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インド民の代表的言い訳とその対応 ①

インド民はとにかく何かにつけて「言い訳」を唱えてくる。まず、インドに着任してイライラするのはこのインド民のコミュニケーションモードである。これはインド民の自己防衛本能の一種であるが、実際に部下や取引相手として対峙した場合にはなかなか手ごわい。その結果、彼らとの議論が面倒臭くなり、適当にやり過ごし、こちらが相手の主張を飲み込んでしまった場合、インド民は、「やはり俺が正しかった」と本気で思いこむ。よって、議論や責任を有耶無耶にすることは、長期的に見れば相互に誤解を生むことになり、結果として逆恨みや約束の不履行などに繋がる。相手が部下であれば、あなたは彼や彼女をコントロールできなくなるだろう。何しろ、あなたが追求をやめれば、相手は自分が受け入れられたと考えるからである。日本人であれば、無理筋な自らの主張を理解して、心のどこかで良心の呵責が発生することを期待できるかもしれないが、インド民はそのようなことは望めない文化コンテキストの中にいる。

我々日本人が意識しなければいけないことは、それぞれの議論という、「局地戦」で勝利することであり、面倒がらずにインド民に対して指摘と戦いを挑んでいくことである。このような日々の局地戦の勝利なくして、全体の勝利はない。これはあなたがインドにおいて払わなければならないコストの一つである。我々がインド民に何かの依頼をし、それが履行されていない場合や、失敗した場合には、再度それを実行させるか、補償をさせるか、何かしらのアクションを相手にとってもらわなければならない。その際に相手の「言い訳」という防御を突破できなければ、結局はあなたやあなたの家族が損を被る。だからこそ、我々外国人はインド民が展開するこれらの特徴的な議論を粉砕し、自分の身を守る術を学んでいないといけない。それが個人の生活を守り、会社の利益を守る。

 局地戦で勝利するためには、三つの要素を持っている必要がある。一つ目は、ロジカルシンキングの基礎体力、二つ目は、その問題に関する真っ当な主張、そして三つ目が、インド民が繰り出してくる独特な戦法に関する事前知識である。一つ目と二つ目については、相手が誰であっても必要になる基本的な要素であるが、三つ目についてはインドでしばらく過ごさなければ、構造的な理解に達することができず、結果としてインド民得意の議論に巻き込まれて不利益を被ることになる。留学生や、駐在員、それに帯同する家族として、是非これらの特殊戦法を早期に理解し、自分の利益を守り、仕事や生活をスムーズに進めてほしい。以下では、代表的な特殊戦法がどのようなものなのか、一つ一つ理解し、それに対するカウンターや心構えを紹介していく。

インド民がよく展開する代表的な言い訳は主に以下のように分類される。

①   責任転嫁:Shift Responsibility
  (問題発生の原因を別の所へ持って行く)

②   相殺消去:Cancel out own fault
 (あなたの側に落ち度がある別の話題を持ち出して、おあいこを狙う)

③   話題転換 Shift to another topic
 (全く関係ないトピックを説明し始め、論点をうやむやにする)

④   因果改謬 Elaborate wrong route course
 (因果関係のないことを、さも原因・理由のかのように使う)

⑤   解決消去 Solve and Escape
 (あくまで非を認めず、問題を即解決して問題が起きていなかったことにする)


いずれの論法も建設的な議論を行うには程通い論法である。まず第一に、これらの論法の存在と名前を知っておいて、相手がそれを展開した瞬間にあなたが認知することが重要だ。今仕掛けられている論法がどのようなものか認知するだけでも、心に余裕が生まれる。具体的な論法をカテゴリーとして認知することで、彼らがそれを展開した際に、「あ、こいつはこの論法を使い始めたぞ」と理解し、「このフレーズをぶつけよう」と自分の中に答えを持っていると、議論で優位に立つことができる。あなたに理があり、真っ当なことを言っているのはこちらだという心構えを持って、インド民の自身満々の態度に臆することなく、あなたの主張を展開していく。

ここで紹介した五つの論法には共通点がある、それは、その目的が自らへの批判を回避することであり、防御に主眼を置いたものであるという点である。これはインドという環境を色濃く反映したものだ。こちらのコラムでも述べたように、インドの本質は過密と苛烈な競争であり、その中で議論に負けたりして目の前の損を被ることはどうしても避けたいという潜在的なマインドがインド民の心には深く根付いている。論争に勝利することは望ましいが、自分に落ち度がある事象に関して、負けを認めた瞬間に死と貧困が訪れるという怖さが彼らのなかにはふつふつと存在しているように見える。だからこそ五つの論法には、「自分が負けそうになった場合に、どうにか負けないようにする」という思想が反映されており、結果的に防御的なものになる。もちろん言い訳を展開した結果、信用や信頼などが損なわれて長期的に損を被るかもしれない。しかし、彼らの中ではとにかく短期利益が重要であり、その場で負けないようにすることが重要に映っている。  
 
 
ここから先は、五つの論法を一つひとつ解説していく。まずは責任転嫁: Shift Responsibility (問題発生の原因を別の所へ持って行く)、の説明とその対処法である。これはインドで非常に多く見られる言い訳の一つで、おおよそ半分以上のケースはこれに当たる。例えば次のようなケースである。
 
<<旅行代理店のエージェントに電車のチケットの予約を頼んだが、インド国鉄の予約システムが故障しており、予定していた電車のチケットの申し込みができなかった。エージェントを問い詰めたら、「国鉄の予約システムの故障のせいであり、自分たちのせいではない」と開き直った。>>
 
このケースでは、自分が約束通りチケットを予約できなかったミスを、予約システムに責任転嫁している。先方が言っていることは、「自分はしっかり仕事をしたが、予測不能のシステム障害のためにチケットが取れなったのであって、自分は悪くはない、責任はない(その補償はしかねる)。」という主張である。もちろん、このような稚拙な言い訳には幾通りもの指摘ができ、我々の常識で考えれば仕事を舐めているとしていいようがない言動だ。しかし、この程度のことは平気な顔をして言ってくると思っておいたほうがいい。

さて、この言い訳を聞いてどのようなアプローチをすればいだろうか。ここで最も重要なことは、「些末な議論や具体例に入らずにコンセプトと本来の責任を主張することに徹する」という大原則である。相手の議論に乗っかる形で、「なぜもっと前広に予約しなかったのか?」というようなやり取りを初めから行うと、ゴールは遠くなる。このような個別の論点をあなたが述べた瞬間に、相手は、この「問い」に答えることで責任を逃れることができると認識し、さらに責任転嫁の言い訳を述べてくる。インド民は解決法や予防法を考えるのは不得意だが、起こしてしまったトラブルに対する言い訳を考える際には通常の10倍くらいの瞬発力で瞬時に筋の通らない議論を次々に生み出すことができる能力を備えている。これは、どんなに教育レベルが低い肉体労働者や田舎の商人やドライバーでも持っている能力で、異常な力を発揮するので、これに巻き取られると議論の筋道が別の方向に行ってしまう。

つまり、「なぜ十分に前広に予約システムで予約を取らなかったのか。もっと前に取っていれば、システムエラーが発生する前にチケットをとれたのではないか?」と言ってしまうと、「一日前は会社の休日だったので事前に予約するのは無理だった。自分は早めにやろうと思ったが部当日にならないと上司が承認してくれなかった。エラーが発生するのはめったにないこと早めに予約する理由はなかった。」等々、彼らはいくらでもネタを見つけてきて議論を煙に巻くことができる。これに巻き取られてしまうと、いつの間にか、あなたが知りもしない旅行エージェントの社内承認プロセスを分析して本当に彼らが事前に予約手配ができなかったのかを証明するという意味不明な方向に達してしまう。

ここでやらないといけないことは、
What did I ask you? Did you complete what I asked? Yes or No.
という単純な問いを発して事実を確認することである。
そして、
If it was not done, it means that you didn’t perform what you were expected to do and your job.
という事実を認めさせることである。

責任転嫁話法の目的は責任から逃れることであるから、そこを確実にふさぎ切ることで相手の逃げ道をなくさなければならない。この問いを向けられた相手は、再びあることないこと様々な「できなかった理由」を並べるかもしれないが、本質的には、できなかった理由がなんであるかは、その仕事の達成責任から解放されたことを意味しない。あなたは同じ問いを繰り返すし、単純な事実の確認を要求すればよい。
この確認が取れたあとは、どのように相手を泳がしてもいいが、相手が責任転嫁の素振りを再度見せたら、
Whatever was behind, we confirmed the fact among each other that you didn’t perform what you needed to do.
というところに繰り返し戻ってくればよい。

少し話が脱線するが、なぜ背景や理由を丁寧に整理していくこと、インドではよくない手になってしまうのだろうか。そして、なぜ責任転嫁話法が機能しやすいのか。そこにはインド社会の不安定性がある。インドでは、事実確認という作業が途轍もなく難しいのだ。先の例を挙げるとすれば、発生したシステム障害に関してインド国鉄が丁寧にアナウンスすることなど期待できないし、それが分かりやすい形で周知されていることも期待できない。ましてや本気でシステム障害の有無を確認しようとしても、一体どこの窓口に確認したらよいかも不明で、窓口の相手がまともに取り合ってくれるかどうかも怪しい。奇跡的に誰かが相手をしてくれたとしても、本当にその相手が信用に足る情報ソースなのかも分からない。至るところでこのようなレベルで社会が運営されているため、自らのコントロール下にない事象について事実確認を突き詰めていくことが困難である。そして、合理的に推定したとしても、その推定した事実を否定する材料はいくらでもあげることができるのである。そのような社会では、とりあえず自分から攻撃を逸らすことが有効で、逸らした先の事実を詰めていっても出口は見えない。だからこそ、この責任転嫁という方法はこの国で非常に有効であり、基本的な言い訳のパターンとして、どんなレベルの人間でも頻繁かつ簡単に使用できるメソッドになっている。

さて、相手に責任の存在を認めさせた後には、あたなも建設的な議論に戻ってきてもよいだろう。もし相手が部下であれば、どのようにすればトラブルを防げたか自分で考えさせたり、あなたからそれを教えたりする通常のコミュニケーションモードに戻ればよい。これだけ必死で言い訳をするインド民であるが、仕事という面においては、実は上司のFBを求めている。インド民の古典的なリーダーシップスタイルが、日本でいえばパワハラ的な主人が奴隷を使うようなやりかた(できなければ叱り、不要になれば切る)であるのに対して、あなたの建設的なFBや改善の提案はこの社会では珍しい行為なので、快く受け入れてくれる場合が多い。
 
第二回の記事第三回の記事では、二つ目の、「相殺消去」他の三つのインド民の代表的な言い訳について、「責任転嫁」と同じように実例と対応フレーズを紹介していく。

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