〝伝説のダンサー〟プラブデーヴァー。おさえておきたい16の動画
『STREET DANCER』(監督:レモ・デソウザ/ Hindi, 2020)で、圧巻のダンスをみせたプラブデーヴァー。俳優として出演した作品は77作品、振付参加した作品は51作品、15作品を監督(IMDbによる)。1994年に主演したタミル映画『Kadhalan』の挿入歌「Mukkala Mukkabala」は、知らぬ人がいないほど伝説級のタミル映画ソングだ。南インドの出身ながら北インドヒンディー映画界でも活躍し、インド全土から尊敬を集める。生い立ちから現在の活躍まで、「伝説のダンサー」の横顔を紹介したい。
※記事中のデータは、2020年2月2日時点のものです。
※記事中の各作品について、結末には触れていません。
生まれはマイソール
1973年4月3日生まれ、現在46才。本名はPrabh Deva Sundaram。表記は「Prab」「Prabhdeva」「Prabh Deva」があるが、「Prabhdeva」表記が多いようだ。カルナータカ州マイソールで、3人兄弟のまんなかに生まれた。映画界入りしてからは、タミルナードゥ州チェンナイを本拠地にしている。
【動画1】過去のハイライトを集めた動画『Welcome back Prabhu Deva a tribute to Dancing King』。一時期、ダンスを披露する機会が減っていたが、『ABCD Any Body Can Dance』(Hindi, 2013)で、昔と変わらぬダンスを見せ、ファンを歓喜させた。
父は著名振付師、スンダラム・マスター
プラブデーヴァーの父ムーグール・スンダル(Mugur Sundar, 1938年生まれ、今年で81歳)はカルナータカ州出身の振付師。映画でのクレジットは、スンダラム・マスター(Sundaram Master)というネームのことが多い。1938年生まれで、当然ながらオールド・スクールの振付師(ヒップポップ的なものとは無縁)。1980-90年代に最もアクティブだった。初期のマニ・ラトナム監督やシャンカル監督の作品も手掛けている。
【動画2】父スンダラム・マスターとプラヴデーヴァー。Star Plusの番組紹介CMより(2016)
【動画3】スンダラム・マスターは、マニ・ラトナム監督作品『Thiruda Thiruda(泥棒 泥棒)』(Tamil, 1994)でインド国家映画賞の振付賞を受賞。「News Minutes」記事によると、この作品の振り付けは、スンダラム・マスターが親子で手がけたものらしい。かなり前衛的な振り付けになっている。音楽はA.R.ラフマーン。マニ・ラトナム評論で知られるFilm CompanionのBaradwaj Rangan氏の記事では、「20位」(残念ながら下位)。
[出典]
3兄弟とも映画界へ
プラブデーヴァーは3人兄弟の真ん中で、兄のラージュ・スンダラム(51歳)と弟ナーゲーンドラ・プラサード(44歳)も映画界入り。
【兄】
兄ラージュ・スンダラムは、振付師、映画監督。北はヒンディー、南はタミル、テルグ、カンナダと、弟同様に語圏を越えて活躍している。
【動画4】プラブデーヴァー主演『Pennin Manathai Thottu』(Tamil, 2000)のこの曲では、兄が特別出演し、兄弟が共演した。
【弟】弟ナーゲーンドラ・プラサードは、俳優、振付師としてタミル、カンナダ映画界で活躍。父の名を冠したダンススクール「MSMダンススクール」をチェンナイで運営している。2020年4月公開予定のヴィジャイ主演作『Master』にも出演予定らしい。
【動画5】ナーゲーンドラは、ダヌシュ主演『Pattas』(Tamil, 2020)のタミル文化満載ソングに特別出演。ダヌシュの不在を埋める、緑ハチマキのダンサーがナーゲンドラ。
基礎は古典舞踊
プラブデーヴァーは幼時からバラタナーティヤムなどの南インド古典舞踊を習得した。20歳前後からは本格的な俳優としての映画出演も始まり、主演したシャンカル監督の『Kadhalan』(Tamil, 1994)はスマッシュヒット。この作品でのプラブデーヴァーの声の吹き替えを、下積み時代のヴィクラム(神様がくれた娘)がやっていたというのもカルト度を上げている。劇中歌 "Urvasi Urvasi"は、『STREET DANCER』のセリフにも引用されている。
【動画6】『Kadhalan』といえば、この一曲。AP Internationalが、伝説のステップを鮮明に蘇らせた4K版を公開している。
【動画7】インド映画音楽のカルトクラシック的ソングになりつつある『Kadhalan』(1994)の「Urvasi Urvasi」。Yo Yo Honey SinghやWill.i.am(The Black Eyed Peas)にもカバーされた。音楽はA.R.ラフマーンによるもの。共演のコメディアンはヴァディヴェール(ムトゥ 踊るマハラジャ)。
俳優、振付師としての活躍
2000年代に入ってから、俳優としての仕事は低予算のライトな作品の脇役出演にシフトしていったが、なかには、歴史映画『秘剣ウルミ バスコ・ダ・ガマに挑んだ男』(Malayalam, 2011/ 監督:Santosh Sivan)のように日本で映画祭上映されたものもある。
【動画8】「ダンス甲子園もの」の嚆矢である『Style』(Telugu, 2006/ 監督:Lawrence Raghavendra, A.V. Ratnam)にゲスト出演。同作の監督で、振付師としては後輩にあたるローレンスを喰う踊りを披露している。
【動画9】マードゥリー・ディークシト主演作の『Pukar』(Hindi, 2000/ 監督:Rajkumar Santosh)にもアイテム出演した。この曲もA.R.ラフマーンによるもの。ダンスレベルはおそらく、当時のインド映画界最高峰。
プラブデーヴァーのダンスは、国家映画賞でも高く評価されている。『Minsara Kanavu』(Tamil, 1997/ 監督:Rajiv Menon)に続き、『Lakshya』(Hindi, 2004/ 監督:Farhan Akhtar)でも受賞。各言語の作品賞と異なり、振付賞は1年間に公開されたインド映画業界の作品の中から、たった1曲のみに賞が贈られる。かなりの難関だ。父スンダラム・マスターが1993年、プラブデーヴァーは1997年と2004年に受賞し、兄も2016年に受賞した。
ちなみに、賞の創設1992年から2019年までに複数回受賞しているのは、プラブデーヴァーのほか、大御所サロージ・カーンやガネーシュ・アチャルヤ(Any Body Can Danceで共演)などがいる。『STREET DANCER』監督のレモ・デソウザは、2015年に『Deewani Mastani (Bajrao Mastani)』で受賞。
【動画10】国家映画賞振付賞受賞作 Main Aisa Kyun Hoon(Lakshya, Hindi, 2004)。踊り手は北インドの秀逸なダンサーのひとり、リティク・ローシャン。
ソラミミの〝Crazy Indian Video〟
2007年、一般向けサービスが始まったばかりのYouTubeに、『Pennin Manathai Thottu』 (Tamil, 2000)の劇中ダンス「Kalluri Vaanil」の動画が匿名アカウントによってアップされた。このダンスはプラブデーヴァのものとしては極めておとなしいものであったにもかかわらず、「Crazy Indian Video」というタグが付けられ、ネットの世界でグローバルに大流行した。このころから「インドのマイケル・ジャクソン」などと形容されるようになる。
ビデオを投稿したアカウント「Buffalax」は、いわゆる「空耳」で、揶揄する内容の英語歌詞を字幕に起こしていた。現在、YouTubeのアカウントは削除されている。この件について下記First Post記事は、「面白がっているのか、人種差別か」と批判。ちなみに「空耳」は英単語化している。
[参考] More Than Bollywood: Studies in Indian Popular Music/ 338ページ
著者:Gregory D. Booth, Bradley Shope / Published to Oxford Scholarship Online: January 2014
不倫の荊道
2010年前後にはナヤンターラ(1984年生まれ)と付き合い、妻から訴訟を起こされる騒ぎとなった。離婚成立後にナヤンターラと結婚する約束を交わしていたとされ、ナヤンターラがキリスト教からヒンドゥー教に改宗して物議をかもしたが、2012年に、二人は破局した。
[資料]
監督としての成功
2005年には監督デビュー作『Nuvvostanante Nenoddantana』(Telugu)が公開され、大成功。オリジナル、リメイクを問わず、とことん娯楽的な作風を追求するのは、ローレンスやファラー・カーン(恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)など他の振付師出身の監督と同じだ。
同作のヒンディー語版リメイク『ラームが村へやってくる(原題:Ramaiya Vastavaiya /2013)』は、インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)2014にて上映された。
【動画11】Nuvvostanante Nenoddantana 公式フルムービー(英語字幕付き)
【動画12】テルグ映画での監督デビューを成功させたのち、タミル、ヒンディー語映画にも進出。特にS.S.ラージャマウリ監督のヒット作『Vikramarkudu』(Telugu, 2006)をヒンディー語版にリメイクした『Rowdy Rathore』(2012)は、ボリウッドに一大旋風を巻き起こした。
振付師としてのプラブデーヴァの特長は、自身がスーパーダンサーであるにもかかわらず、踊り手の技量に合わせて振り付けし、最大限の効果を上げることができるところにあると言われる。
【動画13】振付師としてのプラブデーヴァーの才能をうかがえる一例。当時人気が斜陽気味だったサルマン・カーンをヒット街道に蘇らせた監督作品『Wanted』(Hindi, 2009)で、自身が監督した『Pokkiri』(Tamil, 2007)のリメイク。リズムに乗り切れていないサルマンを、撮影アングルで見事にカバー。
俳優として再び脚光を浴びる、2010年代後半
一時期は監督や振付師としての活躍が多かったが、2016年以降は俳優としての出演が増えている。自身の名を冠したプロダクションハウスも設立し、これまでに3作品をプロデュースした。
【動画14】2016年公開の『Devi (L)』は、タマンナー、ソヌー・スードと共演したホラーコメディーで、初めて主演・プロデューサーを兼任。ヒンディー語、テルグ語版も公開された。
【動画15】2018年には、『Lakshmi』(Tamil)にも出演。子どもが主演のダンス甲子園もの。実際のコンテスト番組優勝者が子役に抜擢され、子どもとは思えないレベルのダンスを見せている。プラブデーヴァーは「踊る伝説」ダンサーの役。『ABCD』シリーズに出演のサルマーン・ユスフ・カーンが、ライバルダンサー兼悪役で出演。
【動画16】ダンス甲子園シリーズ『ABCD(Any Body Can Dance)』の続編にあたる『STREET DANCER』(Hindi, 2020)の見どころの一つが、謎のレストランオーナーの正体が明かされるこの場面。ABCDシリーズのファンには、予想通りの流れ(結末には触れていません)。
2020年には『Wanted』『Dabangg 3』に続き、サルマン・カーンと3回目のタッグとなる『Radhe』が5月のイード(イスラーム教の断食明けの祭り)に公開予定。
〝伝説のダンサー〟プラブデーヴァー関連作品が次々に公開される時代を生きている幸運に感謝したい。そしていつか、日本でも日本語字幕付きで公開されることを願うばかりだ。
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