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1兆円企業の社長の秘書のはなし。みんなのキャリア・生活に役立ててもらいたい④


#創作大賞2023 #お仕事小説部門

大企業の社長候補の選び方。2つの必須スキルとは?


1)社長候補はどのように決めるのか


社長の執務室は学校の教室くらいの広さがある。

その部屋には執務用デスクと、打合せ用のデスクがある。その打ち合わせ用デスクで、ぼくが社長にあれこれ話すと、社長が前のめりになりながら、「ここのところはポイントだから、資料をしっかりと作ってくれ」と言う。

ぼくは、「この人、38歳ですよ、少し若すぎませんか。社長候補者としては、次の次と思います」と具申する。

僕の会社は、新しく社長になった人はすぐに次期社長を探す。サクセッションプランという言い方をしているが、それに力をいれる。

このサクセッションプランは、うちの会社のみではなく、どの企業においても最も重要なイシューであるのは間違いない。

古くは日産から始まり、JAL、カルビーなどなどプロの経営者が就任した企業が成長するのを目の当たりにして、その重要性を社会は認識し始めた。

いままで必ずしも能力重視とは言えない上場企業の社長の選出方法は変わりつつあり、うちの会社はその流れを先んじて、サクセッションプランを進めている。

社長候補者の評価を得意としているコンサル会社は3社ある。ラッセルレイノールズ、エゴンゼンダー、コーンフェリーである。

費用は1億円ほどの高額であるが、1兆円企業の社長を効果的に選べるのであれば、費用対効果は悪くないのだろう。

「外国人アドバイザーもいるので、サクセッションプランの報告は分かりやすくしないと。ちなみに、40代の社長は米国では普通だよ。38歳が候補者になっても早くは無い!」と社長がドヤ顔で言う。

2)コンサルタントの社長候補者の評価レポートの内容


40歳~50歳前後のエース級の人材を30名ピックアップし、1年ほどかけてメンタルテスト、面談、第三者評価などを通じて、彼らを評価した。

そのレポートができた。それを元にして、社長がサクセッションプランというタイトルを外部役員が集まるアドバイザリーボードでプレゼンする。

その資料作成がぼくの仕事だ。

社長をどのように選出するかは、ビジネスパーソンならば興味のある分野だと思う。その情報に、このようにアクセスできることは秘書の役得だと言える。

ただ、書かれている評価項目については特殊なものは何もなく、至って普通の項目である。

たとえば

Leadership、
Result Oriented、
Action Oriented、
Strategic Thinking

など良く聞くような評価項目である。これら以外に過去~現在~未来という時間軸での評価と第三者から聞いた評価などを加えて、将来のポテンシャルを測っている。


「おお、こんな評価がされるのか。知って得した。」という目新しい情報はない。考えてみれば当たり前のことではあるが、何らか秘密の評価項目があると期待していたため、少しがっかりした。

評価項目をそれぞれ見ていく限り、一発逆転の裏技など無く、日々自分を体錬していくことでしか能力は上がらなく、また他者から信頼されること無くして評価されることは無いと改めて実感した。


3)候補者の評価レポートの具体的な内容は?


そんなありふれた内容ではあるが、普段一緒に仕事をしている人が対象者なので、読み込んでみると面白い。

特に評価が著しく高い2名は、面識がある人で、その評価は芸能ニュースを観ているような感覚で読ませてもらった。

候補者として評価が2名は、
「Market InsightとStrategic Thinking」の項目が高得点だ。

また、それに対してのPassionがあるという評価も付いている。


確かに彼らは、一目置かれている。
目立つ理由は、新しいことを自分で初め、結果を出しているからである。

レポートを読む限り、彼らが結果を出せる理由は、人間力や性格が優れているからだと言う。

結果は習慣と紐付くと言われるが、彼らは素晴らしい習慣を身に付けているのだろう。

さらには「こーしたい、あーしたい」と考える、いわば「夢を見る能力」が長けているとも言えるだろう。

4)評価レポートを自分自身にあてはめてみる

このレポートを読みながら、「自分が評価されるとしたら、どのような結果がでてくるのだろう」と自分に照らし合わせてみた。

過去の経験(学生時代も含む)、現在の仕事への取組み、将来のポテンシャリティを、コンサルタントになったつもりで評価をイメージしてみた。

自己評価だけに大甘な点になり、「そこそこイケるかも」なんて妄想してみるが、どうしてもひっかかる項目がある。それはStrategic thinkingと第三者評価のコメントである。


Strategic thinkingは、経営において最も大切な項目である。

自分の仕事を振り返ると、このStrategic thinkingに高い評価が付けられないことに気付く。

目の前の仕事に忙殺されながら、ピンポンのゲームのように「来た仕事を打ち返す」かのように日々を回しているなかで、Strategicに業務を見つめ、将来像をイメージしながら、組み立てているとは言えない。

また360度評価のコメントについても、多少良いことは言われるとは思うが、他人が高い評価を与えてくれるか考えると、「ん~」となってしまう。

そんな風に、自分が評価される事を想起すると、日々の考え方・立ち振る舞いをガラッとまでは言わないまでも、少しずつ変えていこうと戒めの気持ち
が出てくる。まずはStrategic Thinkingを意識していきたいものだ。


5)Strategic Thinking は難しいかも


22時ごろにレポートすべてを読み終わり、顔を上げると秘書部長がまだ険しい顔をしてPCと睨めっこをしている。

この部長は、かなり仕事が出来る。能力としては役員クラスに位置すると思う。一緒に仕事をしていると「すごい!」と思うことがあり、参考になる。

見た目は正岡子規のようである。昼飯は食べないので、どのようにカロリーをこんな遅くまで蓄えているのかは不思議だ。

「これ読み終わったんですが、池口さんの評価メチャ高いっすね~」とレポートをひらひら右手であげながら言う。

すると面倒くさそうに顔を上げ、「ん、ああ」と無愛想な言葉が返ってくる。

その反応を受け、軽はずみなコメントをしたことに反省する。この二人は仲が良くない。

そのため、部長としては、池口氏の評価が高いのは面白くないだろう。年齢も近いし、役職も部長なので余計だ。秘書部長は、社長候補者に上がっていないし、思うところはあるはず。

こういうところからもStrategic Thinkingが必要だな、と反省しつつ空気が重くなったので、そさくさと秘書室を出た。

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