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【短編小説】裏通りの時間

情報に囲まれた世界で今日を生きている私

裏通りで一匹の黒猫と出会い

忘れていた大切なものを思い出す

私たちはこのままでいいのか

コンクリートに囲まれた世界で私たちは何を思う


人の笑い声、看板の文字、広告音楽の音、LED電球の光

私たちの体に入ってくる情報は本当に必要か

私は椿

三年前上京してきた

胸一杯の憧れを持って

東京の街はいつでも忙しい

眠らない街

睡眠不足のようだ

私は家路に着き明日が始まるのがただ恐ろしくて回り道をした

橋の上から見た川は光が反射して綺麗だ

大人が通り過ぎる

「はあ」

思わず口から息が漏れた

鉛のような身体を引きずった

静かな裏通りに居た

「どこだろう」

「はっ」

そこには

月と星が輝いていた

「綺麗」

鉛はいつの間にか消えていた

涙が流れた

「静か」

ジジジジジジ
ミーンミーン

虫の鳴き声が響く

ここが本当にあの東京なのか

「落ち着く」

ここは時間がゆっくり流れていた

「え」

道の端で何か動いた

「黒猫だ」

頭を撫でた

「温かい」

温もりは心の奥底まで伝わった

「にゃー」

このまま時間が止まればいいと

私は猫に手を振る

温もりはしばらく残ったままだった


夢を見た

5歳頃の男の子が泣いている

「どう、、」

声をかけようとした瞬間

朝日の眩しさで目が覚めた

私は何とか身体を起こした

窓の向こうでヒバリは飛んでいた

楽しそうに歌っていた

「おはよう」

私は駅の改札に向かった

人の流れに沿って歩く

「あれは?」

黒いモヤが見えた

それは足が沢山生えていて鋭い棘で覆われている

タッタタタタ

歩いている人を追いかけ刺す

チクチク

誰一人気づいていない

その内の一匹と目があった

タッタタタタタタタタタタタタ

「え」

私の方に向かってくる

「ここは」

昨日来た裏通りに居た

地面に座り込む

「見間違いだったんだ」

さすがに幻覚が見えるのはまずいと思った

「見間違いじゃない」

昨日の黒猫が居た

「僕だよ」

「さっきのは?」

「昨日僕を撫でたから見えるようになり存在するけど普段は見えない」

「無意識間で影響を受けている、速く歩き、押し潰されそうな苦しさを感じている」

「情報で溢れている表通りに居ると時間が速く流れている」

「この裏通りには入ってこないから平気さ」

「僕はアン」

「私は椿です」

「どうして話せるの」

「同じ種族だから」

私はアンのことは不思議と怖くなかった

「心配だから一緒に居て」

「わかったでも、、」

アンを鞄に入れ裏通りを出た

「え」

「どうかした?」

「僕、裏通りから出たことなくてなぜ出れたんだろう」

私の鞄からアンは少し顔を覗かせた

見た事のない人の多さ、音、光

違う世界のようだった

「うっ」

怖くなりアンは顔を引っ込めた


椿とアンは穏やかな日々を過ごした

「おはよう」から「おやすみ」まで

ある日テレビから遊園地の広告が流れた

ジー ブンブン

目を輝かせて尻尾を振っているアン

「ふふ」

「遊園地楽しそう」

「行ってみる?」

「うん」

アンは嬉しそうに笑った

遊園地は眩しい

夏だから余計そう感じた

「楽しかった」

「私も」

アンとならどこまでも歩いて行けると

夏の日暮れ心地よい風が吹いた


黒いモヤがアンの前に

「何か用か?」

「私たちと人間は無意識間しか交わってはいけない」

「地球の自然がなくなり残った悲鳴が私たち」

「帰ってもらう」

「椿」

私は駅の改札に向かっていた

アンの声が聞こえた気が

嫌な予感がして探した

姿が見えた

前に黒いモヤ?

「アン」

アンは身体が固まって動けないみたい

「何があったの?」

「僕は君に会えて本当に良かった」

「暗闇でいつも一人寂しかった」

「椿は光だった」

「暗闇を照らしてくれる月のようだった」

「君に救われていたんだ」

アンは消えた

黒いモヤも消えていた

家に帰り部屋を眺めた

アンが居る気がした

「アン」

部屋は静か

アンはもう居ない

泣きながら眠りにつく

いつか夢に出てきた男の子

前より背丈が伸びていた

私に微笑み向こうに

「行かないで」

見えない壁があり声も届かない

目が覚めた

私は泣いていた


私は裏通りを歩く

ここならアンに会える気がした

「居ない」

何日経ってもアンには会えなかった

「あれは」

壁に一枚の紙が貼ってある

「再開発のお知らせ」

「え」

この裏通りはなくなる

アンと出会えた場所

タッタタ

人の影にチラと黒いモヤが見えた気がした

裏が表になりかけていた

住民は再開発には反対のようだ

ガシャン

「あ」

目の前でお爺さんが転んだ

「大丈夫ですか?」

すぐさま駆け寄り声を掛けた

「いててて」

「どこかぶつけてないですか?」

「大丈夫、ありがとう」

私とお爺さんはベンチに座った

「この辺りに大きいマンションが建つらしいね」

「そうみたいですね」

私はそうとしか答えられなかった

「たくさんの思い出があるんだよ、ここはヒトが人間らしく居られる大好きな場所なんだ」

「悲しいですね」

私はもう何も言葉が出てこなかった

お爺さんの言葉が頭の中で繰り返される

黒いモヤは見ていた

椿の前に黒いモヤ

「何か用ですか?」

私はどうしようもない気持ちに揺れ動いた

「再開発止められるかもしれない、私たちには無理だが生き物は他にも居るんだ」

「え」

「悪は黒、善は白」

「無意識にイメージを持っている人間にイメージを送っている生き物も居る」

「協力してくれればもしかしたら」

「お願いします。ここには思いが生きているんです」

「わかった。私たちも自然がなくなるのは悲しい」
黒いモヤは消えた

数日経った

裏は表にならなかった

私は黒いモヤを探した

「あ」

「椿か」

「上手くいったようだ、「自然は恵み」イメージを送っただけだと言っていた」

「本当にありがとうございます」

「私たちは百五十年前、表も裏もなかった頃は居なかったようだ」

「私たちが居る理由は今の世界にある」

「あの黒猫は人間だ」

「え、アンが人間」

「幼い頃から私たちが見え、喋られると困るので人間には見えない猫に変えたんだ」

「もう人間だったことは覚えてないと思うが」

「そんな」

「すまない。私たちも好きで刺している訳じゃないんだ」

「裏が広がるといいと私たちが居ない世界を望んでいるよ」

黒いモヤは小さく微笑み消えた

人間はただやり過ぎたんだ

どこかで本来の目的を見失ったようだ

人間は便利を得たが心の豊かさは得られなかった


私は裏通りに居た

「会いたい」

「え」

「あなたは夢で見た」

前に男性が立っていた

「椿」

アンの声がした

私は思わず抱きしめた

「アン」

涙があふれる

「僕、人間に戻れたんだ」

「幼い頃、黒いモヤが見えて僕は一人泣いていた時椿が現れた」

「どうしたの?」

「黒いのが居て怖い」

椿は僕に手を振った

「そして僕たちは再び巡り会った」

「撫でてもらったあの瞬間温もりを思い出した」

「椿に影響されて僕は人間性を取り戻せたんだ」

「僕も椿もお互い影響し合っていたんだ」

「アン」

「良かった」

「もう会えないかと」

「私もアンに救われた
暗闇で後ろを向いていた」

「黒猫を撫でると温かくて忘れていた温もりを思い出した」

「私を月と言うならアンは星だった」

「暗闇で光り輝く星のようだった」

暗闇を照らし輝く二つの光

明日も明後日も百年後も輝いていますように

ありのままの姿が何より綺麗

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