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♯08【北インド古典音楽盤文庫5】「音楽の大陸インド THE LAND OF MUSIC」

1979年の夏、私は友人に誘われ、2人でインドを訪れた。大好きなロックミュージシャンが使用している「シタール」という楽器が欲しいという幼稚な理由だ。
同年、9月から12月にかけて、西江孝之氏を中心とした仲間たちで製作されたドキュメンタリー映画「音楽の大陸インド」に収められた音楽が、このレコードである。
残念ながらフィルム映画は拝見していないが、広大なインドを北から南まで、一流のミュージシャンをフィルムに収めた情熱は、同時期のインドを知っている私からすると、尊敬に値する。

当時のインドは、黄熱予防接種証明書(イエローカード)を必要とする衛生状態であり、インドの国土面積は日本の約9倍もある。撮影に使用する重い機材を運びながら北から南まで、交通事情も悪いインドで移動するのは大変な労力である。
通信状況も悪く、広大なインドの一流ミュージシャンにアポイントを取り、現地録画、現地録音など、失礼ながら正気の沙汰ではない。

彼らは、彼ら自身が感動した、素晴らしいインド音楽を日本に紹介したかったに違いない。
インド音楽の情報など皆無に等しい日本だからこそ、インドの生活に根付いた音楽を紹介したいゆえ、現地録画、現地録音にこだわったのだ。

浅はかな考えで、リュックひとつでたった40日、インドを旅したつもりになっていた私とはわけが違う。

そして彼らの情熱は、ミュージシャン達に伝わった。
フィルムに収める関係上、それぞれのラーガの時間は短いが、ミュージシャン、西江氏一行全員本気の、現地の空気感まで収められた素晴らしいアルバムだ。


インド古典音楽の魅力を伝えるのに最もふさわしいのは、熟達した音楽家によるライブである。
しかし現在の日本でさえ、1年のうち何度聞くことができるだろう。そして、数少ないコンサートが開催されるのは主に都会だけなのだ。

私は、レコードを通じてインド古典音楽を紹介したい。

RECORD:直訳すれば「記録」である。けれども、音楽を聴いて感動した沢山の人達が、この偉大な伝統と文化を後世に残さなければならないと思ったはずだ。
当時レコードは、再生装置も含め大変高価であり、昨今のような音楽ビジネスとは一線を画す。
音楽は、ラーガは、ビジネスになる前から存在していたのだから・・・。

インド古典音楽は、北インド古典音楽(ヒンドゥスターニーミュージック)と南インド古典音楽(カルナータカミュージック)に大別される。
小泉文雄氏の本を読むと、南北の音楽の違いが生まれたのは、北インドが13世紀以降、北西のほうから入ってきたイスラム文化の強い影響を受けたことに主な原因があるという。
北インドはイスラム教の影響を受け、政治的にも支配され、それと同時にペルシャやアラビアの音楽も入り込み、それまであったインドの古典音楽に変化を与え、今日の北インド音楽の基礎を作った。しかし、南インドはイスラム文化の影響を受けなかったので、インド古典音楽本来の姿を色濃く残しているとの事。
実際に、国内で22もの言語があるインドでは、北と南においてヴォーカルの言語も違うし、使用する楽器も、タンブーラという基音を奏でる弦楽器以外、どれ一つとして共通に用いられるものはない。表現方法も異なり、南インド音楽は、穏やかに人を感動させる特徴があるのに対し、北インド音楽は、初めて聴いた人でも夢中にさせる要素があるようだ。

私は、インドのカルカッタ(現コルカタ)でイルファン・カーン氏(サロッドプレイヤー)に、日本でアミット・ロイ氏(名古屋在住のシタールプレイヤー)に、北インドの楽器シタールを習っている。したがって、所有するレコードも北インド古典音楽中心になるが、できる限り想いを伝えたい。

・徹底した練習に裏付けられた正確無比でエモーショナルな歌や演奏。
・使用される楽器の水準。
・文化をうかがい知ることのできるジャケットワーク。
・声や楽器の質感、厚み、定位、立体感等、音楽の持つ魅力を伝える録音技術。

すべてが世界のトップレベルである。

レコードは芸術の宝庫であり、レコード制作にかかわった多くの人たちのPassionの宝庫でもある。
音楽は耳だけで聞くものではない。皮膚や細胞、五感で聞くのだ。

そして聴衆は、あたかもデジャヴ(既視感)を見るかのように、ラーガの世界へいざなわれて行く。

歌は、現存する最古の物語かもしれない。

ジャケット表面
ジャケット裏面(部分)

*ヒンドゥスターニーミュージック / Side A:1.2. / Side B:2.
*カルナータカミュージック / Side A:3. / Side B:1.

ジャケット裏面(部分)


現在日本でも、インド古典音楽のレコードをCD化した商品が数多く手に入るし、ユーチューブでも視聴可能なので、聞いていただきたいと切に願っています。
私がカルカッタ(現コルカタ)で習っていたサロッドプレイヤー、イルファン・カ―ン(Irfan Khan )氏もユーチューブで、名古屋在住のシタールプレイヤー、アミット・ロイ (Amit Roy) 氏も、ユーチューブやCDにて視聴できるので、ぜひ聴いて下さい。


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