のかごをもとに戻したあと、息子を半ば引きずるようにしてスーパーを出た。時間がないのもあって家まで爆走する。
朝からヘロヘロだが、明日、自由研究をまとめまで完成させるには今限界まで動くしかない。
家に帰宅してみると、果たしてメモは息子の机の上に置いてあった。
かばんの中入れてないやん!!
この忘れグセはADHDの特性なので叱ってもどうにもならないのだが、この緊急時に発動させないでほしかった。忘れるのはいいけど理由もごまかしたりしないでほしい…。
息子に任せるとまた忘れられそうな気がしたので、メモを自分で持って再び息子を連れてスーパーへ。
ああ、この行って帰ってまた行くこの30分の時間がどれだけ貴重なことか…。

さすがに2回めにもなると、息子も一緒になって探してくれたりして買い物はスムーズに進んだ。野菜ジュースとか、オレンジジュースなど色々購入。
ただ作るだけじゃ面白くないので、キウイなども買ってみた。アイスキャンデーの中に混ぜてみて、どうなるか観察してみるのだ。
どうせやるなら自分も一緒に楽しんでやらなくてはもったいない。
1日あれば観測も終わるので、あとは息子にまとめさせればよい。

簡単な自由研究だし、これが失敗することはないだろうと鷹をくくってしまったのが間違いのもとだった事に気づいたのは数時間後のことであった。



⑦自由研究とは親にとっても戦争である。


結論から先に言ってしまうと、息子はアイスキャンデーの自由研究も失敗してしまった。
大きな理由として一つ。
時間がないからと、私が率先して作業をして動いたためにそれに甘えてしまい、時間の経過の記録を怠って、自由研究を放置して遊び呆けてしまったのである。
私だけが一生懸命やったとしても、これは息子の自由研究にはならず、私がアイスキャンデーを楽しく作っただけになってしまう。これではなんの意味もない。

この日の夜、息子はまるで他人事のような態度で研究を放置していたために私の怒りを誘発してしまい、もうこれ以上は知らんし手伝わないと叱ったのである。当然息子は大泣きして抗議してきた。いよいよ堪忍袋の緒が切れたのである。
どうして私が抗議されなければいけないのか、大体ギリギリまで宿題をしなかった自分が悪かったのではないのか、計画性がなさすぎるしお父さんやお母さんに頼りすぎだ、ということをこんこんと1時間以上言い聞かせる事態になったのである。

自由研究はこのままストップしてしまったが、考えた末に
「自由研究の失敗談」をそのままレポートにまとめる、という苦肉の策を提案。まあもうそれしかないしね…。
今回の経緯、夫もかなり呆れており、失敗談をレポートにまとめるのを監視してくれて、なんとか終わらせることはできたのである。
しかし息子がその場限りの嘘をついて何度かごまかしたりしていたためにすっかり夫からの信用をなくしてしまい、ゲームとパソコンをしばらく禁止にする、という息子にとっては悲惨な処置になってしまった。
聞くところによると、パソコン教室でもうScratch引退だ~と嘆き悲しんでいたようである。自業自得とはよく言ったもんだ。
失敗は成功の母、とよく言うし、次はこれを教訓にできるだけ自分で頑張って欲しいと願うばかりである。
全くおとなになっても自由研究に悩まされるとは思わなかったよ。


余談ではあるが新学期明けになって気が抜けたせいか、私はストレスからメニエールを再発してしまい、やっぱりしばらく寝込む羽目になったのである。来年はこんな事がありませんように…。

終わり。




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