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幼保無償化について思うこと

令和元年10月1日に幼保無償化が始まってから早2年。

子育て世代向けの政策が一つまた一つと増えていくのは、少子高齢化の日本にあって喜ばしいし、方向性自体は何としても継続して欲しいと思いますが、初めてこの制度を知ったときの第一印象は「なんで〜」でした。

2022年1月12日追記:その後の意識の変遷を「文化を作るにはお金が必要?」に記しました。

本当に「お金」が必要?

住民税非課税世帯に対する無償化はそのまま残すべきだと思います。寧ろ是非ともそうしていただきたい。加えて、子どもや子育て世代へのサポートを手厚くしていくという意味において、非課税世帯に準ずる世帯(どこかでラインを引く必要はあるけれど)に対する無償化も継続するのがいいのではと思います。

けれど、「一律」に無償化する必要はなかったのでは無いか。少なくとも共働き世帯が全世帯の7割近い現在(*)、世帯年収が上がるほど「幼稚園や保育園の費用が負担」と思っている家庭より「保育園に入り辛い」という現象に対して困難を感じている人の割合の方が多いはず。相当に緩和されてきたとはいえ。

(*)令和2年度 厚生労働白書 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移

我々は「問題が複雑で、実行するのに時間も労力も資金も要することを丁寧に紐解いて、制度や法律を制定してトップダウンで変えていく」ことを政治や行政に望んでいるのであって、お金が欲しいわけではない。

働き続けている人しか働けない

少なくとも都内の主要な区の指数(**)を見る限り、「フルタイムかそれに準ずる形で働き続けている人」しかほぼ入れないのではないかという構成になっています。

例えば、都内の市区町村で最大人口を有する世田谷区では、「求職中」の人の指数はいわゆる「フルタイム勤務」(週5日以上、週40時間以上が最高点)の人の指数の1/5です。「就労内定」の状態であっても、3/5(***)。

(**)入園の選考に際して保育の必要性を数値化したもの。指数が高い家庭から優先的に入園出来る。
(***)令和4年度入園に適用される予定の基準

加えて、「月48時間未満」の就労や就労内定には点数すら付きません。
パートなどの形態が想定されますが、少なくとも、保育園等の選考においては、これらの仕事は仕事として見なされていないということになります。
(こうしたケースでは「一時保育」や「ベビーシッター」を利用してください、ということなのだと思いますが、「一時保育」は都度申込を要する性格上毎回預けられる保証はなく、「ベビーシッター」は自身の子どもだけを1対1で手厚く見ていてもらえる反面、利用料金はどうしても高くなります)

保育園というパイが限られている中で、最も必要な人に優先的に分配しようとすると、現在進行形で保育を必要としている「働き続けている人」、それも経済合理性を踏まえたら「より多くの時間、より高い給料で働き続けている人」を最優先しようというのは理解が出来ます(その方がGDPへの貢献は大きいし、税収も大きくなる)。

でも、それが「ベスト」な解かというと、そうではないはず。

フルタイムであろうとそうでなかろうと、就職してからずっと働き続けていようとそうでなかろうと、「働きたい」と思う人が「働きたい」と思った時にいつでも働ける社会が理想だし、逆になぜ「働きたい」という前向きで建設的な思いが環境によって阻害されてしまうということが起きてしまうのか、悔しさや遣る瀬無ささえあります。

現時点でベストだと思うやり方

「幼保無償化」の制度は、設計はもちろん、維持するのにもものすごい労力が掛かっている(毎年、対象家庭の就労状況や収入実績などを確認して、制度の対象であることを確める「現況確認」など)と思いますが、体力を掛けて欲しいのはそこではなくて、「働きたいのに働けない」というおかしな状況を少しでも是正すること。

そのためにも「幼保無償化」の一律対応を廃止し、浮いた資金と時間を他のことに注ぐのがいいのでは?とは思いますが、一度始めたものはなかなか止められないでしょうし、難しいだろうとは思います。

それでも、現時点でベストと思える対応を考え得る範囲で挙げるなら、

①住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯を除く幼保無償化を廃止
②浮いた資金は、
 a.保育士への給与上乗せ
 b.保育園新設
に充てる

②bが難しいのは、場所探しから近隣住民などへの理解取り付け、設備の完成まで、多くの時間と労力を要することはもちろん、保育園需要がピークアウトした時のことを考えると、無闇に増設ばかりも出来ない、ということ。

既存の幼稚園に保育機能を持たせた「認定こども園」や「保育ママ」などの「地域型保育事業」は、そうした側面も踏まえての対応だったのだと理解しています(資金と時間を掛けて新たに保育園を増設しなくとも、既存のリソースを生かして早期にニーズを満たすことができ、また需要の縮小にも柔軟に対応しやすい)。

個人的には、理想中の理想は、少子化に伴って就労に拠る保育ニーズがどこかの時点で縮小した場合には、その施設を一時保育施設として、就労していない人にも利用を拡大すること。

事由に関わらず一時預かりをお願いできるケースもだいぶ増えてきたなぁという印象ですが、まだまだ「リフレッシュ」目的の利用は回数が限られていたり、受け皿は十分ではないと感じます。

早く「就労をしている母親はもちろん就労をせずに乳幼児を育てている母親も、社会から隔絶されることなく、自分を犠牲にすることなく、一層前向きな気持ちで子育てに臨めるよう、社会全体で子どもを育てていく」という姿勢が浸透した社会になったらいいなと思います。本当は今すぐにでも実現したら素晴らしいと思いますが、体制の整備や価値観・行動の変容にはどうしても時間を要する側面もあるでしょうから、少しずつでも。

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