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小説:冷徹メガネと天職探しの旅 第12話

第12話 Lesson2 モーニングノート
「どんな方法があるんですか?」
「朝ノートを書いてください」
「朝にノートを書く?」
天神さんは手元にあるノートを上にかかげた。
「朝起きて30分間1〜2P自分の頭に浮かんだことを書いて下さい。天気がいいや今日は仕事で◯○しなければならないなど書くことは心に浮かんだことなら何でもいいです」
「待って下さい。前提条件として朝に30分なんて時間を取るのは難しいですよ」
僕はいつも朝起きたらバタバタだ。30分も優雅にノートを書いている時間なんて取ることはできない。
「それなら朝30分早く起きて下さい」
「えっ!それは・・・睡眠て大切ですし、できるだけ沢山寝て体力を回復したいですよ」
天神さんは顔色を変えずにメロンソーダを飲んでいる。
「夜30分早く寝れば睡眠の量を変えずに早く起きることができます。夜に携帯やTVを見てダラダラと過ごす時間を無くして早く寝るようにしてください」
痛いところをついてくる。確かに夜はダラダラしてる無駄な時間が長い。
「でもそのダラダラ時間がストレス解消に繋がっていますよ」
僕は泣きそうな顔で訴えた。
「それでは残業をせずに早く帰って下さい。クビになる会社で残業する必要も無いでしょう」
天神さんに何を言っても勝てそうにない。僕は力なく頷いた。
「でも朝ノートを書くことと、自分の興味・関心は何が関係あるんですか?」
天神さんは僕の目をじっと見た。
「人は大人になるにつれ、親や社会の基準に合わせるようになります。荒田さんの頭もその基準でいっぱいです。自分の軸は奥底に隠れています」
確かに自分がどう思うかよりも周囲にどう思われるかを気にしながら行動している。
「そのような頭で自分の興味を探しても見つかり難いです。そこでノートに頭の中の余分な思考を書き写すことによって余分な思考を除く必要があります」
「ノートに書き写すだけで余分な思考を除くことができるんですか?」
「例えばスーパーに買い物に行くとします。買う物を紙に書かなければ忘れないように頭で反復する必要があります」
天神さんがスーパーで買い物する姿はイメージが難しかった。
「しかし紙に買う物を書いていたらどうでしょう?紙が記憶してくれているので違うことを考えることができます」
「確かにそうですね・・・朝のノートで興味・関心が見つかるならぜひやってみたいです!」
「2週間」
「2週間?」
「まずは2週間朝のノートをやってください。効果が出るのはそれぐらいかかります」
「2週間って長すぎませんか?」
「2週間後に会いましょう」
天神さんは素早く席を立って会計を済ませた。
「ちょっと待って下さいよ」
「1日1ページでもいいです。書ける範囲で続けて下さい」
天神さんはそう言うと駅へ消えていった。
僕は少し呆然としていたが藁を掴む思いでとりあえず朝のノートを書こうと心に決めた。

まず大変だったのが朝30分早く起きることだ。どうしても夜はダラダラとしてしまい、いつもの時間に就寝してしまう。無理に朝早く起きると仕事中に眠くなってしまった。
そこで夜は携帯をいじらないことにしてTVもつけないことにした。帰宅後携帯は別室に置いて充電、TVのリモコンも取りにくい場所に置いた。
最初は手持ち無沙汰で寂しい思いもあったが、慣れてくると時間がゆっくり流れる感覚を覚えた。あんなに時間が無いと嘆いていたのはただ携帯やTVに消費して時間がなかっただけだったことに気がついた。
朝のノートは最初書くことが難しかった。本当に心に浮かんだ「パン食べたい」「眠い」などの文言を書き連ねるだけだった。しかし1週間を過ぎるとノートに書くことも増えて自分がこんなことを思っていたのかと驚くようなことも増えた。

2週間後、以前と同じ喫茶店で天神さんと会った。天神さんはやはりメロンソーダを飲んでいる。僕も同じものにしようと思ったがなんとなく気まずくて辞めた。
「モーニングノート2週間やってみてどうでしたか」
「自分でもこんなことを考えているのかと驚くようなこともありました」
「そうなんですね」
「あと時間の使い方が上手くなった気がします。朝30分早く起きないといけないので夜はできるだけ携帯やTVを見るのを辞めました」
「副次的な良い効果も出たみたいですね」
朝の時間は本当に頭がさえており夜の作業よりも数倍捗る。
「自分の興味・関心は見つけられましたか?」
天神さんはメロンソーダのアイスをすくって食べている。
「やっぱり美容とか文房具に興味があるみたいです。あとはマンガを書いてみたいっていう気持ちも出てきました」
「それはいいですね」
「そうすると美容や文房具業界、もしくは出版業界を中心に転職活動をした方がいいんでしょうか」
天神さんは一瞬黙った。
「今日の午後時間はありますか」
「お客様のアポは入っていないので内勤をしようかと思っています。定時には上がれると思います」
「午後半休を取ってください」
天神さんはメロンソーダを一口飲むと素早く立ち上がった。
「ついてきてください」
天神さんは会計を済ませて足早に喫茶店を出た。僕も急いでコーヒーを飲みほし天神さんの後についていった。

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