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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.326 読書 乙一「失はれる物語」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 乙一さんの「失はれる物語」についてです。


乙一さんの8編からなる短編集。

実は乙一さんの本初めてで、よくメディアで聞く名前で今どきの作家のイメージだったので天邪鬼な自分はなんだか手にとる機会がなかった。

そして何かの機会にこの本を手にいれ、多分滲んだ文字の表紙デザインに惹かれたと思う。

読んでみたらあまりにも面白くレベルの高いセンスの良い作品ばかりで、なぜ読んでこなかったか後悔するほどでした。自分は本当にこう言うのが多い。流行り物を避けてしまう傾向が。

乙一さんはホラー小説寄りのものと切ないストーリーものがあって、それぞれ「黒乙一」「白乙一」と呼ばれ、今作は切ない話が多い、白乙一でした。

白乙一でもたまにゾクッとする描写もあり、乙一さんのホラーは怖いんだろうなと容易に想像できます。

これほど短編が面白いなら長編も、そしてホラーも楽しみです。

特に表題作の「失はれる物語」は数々の短編の中でも記憶に残るほどの衝撃を受けました。

自分の中では米澤穂信さんの「満願」の関守に匹敵するほど。短編の中では大好きな作品です。

そしてなんとも切ない。

その切なさが良い。



物語は、第一話「Calling You」
頭の中で電話ができるようになった主人公。
そこに自分と同じような頭の中で電話ができる北海道に住む少年がいた。
2人は頻繁に頭の中で電話し合う。
ただその電話には時差があった。1時間前の彼と話をしていた。
ある日2人は会おうと約束する。

第二話「失はれる物語」
交通事故にあった主人公は、気がついたら何も見えず何も聞こえず、唯一片手の皮膚の感覚だけがあった。ピアニストの妻が毎日そこに触れて、外界のことを教えてくれる。娘も段々大きくなったと。やがて毎日彼の腕を鍵盤に見立てて肌に触りながらピアノを弾いてくれるようになる。その皮膚の感覚から伝わる音楽から妻の心理がわかるようになる。次第に音楽は絶望的に。主人公は妻や娘のために、ある決心をする。

第三話「傷」
他人の傷や痛みを自分の体に移すことができる転校生の少年と暴力的な主人公。

第四話「手を握る泥棒の物語」
自分で設計した時計を量産販売するために、その資金を調達する理由からお金持ちのお婆さんが旅館に泊まっている時に、部屋の壁を掘って穴から手を伸ばしてお金を盗もうと思ったら、違う人の部屋に掘ってしまい、時計を落としてしまい、さらにその部屋には女性がいて気が付かれてしまった。

第五話「しあわせは子猫のかたち」
人付き合いの苦手な孤独に死ぬことを希望する男性が一人暮らしを始めると、その部屋には一匹の猫が住み着いていて、そして殺された女性の幽霊がいた。
二人と一匹の奇妙な生活。

第六話「ボクの賢いパンツくん」
小学生の僕をいつも助けてくれる物知りの白いブリーフのパンツくん
少年は大きくなってパンツくんはママに捨てられてしまう。


第七話「マリアの指」
鉄道自殺したマリアという女性の指を、猫が主人公のところへ持ってきた。
自殺現場ではある男性がその指を探していた。もし付き合うならその指に指輪をはめてきてほしいと約束したそうだ。一緒に指を探すにつれ、マリアは自殺ではなく殺されたのではと思うようになる。次第にそして犯人が身近な人間だと気が付きます。


第八話「ウソカノ」
空想で彼女を作ってしまった男子たち。



もちろん表題作の「失はれる物語」がすごく印象的だが、他の作品も素晴らしい。

喪失がテーマの物語たち。

何かを失った人たち。

悲しいけど、喪失って美しいですよね。

良い物語になる。

いろいろなジャンルを描いていて、幽霊物語、サスペンス、絵本、SFと乙一さんの
器用さと才能とセンスをまざまざと感じました。

ちょっと上手すぎて、ものすごい期待を持ってしまいましたが。

だってこの品質で長編書かれたら、もうその世界から戻って来れるでしょうか。

そんな物語の力を持った作家さんです。

ありえない要素もありながら結構リアルな世界も描いていて、現実の中にある闇というか裂け目から見える違和感がとても良い。

ダークさが滲み出ている。

今回は白乙一さんだったが、本領は黒乙一さんでしょうか。

ホラー全開の作品も読んでみたいです。

ただ、ちょっと上手すぎるのが心配。

ジェフリーディーバーの短編を読んだ時もそう思ったけど、上手いのは結構書く技術が先行してしまい、その物語にどっぷりハマれるかどうかがわからない。

早く他の作品も読んでみなくては。

今日はここまで。




今ここで、きみに言いたい。同封した写真を見て。きみはいい顔している。際限なく広がるこの美しい世界の、きみだってその一部なんだ。わたしが心から好きになったものの一つじゃないか。
/「失はれる物語」より







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