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【三題噺 お題】夕方 お化け 煙 【ゥ゙ィーガンと第六感】

父が亡くなってから五年ほどになる。
ある日の夕方、おじいちゃんというものの存在を知らない、もうすぐ二歳になろうという息子が、
「お化け。でた。お化け。でた」と、ニコニコしながらかけ寄ってきた。
「どこにでたの? こっちの部屋?」ミエはやさしさのつまった声でそう尋ねると、息子は仏壇の置いてある薄暗い部屋の方を指差しながら黙ってうなずいた。
仏壇の置いてある部屋は、家の中でも一際涼しく日差しが直接入り込むことのない北側にある部屋だった。大人からしてみれば、一般的にはお化けというものは、出るといえば、出るかもしれないし。出ないといえば、出ないかもしれない。オカルトとやらに分類される話であった。

ふと、上の方からの視線を感じて、父親の遺影を見あげた。線香をあげるため、ロウソクに火を灯そうとマッチを擦った。
白い壁に灰色の自分の影が伸びたあと、暖かい色が部屋の中にフワッと広がった。

子供からすると、独特なニオイとともに漂う線香の煙は、ゆらゆらとしていて、おばけに見えただけなのだと単純にそう考えていた。
しかし、もしかすると、まだまだ身体の中が汚れていない子どもというものは、第六感というやつが鋭敏で本当にお化けというものが見えているのかも……いや、感じ取っているのかもしれないと、そうとも考えた。

食事や様々なもので汚れている身体に宿る感覚というものはハッキリいってしまうと鈍い。
そのことに気がつきはじめたのは、この前立ち読みしたときに目にした雑誌の記事の影響を受け、食事を変えて半年ほど経過した後からだった。
体重に始まって、嗅覚、感覚、肌の艶にいたるまで、あちこちに変化が起きてきた。
特に、自分がヴィーガンというわけでもなかったのだが、自分の血を引き継いだこの小さなグレムリンをしっかりと見送る為に長生きするには、その選択枝は正解だったようだ。

今はまだ可愛い一匹の小さなグレムリンは、これから色々学びとってどんどん大きく変化してゆく。
私にも第六感とやらが身についてきたのだろうか。部屋の上の方から、隣にチョコンと座っている彼を静観している父の遺影が、一瞬ニッコリと笑みを浮かべたような気がした。

「チーン」と部屋の静けさの中で鈴の音が響いた。わたしは、目を瞑りそっと静かに手を合わせた……。

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