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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.133 映画 ヤスミン・アハマド「タレンタイム~優しい歌 」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は映画 ヤスミン・アハマドの「タレンタイム~優しい歌 」 (2009/マレーシア)についてです。

マレーシア映画初めて見ました。

マレーシアといえば東南アジアの国で、首都クアラルンプールぐらいしか知りませんでした。マレーの虎などw

この映画を見て、マレーシアはマレー系、中国系、インド系と多民族国家ということを初めて知り、まただからこ民族間の問題でその若者たちの悩みや問題があることを知りました。

作品自体はマレーシアの若者たちを描く青春群像で”タレンタイム”と言う音楽コンクールを通して物語は進む。

アメリカの学園ものや、日本の学校青春もの、とは全く違い、

どちらかというと、台湾映画の「クーリンチェ少年殺人事件」を彷彿させるような

静かでリアルな作品でした。

自然光を生かした撮影、わざとらしくないある意味素人のような役者さんたち。

演出も静かで淡々と。

そんなリアリティの中だからこそ、民族間の争いや、恋、それを乗り越える人をつなぐ音楽に心を揺さぶられます。



物語は、マレーシアの高校が舞台。この学校で音楽コンクール”タレンタイム”の開催が決まる。出場するためにオーディションが開かれる。

イギリスとマレー系のハーフの女の子は歌とピアノが得意。無事にオーディションに合格。

彼女のレッスンの送迎にインド系で聴覚障害の男の子がバイクで送ることになる。

勉強もできてギターのうまいマレー系の男の子はお母さんが癌で病院にいてタレンタイムに参加しようか迷っている。

中国系の少年は胡弓で参加するがそのマレー系の男の子をライバル視している。

高校生の若者たちが、民族間の争いなどから争い悩みそして乗り越えていく等身大の姿を”タレンタイム”を通して描いていく青春群像。



ファーストシーン誰もいない教室。蛍光灯がパパパ、っとついて物語が始まる。

もうこの導入でやられました。

物語も自然光を使い、淡々とリアリティとユーモアを持って進んでいきます。

まるであの夢中になったホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンを彷彿させる。

そうちょっと90年代ぐらいのアジア映画を思い出しました。

聴覚障害のインド系の男の子がピアノのレッスンへ行くマレー系女の子をバイクで送迎するシーンはもうこれぞ青春映画というほどキュンキュンします。

耳が聞こえないのでコミュニケーションも取れない。

そして女の子のピアノも聞こえない。

そんな二人が段々と近づいていく。

ただインド系とマレー系の民族間の争いで家族が殺されてしまうことに。

もうロミオとジュリエットですね。



ギターのうまい少年と癌のお母さんとの話も良いですね。

癌の治療を受けているお母さんには彼女だけ見える車椅子の男性がいていつも話し相手になっている。

ちょっとファンタジーですがとっても愛らしい。



音楽コンクールというのが話のメインにあるため、そのコンクールの短い時間の中、若者たちが何を思い葛藤するのかが、凝縮されています。

そしてとても音楽に溢れ、歌がまた雄弁に語っています。

特にラストのギターのシーンは、この映画のテーマを、台詞や物語で語るのではなく、音楽で語っているところが素晴らしい。

ネタバレになるのでなにが起こるのかは伏せておきます。

民族間の和解が演出されています。



多民族国家の問題をここまで美しい青春映画に落とし込んだ監督の手腕に感動したところ、女性のヤスミン・アフマド監督はこの作品が遺作になってしまいました。

監督はとてもバランス良く、何も攻撃をしません。

もちろん、争いにちゃんと向き合って、それを隠さず描いています。

でも結局のところ、とても優しい目で一人一人の存在を見守っているようです。

冷静な目、優しい目、この両方を併せ持った稀有な監督が亡くなったのはとても残念です。

ラスト、教室の蛍光灯がパチパチパチと消えていきます。

その余韻とともにとても優しい温かいものが心に残りました。

今日はここまで。




「言葉は音を失う、墓場に向かう兵士のように」
ラストの曲「I Go」の一節
/「タレンタイム~優しい歌」より



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