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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.197 読書 佐々木 譲「警官の血」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 佐々木 譲さんの「警官の血」(上下巻)についてです。

佐々木譲さんによる祖父親子3代に渡る警察一家の大河物語。

もうこれはサーガ(一家一門の歴史を系図のように描いた叙事小説)です。戦後まもない昭和から平成の今に至るまでの”時代”まで描いています。

サーガで有名なのはスターウォーズやゴッドファーザーや警察署長でしょうか。

一人の主人公の話より、より壮大な規模になり、時代の流れまで感じます。

祖父、親、子と一人一人のキャラクターが違い、同じ警察でも階級や違う部署に配属されていて、警察組織全体もわかります。

佐々木譲さんは道警シリーズなど警察小説の第一人者で、今作が一番警察組織とはなんぞやと歴史なども詳しく描かれいます。

そしてその警察官の時代の流れに、一つミステリーが横串されていて、ドキドキしながらページを捲るのが止まりませんでした。

戦後の時代の流れ、警察組織の内部、ミステリーと全てが詰まっており、警察小説の最高峰と言っても間違いないと思います。



物語は、戦後すぐ食べていくために警察官となった主人公。家族と共に谷中の駐在所に配属され、地元で愛される人情味のある警察官だった。

ある日近くの五重塔が火災にあったとき謎の死を遂げる。

その息子も父の跡を追うように警察学校の門をくぐる。

警察学校を卒業したところ、その能力と警官の血を見込まれて、大学生となって左翼運動の潜入操作を命じられた。

スパイ活動のような捜査に心身とも疲れ果てて、手柄を立てたので頼み込み、父の住んでいたところへ駐在として戻ってきた。

駐在所で勤務しながら、に自分の父親が気にかけていた2つの事件を独自に調べていく。

父が亡くなった日の写真に写っていた人物に驚くが、真相を明らかにする前に、人質事件の少女を救うために殉職してしまう。

またその息子3代目も警察官になり、組織暴力に配属されるが、警務部の指令で一人の捜査官の調査をすることに。

やがて祖父、父の死の真相に近づいていく。



3代に渡る警察官の話上下巻(上巻474ページ、下巻458ページ)と長いですが、またその長さが時代を綿密に描いていると思います。

特に祖父の時代が一番面白かったです。

戦後間も無くて、まだ警察組織もしっかりと組織だっていなく、軍隊から帰ってきた人間がすぐ採用され、警察学校で仲間と共に鍛えられ、卒業してバラバラに違う部署や地方へ行く。

時代が急速に変わっていくダイナミックさと、若い警察官の生き生きとした日本の治安を守ろうとする正義感が、とても眩しく感じました。

昔の駐在所って家族と一緒に住むんですね。まさに地域と密接に。


2代目の息子は、学園紛争の時代、成績優秀なので大学生の身分を偽って過激派の中に潜入捜査するのは、これはかなりキツい。

日本では表向きでは潜入捜査は聞かないが、徹底的に警察を調べ上げている佐々木譲さんならではの潜入捜査の物語に、すごくリアリティを感じとても怖かった。

その過酷な捜査のお陰で精神に傷をおってしまう。

3代目は大学を出て警察庁に入り組織内の腐敗を暴くスパイをさせられる。
そのお陰で、個人的に長年の謎だった祖父と父の死の真相へたどりつけた。

こうやってみると同じ警察官ですが、(祖父は駐在、父親は過激派に潜入捜査スパイ、孫は警察内部のスパイ)祖父の時代の地元密着の駐在さんが一番幸せかもしれません。

偉くなればなるほど組織の上の方へ行けば行くほど、純粋な正義で物事を判断できず、グレーなものになっていき、精神的にもキツくなる。

正義だと思っていた人間にも、グレーはある。

警察は正義と犯罪と白黒とはっきり分けなくてはいけないのが建前だが、やはり人間の組織、グレーの部分があることを佐々木譲さんは描いていますね。

グレーだからこそリアルで、リアルだからこそとっても面白い。

そして長い歴史の中で、三人の”警官の血”を感じさせる宿命のようなものが楽しかったです。

今日はここまで。



「おれたち警官は、境目にいる。白と黒、どっちでもない境目の上に立っている」
/P.455 「警官の血」下巻より 







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