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田舎で飲食経営を成り立たせるポイントは?【#2.愛される飲食の作り方】

私たちジソウラボは、「つくる人をつくる」をビジョンに掲げ、富山県南砺市の井波地域で活動している起業家支援チームです。
地方で、そして井波で起業したいという方々をサポートさせていただく中で、よく伺うのが「食文化をつくりたい」という声です。一方で、飲食ビジネスや地方での起業に関心がありながらも、コロナ禍のためになかなか一歩を踏み出せないという方が多くいらっしゃると感じています。
そこで、サステナブル都市計画家の山崎満広さん、建築家でジソウラボメンバーでもある山川智嗣さんをお迎えして、飲食ビジネスを志す方に向けた対談動画を収録しました。それらをテキストで再録し、4回にわたってお届けします。

実はプロですら、田舎で飲食店を成功させる術は知らない


――私たちジソウラボには、井波で起業したいという方が相談に来てくださいます。その中には飲食ビジネスを立ち上げたいという方ももちろんいますが、人口約8,000人の小さなまちで飲食の経営が成り立つのかという不安もよく伺います。一方で、大都市でもコロナ禍により人流が制限される期間が長く続きました。今後も同様の事態が起こる可能性がある中で、全国的に飲食ビジネスの経済圏は小さくなっているとも言えるでしょう。その中で、どうやって飲食店を経営していくのかを一緒に考えていきたいと思います。まず、井波で飲食店「nomi」を経営されている山崎さん、約3年前にお店を立ち上げた際、実際のところこの地でやっていけると思いましたか?

山崎:多分、僕が向こう見ずな性格だったからできたというのはあると思います(笑)。ですが、もともと僕の中には地域の課題解決のために飲食をやろう、という気持ちがありました。

――その課題とは、どんなものですか?

山崎:昔ながらの日本の旅行は、泊まった旅館から外に出ないスタイルです。夕食も朝食も出るし、温泉もある。その旅館がある場所には行くんだけど、まちを歩くことはほとんどないのが一般的でした。でも、それでは地域のことは全然わからないし、まちの良さも伝わらない。そんな旅行スタイルを変えたくて、分散型ホテル「Bed and Craft」を始めたのです。「Bed and Craft」はいわゆる泊食分離で、地域のお店で食事をしてもらうことによる地域経済の活性化を目指しました。しかし、ひとつ問題がありました。それは朝食です。昼食や夕食で利用できるお店は少なからずあるのですが、田舎には朝早くから開いていて、朝食を食べられるようなお店がほとんどありません。たまたまイギリスから来たお客様がコンビニでサンドイッチを買っているのを見て、「せっかくここまで来てくれたのに、それはないな」と思ったのです。来てくれたお客様に井波らしい朝食を出せるお店を作りたいと思ったのが、飲食店経営に踏み出したきっかけでした。

――それで、「飲食店をやりたい」と経営コンサルタントの方に話してみたんですよね。

山崎:そうしたら、金沢市か富山市がいいですよと言われたんです。いやいやそうじゃなくて、井波でやりたいんですと言うと、やらない方が良いと。話が噛み合わないんですね。飲食店経営のプロでさえ、井波で経営を成り立たせる方法を知らないということです。それなら、素人の自分がイチからやってみたらいいんじゃないかと。

――すごい。「プロに難しいなら素人の自分にはとても…」じゃないんですね。

山崎:以前は、計画を立てて行動し、それをチェックして修正するという「PDCAサイクル」が主流でしたが、最近は「アジャイル型」になってきていますよね。とりあえず考えていることを世の中に出してみて、都度修正していく。それと同じです。

――まずは簡単な下絵を描いて、その精度をどんどん上げていくのがアジャイル方式ですよね。

山崎:そうです。朝食についても、もともとはお店に来てもらっていました。ですが、すこぶる女性に評判が悪かったのです。朝から外に出るためにお化粧して身支度を整えて、歩いて朝食を食べに行くというのがストレスだったようで…。ですから、今は「nomi」で作った朝食ボックスをお部屋に届ける仕組みになっています。こうしたアップデートを重ね続けるスタンスでやってきたから、コロナ禍にも柔軟に対応することができました。変わることに抵抗がないことは、ひとつの強みと言えるのかもしれません。

――ノウハウやルールはわからないという前提で、模索しながら進んできたんですね。コロナが直撃してからも、考えて更新し続けている姿勢は変わらないという。

山崎:逆に、田舎で成功する飲食店のフォーマットを最初から知っていたとしたら、お店は多分コロナで潰れていたでしょう。「飲食はこうあるべき」という姿にしがみついて、変わることを拒んでしまっただろうと思います。

複業で始める。「寄り道」の仕事がヒントになることも


――飲食は、良くも悪くもノウハウが確立されている分野でもありますよね。フランチャイズもできますし。山川さんは、続けられるお店とそうでないお店の違いについてどう思われますか?

山川:今までは、お金と機材を借りてひたすら頑張って、何年かしたらやっと儲けが出てくるというのが飲食ビジネスの「鉄板」でした。しかし、コロナ禍においてはこうしたやり方はもう通用しません。最低限これだけの売上があれば潰れないというポイントを見出し、その売上を上げるために、今までにないような工夫がどれだけできるかが肝になると思います。僕は「Bed and Craft」も、「nomi」の朝ごはんも大好きなのですが、今の形にたどり着くまでは、相当苦労したんだろうなと思います。でも、それができるかできないかが、10年、50年100年続くビジネスの鍵となるのではないでしょうか。特に、地方都市で生き延びるためには必須の視点だと思います。

山崎:僕は井波出身ではなく外から来た人間ということもあり、大きな視点で「どうあるべきか」を常に考えていました。それが今になって効いてきたというのは、確かにありますね。また、僕の目的の軸は売上や利益ではなく、地域の課題解決にありました。それによって周りから応援してもらえたことが、結果的にお店を継続できた大きな理由のひとつだと思っています。

――山崎さんは、飲食ビジネスを成り立たせるために、収入源を1つに絞らない方がいいのではないかとおっしゃっていたこともありますね。それは、どんな理由からでしょうか?

山崎:僕自身、建築家としても仕事をしていますが、最近は飲食だけやっている専業の人は少なくなっていると感じます。コロナ禍のような事態が起こると、飲食の場合はぱたっと人が来なくなり、売上が急に下がってしまいます。しかし建築の場合は、半年や1年くらいかけて少しずつ影響が出てくるので、その時間差をうまく使うことができました。飲食以外の仕事によって、飲食での収入減を補填することができたのです。ですから、これから田舎で飲食ビジネスをやりたいという人は、それまでやっていた仕事など、飲食以外の仕事を持ちながら始めるのがいいのではと思います。逆に言えば、これまで飲食をやってきた人が田舎に移ってお店を立ち上げたいという場合は、それをきっかけに違う仕事を始めてみるとか。

――例えば、どんなお仕事を?

山崎:「田舎には仕事がない」と思われますが、選ばなければ実はけっこうあるんですよ。例えば、井波なら除雪作業とか。やってくれる人が減っているので常時募集していますし、地域に貢献できる、喜ばれる仕事です。ほかにも本当にいろいろな仕事があります、意外にも。そうすると、飲食もやりつつ、一方で別の仕事でお金を稼げる仕組みを作れますし、地域を知る良い機会にもなります。

――都市部では通年同じ仕事が当たり前ですが、地方の場合は、経済圏の小ささと気候により、四季によって仕事のニーズが大きく変わるという特徴がありますよね。飲食ビジネスを本格的に始める前に、地域でちょっと違う仕事をしてみる。いわば寄り道してみるというアイデアは、面白いですね。

山崎:例えば農家を手伝ってみるとか。実際に土や作物に触れるので、「こんなに手をかけて育てているんだ」「こんな料理に使えそうだな」など、飲食ビジネスへのヒントはよりダイレクトに得られますよね。

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他業種とのコラボに大きな可能性が


――ここからは山川さんに伺います。私がポートランドに行った時、境界線のないまちづくりが印象的だったんですね。ランドリーの中にカフェがあったり、NPOがクラフトビール屋さんをやっていたり…。そうした、境界のない経営をしている人が多くいるように感じました。

山川:その背景には、2008年に起こったリーマン・ショックがあります。その時に、解雇されたり給料を減らされたりして、何とか生き延びようとして皆がこぞって副業を始めました。2012年に僕がポートランドに行った時には、ギグエコノミーはすでに当たり前となっていました。勤め先での仕事や収入が十分にない人が、自分の余暇を使って楽しみながらお金を稼ぐのはもはや普通の姿だったのです。例えばクラフトビールも、最初は自分でキットを買ってきて、ガレージで作ってみる。おいしくできたら作る量を増やしていく。どんどん作れるようになったら、ライセンスを取って売る。今、ポートランドは世界で最もクラフトビール工房が多いまちになっていますが、ほとんどが実は副業だったんです。

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そんなノリで、副業として何か面白いことで起業するのがクールだという感覚がありました。ですから、僕は公務員でしたが、同じ職場にクールな起業家がいるという環境で。例えば、1杯飲むごとに寄付ができるという仕組みのクラフトビール屋を立ち上げた同僚がいました。その彼はもともと、社会の役に立つために働くのは当たり前だという考えから公務員になった人間です。しかし、公務員にはいろいろしがらみもありますから、本当に自分が役立っているという実感はなかなか得にくい。一方で、ビールを毎晩何百杯と売っていると、今月はこのNPOには500万円、この団体には150万円寄付できたという額が見えるので、自分がどれだけ役立ったかはっきりとわかるし、すごく感謝もされるんです。

山崎:公務員はなかなか感謝されませんからね…。大事な仕事をしているのに、それが当たり前だって思われちゃって。

山川:そうなんです。それですごく感謝されない立場から、めちゃくちゃ感謝される立場になって、社会的地位もガンガン上がっていく。それで、いつの間にか副業が本業みたいになり、公務員を辞め、稼いだお金でまた新しいことを始めていくんですね。当時のポートランドは、副業がきっかけで自分の新たな生きる道を見つける人が特に多くいた時期だったと思います。

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――アメリカでのリーマン・ショックのインパクトは、本当に大きかったですからね。収入が減って生活が立ち行かなくなるような経験が、生きるスキルを学び直す機会にもなったということですね。

山川:そうですね。あとは就業ルールも日本に比べると自由なので、もともと副業を始めやすい環境ではありましたね。公務員でも、自分の仕事と利益相反することでなければ、上司の許可さえ取れれば比較的自由にやらせてもらえていました。

――日本でもコロナ禍でお給料を減らさざるを得なくなったから、副業を解禁した企業が本当に多かったですね。この流れは戻ることはないとも言われていますので、日本でも好きなこと、興味のあることにチャレンジしやすい環境になってきたのかなと思います。

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山川:あとは多様化という面から見ると、ポートランドではランドリーや自転車屋にカフェが併設されているスタイルはもう当たり前という感じになっています。面白いのは、それによって他業種とのコラボが起こることですね。例えば「〇〇」という有名なカフェは、最初は1店舗分を借りるのはリスクが高いからと竹細工屋さんの一角にお店を出したんです。内装はその工房の人が作り、竹細工の宣伝もしながら、地元でローストしたすごくおいしいコーヒーを出すというコラボレーションが生まれたのが素晴らしいなと。お互いに助け合い、お互いのお客さんを呼び込むことができる。アイデア次第でいろんなことをマーケティングに繋げるようなことを、すごくうまくやっているお店がたくさんありましたね。

――まずは小さく始めて、コラボをしながら収入も集客ルートも得ていくということを、ポートランドではすでに多くの人がやってきたということですね。日本でもコロナ禍で飲食店がリセットされつつある中で、そうした挑戦は今後増えていくかもしれませんね。例えば、健康に良い料理を出したいなら、整体院でカフェを出すとか。病院や図書館など、すでにある施設とのコラボはいろいろと考えられそうです。井波なら、彫刻師さんの工房の一角にお店を出すというのも面白そうですね。今回のお話からも大きな学びがありました。山崎さん、山川さん、ありとうございました!



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担当:ジソウラボ MAP担当

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